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106.無慈悲な制裁

 神官長が大釜に入ってから数分後。

 既に奴の叫び声は途絶えており、何の反応もなかった。


「そろそろか。〈大釜の料理人(キルン・ズ・ドーベン)〉、釜の蓋を開けろ」


 白い影が、その異常に長い腕を伸ばして蓋を開ける。

 すると中から稲妻の形をしたメダルがゆっくりと浮き出てきた。


「……これは……」


 そういや神官長の奴、このメダルで雷の化け物に変身してたみたいだな。


「遠慮なく貰っておこう」


 【疑似太陽釜】の最大の特徴は、大釜で倒したプレイヤーの所持するアイテムを、ランダムで一つだけ取り出す事にある。


 いわゆる剥ぎ取り行為だ。


 その能力ゆえに、プレイヤーの間では忌諱されており、所持しているだけでもPKの対象となっていた。

 さらには【疑似太陽釜】を取得するクエストは超高難易度の期間限定クエストだったため、持っているプレイヤーは二十人にも満たないはずだ。


 そのことからも、俺は特定されることを恐れ、【疑似太陽釜】を使ったことは一度もなかった。

 

 だって全プレイヤーから狙われたくないからね……


「……」


 にしても、この世界では使う場面がないと思ってたけど、こういう時には便利だな。


「〈大釜の料理人(キルン・ズ・ドーベン)〉、大広間に戻るぞ」


 白い影は大釜に蓋をすると、それを担いで俺の下にやって来る。


「……」


 大釜からは何の反応もない。

 まあ、生きてるでしょ。


 俺は気を取り直して〈大釜の料理人(キルン・ズ・ドーベン)〉と共に大広間へと向かった。






 大広間では、ピアのスキルで生み出された黒点が未だに神殿を吸い込み続けていた。

 それでも残すは床だけとなっており、障害物が排除された今、丘全体が一望できる。

 

「やめてくだじゃあああああああああああああああああい!!!」


 絶叫が俺の耳に飛び込んできた。

 その方角に目を向けてみれば、セラーラが一人の精霊の頭をモーニングスターで吹き飛ばしている最中であった。


「びゅびゃばばばぁっ!!?」


 首が奇声を上げながら、ゴロゴロと丘の斜面を転がり落ちる。


「逃げられるとでも思っているのですか」

「……」 


 ……いやいやいや、逃げるも何も、お前が殴った勢いで吹っ飛んだんだろうが……


 心の中で突っ込んでいると、セラーラが転がる首に向かって何かを投げた。

 それは銀色の金串で、手から肘ほどの長さがある。


――ズビュ――


 嫌な音と共に、金串は鳥肉でも通すかのように蟀谷へと突き刺さり、頭を斜面に縫い付けた。


「い゛だゃぁあ゛あああいィいい、イ、イ゛、いいいいいいいいいい゛!!!」


 精霊は死ぬに死ねず、ただ苦悶の雄たけびを上げる事しかできない。


 しかもその周りには、同じように多くの精霊たちが首だけとなって金串で繋ぎ留められており、それはまるで巨大なコルクボードに数多の画鋲が刺さっているようであった。


「ぐる゛、じイ゛……」

「……ゴロ゛ジデ……」


 その者たちは一様にうめき声を上げており、死を懇願している。


「……」


 ……あの金串ってピアの武器だよね……借りたんだね……


「ぴぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!?」


 今度は別の方角から悲鳴が聞こえてきた。


 俺は恐る恐る顔を向けてみる。


「……惨い……」


 そこには多くの精霊たちが、頭の先から股の間まで一本の串を通され地面に突き立てられていた。


「……串刺し公ヴラド・ツェペシュかよ……」


 その中の一人、何十本もの針が体に打ち込まれた精霊を、ピアが蕩けそうな表情で睨め回している。


「……次はどこがよろしいでしょうか……」

「止めてくだじゃい!!! お願いじまじゅ!!! 何でも言う事を聞きまじゅ!!!」


 精霊は必死で命乞いをしているが、それがより一層と彼女の性癖を呼び覚ました。


「……美しい……あなた様は今、最高に輝いておいでです……」


 ――ジュブ――


 躊躇なく耳に針を突き入れる。


「ピぎゃあァあああアア゛ああぁあア゛ああああアああああァあ゛ああああア゛っあッアっ!!?」


 常軌を逸した悲鳴が丘全体に響き渡った。


「……嗚呼、心地よい声です……」


 ピアの顔がだらしなく緩む。


 その様子を見ていた周りの者たちは、自分には来ないでくれと、必死に胸中で願っているようであった。

 そんな彼、彼女たちの心を見透かしたかのように、ピアはその者たちへと笑顔を向ける。

 

「ご安心くださいませ。わたくしは贔屓など致しません。皆様方に、平等に苦痛を与えて差し上げます」


 精霊たちの表情が一瞬にして凍り付き、透かさず許しを願い出た。


「ごめんなさい!!!」

「謝ります!!!」

「私たちが愚か者でした!!!」

「何でもします! だから酷い事はしないでください!!!」


 その言葉を聞いたピアは柔和な笑みを浮かべる。

 それから艶めかしい口を静かに動かした。


「……何を仰られるのです……ここからがお愉しみです……」


 許しを請うた精霊たちへと無情にも針が投げられる。

 それは正確無比に、奴らの性器へと突き刺さった。


「イ゛ダだダダダダダダダダダダダダアダダぁ、あっ、あ゛っ、アッ!!!」

「ぎょみょおおおおおおおおお゛ォおおおおオぉおオオ゛!!?」

「も゛、う゛、や、め、でぇえ゛えッエッエ!!!」

「い゛ダい゛、い゛たイ゛、痛い゛、痛ぁあああ゛ああああアああああああああイっ!!!」


 喚き声を聞いたピアは、ますます顔を紅潮させる。


「……」


 ……やり過ぎじゃね……?


「ギャアああああああああああああァああ嗚呼ああああアア゛ッ!!!」

「じょほぼうぅうほうううううウううう゛ッ!!!」

「ぴゅにょおおおおおおォオオおおおおおお゛オオ゛っ!!?」


 ……意味不明な悲鳴があっちこっちから聞こえてくるよ……


「……」


 ……地獄を見せてやれと言ったのは俺だから、今さら止めろとは言えねえ……


「……」


 俺はゆっくりと目を閉じると、事が収まるのを静かに待つのであった。






 ようやくセラーラとピアの覚醒状態(エピファニー・モード)が終了した。

 その頃にはもうキャロラインが戻って来ており、俺は直ぐに虹の花を嗅がせ二人を目覚めさせた。


 無論、覚醒状態(エピファニー・モード)が終わる直前に精霊たちを完全回復させているから、奴らは誰一人として死んではいない。


 そして神殿も元通りになっており、俺は今、神官長が座っていた豪華な椅子に腰を掛けていた。


 その足元では、神官長が四つん這いになって俺の足置き台となっている。

 これはセラーラとピアが無理やりやらせた事で、断じて俺の意志ではない。


 ……趣味が悪いと思われるのが嫌だな……


 俺の前面では精霊たちが膝まづいていた。

 全員が顔を下に向けているが、小刻みに震えているところからして、脅えているのは明白である。


「自分たちが如何に愚かな行為をしたか、十分に理解したようですね。最初からその態度を取っていれば、地獄を見ずに済んだのです」


 俺の右隣に控えるセラーラは満足そうに奴らを見下していた。


「……わたくしはもう少し愉しみたかったです……」


 左隣に控えるピアは少し物足りなさそうだ。 


 そこで神官長が、俺を見ながら言葉を発した。


「……あ、あなた方ほどの実力者が、なぜキャロラインのような精霊の誓約者に……?」


 口を開いた瞬間、ピアの細く美しい指が奴の耳を引き千切る。


「あ゛ぎゃああああああああああああああああァアア゛っ!!?」


 神官長の顔が苦痛に歪んだ。


「その態勢を崩さないようにしてくださいませ。もし崩せば、次は鼻を削ぎ落とさせていただきます」

「……はぁいぃいい……」


 次にセラーラが口を開く。


「どうして耳を取られたか分かりますか?」

「……ぃ、いえぇええ……わかりまへぇえんん……」

「これだから虫けらは困るのです……」


 セラーラはゴミでも見るかのような目を神官長に向けた。


「いいですか、よく肝に銘じておきなさい。あなたは主様の足置き台なのです。足置き台が口を開くなど聞いたことがありません。ですが、あなたは口が付いている珍しい足置き台。喋るときは、許可が無ければなりません」


 神官長は高速で首を縦に振る。


「それからもう一つあります。私たちの妹であるキャロラインを呼び捨てにするだなんて、自分の身の丈を遥かに超えた愚かな行為です。様付けて呼びなさい、様付けで」

「……」


 神官長は俺の傍に立つキャロラインを見た。

 奴は自分よりも遥かに劣る精霊に諂うのは嫌なようである。


「どうしたのです? まさか呼べないとでも言うのですか?」

「と、とんでもないっ!!!」


 セラーラの重圧が神官長を従順にさせた。


「……キャ、キャロライン様……」


 次の瞬間、ピアの手刀が振るわれる。


「ぎュえええええェえええエエエええええええええ゛エ゛え゛え゛ッ!!!」


 奴の鼻がぼとりと床に落ちた。


「なんでぇええええええ!!? ちゃんと言う通りにじまじだぁあああああああ゛あ゛っ!!!」


 透かさずセラーラが蹴りを放つ。


「ごぼぉう゛っ!!!」


 つま先が神官長の土手っ腹に突き刺さった。


「誰が叫んで良いと言いましたか」

「!!!」


 奴は懸命に声を押し留める。


 その姿を見たピアが、うっとりとしながら言葉を紡いだ。


「……鼻を落とされた理由……それはあなた様が少しばかり動いたからです。今一度お聞かせてくださいませ。今のあなた様は何になっているのですか?」

「……うう、う゛う……あ、足置き台でずぅううううう……う、う゛う……」

 

 号泣しながら答えた神官長に、ピアは優しく話しかける。


「分かっていらっしゃるのでしたら、旦那様の足置き台としての誇りを持ってくださいませ」


 ……俺の足置き台の誇りって何なんだよ……


「偉大なる旦那様の足置き台は動きませんし、叫びもしません。ただただ愚直に心地よい足の置き場を提供する、それがあなた様に課せられた使命であり誇りなのです」


 ……誇りも何も、ただの物じゃねえかよ……


「これほどの栄光などありましょうか。その事を心に刻みこんでくださいませ」

「……ぴゃいぃぃ……」


 ……残酷過ぎる……


「……」


 ……神官長はもういいだろう……

 

 奴は完全に躾けた。


「……」


 ……それよりも、だ。他に調教しなければならない相手がいる……


 俺は大広間を見渡して、跪き脅える精霊たちに、凄みを利かせて言い放った。


「フランワージュ、マーシェリ、メニメニ、出てこい」


 あの三人はキャロラインを練習台とのたまいやがった。

 しかも奴らの様子からして、常日頃から虐めていたのは明らかだ。


 キッチリとけじめは付けさせてもらうぞ。






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