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102.お披露目

 一旦、高台を下った俺たちは、神殿が鎮座する丘の頂上を目指していた。

 そこまでは幅広の階段で整備されているため、道なき道を登るよりも断然歩きやすい。


 しかし今の俺は、それよりも気になる事があった。


「おいキャロライン。普段もこんなに精霊が多いいのか?」

「……ちょっとおかしい……いつもはここまでいない……」


 階段の端では多くの精霊が何をする訳でもなく立っている。

 彼らは押しなべて俺とキャロラインに侮蔑の視線を送っていた。

 

「……」


 ……見世物じゃねえぞ……


 下の方では少なかった精霊の数も、登るにつれて増えていく。

 それに比例するかのように、俺たちに向けられる暴言や中傷も酷くなっていった。

 

「……キャロラインのくせに誓約できるなんて生意気ね……」

「……誓約者もきっとポンコツだよ……」

「……でもあの人間……野望がそんなに感じられないわ……」

「……本当に誓約者……?」

「……インチキしたんだよ……」

「……能無しのキャロラインが誓約できるわけないもんね……」


 こいつら好き勝手言ってやがる……


 そう思った瞬間、俺の背筋が凍り付いた。


 原因は隠蔽(ハインディング)スキルで姿を隠しているセラーラとピアだ。

 二人は必死に怒りを抑えているが、それでも膨れ続ける憤怒はもう爆発寸前であった。


「……セラーラ、ピア……ここは我慢しろ……スキルが解除してしまう……」


 彼女たちの微かな殺気を敏感に感じ取った俺は小声で注意を促す。

 すると二人の気配が次第に小さくなっていった。


「……」


 ……危ねえ……あいつら感情的になると見境が無くなっちまうからな。

 ここは念を押しておこう。


「……セラーラにピアよ……俺やキャロラインがどれだけ罵倒されようとも、絶対にスキルを解除するな……」


 これで少しは安心か……

 

「……」


 しかし見たところ、精霊は女の方が多いいな……男もちらほら見えるが、比率は断然に女の方が上か。


「……相変わらずキャロラインは間抜けな顔をしてるわね……」

「……誓約者はちょっといい男だけど、どうせ中身はスカスカなんでしょうね……」

「……無能精霊の誓約者だよ。無能に決まってるじゃないか……」

「……役立たずと役立たずのコンビか……すぐに精霊選戦から脱落するよ……」


 ……ちっ……鬱陶し過ぎる……

 ……俺のヘイト値が溜まる前にさっさと行こう……


「キャロライン、ペースを上げるぞ」

「……うん……」


 俺は彼女の手を引き足早に先を進んだ。






 階段を上り切った俺たちの目の前に現れたのは、荘厳な神殿であった。

 無論、そこにも多くの精霊が待ち構えており、方々で陰口を叩き始める。


「……」


 ……はぁ、嫌になるね……


 俺がうんざりしていると、神殿から三人の女精霊が出てきた。

 そいつらは薄ピンク色の祭服に身を包んでおり、一目見ただけでここの関係者だと分かる。


「驚きました……あのポンコツが本当に誓約者を連れてくるとは……」

「さっさと脱落すればいいものを……」

「フェレーアンの恥を晒すようなものです……」


 ……こいつらもかよ……


「仕方ありません……付いてきなさい……」


 三人の女精霊は面倒くさそうに俺たちの案内を始めた。


「……」


 ……何なんだよ……ここまで苛ついた事なんてここ最近ねえぞ……

 ……いや、今まで生きてきた中で一番かもしれん……


 俺は自分の中に湧き上がる怒りの念を抑えながら、しぶしぶ彼女たちの後を追った。


 神殿の廊下はとても幅広く、中央には赤い絨毯が敷かれていた。

 もちろん両端には俺たちを馬鹿にする精霊たちでごった返している。


「……」


 ……大概にしろよな…… 


 そして少しばかり進んだところで巨大な空間へと行き着いた。

 そこは大広間のようであり、扉は既に解放された状態で中の様子がはっきりと窺える。


「……」


 ……あれが神官長か……


 大広間の奥まで伸びた赤い絨毯、そのさらに奥に、偉そうなおっさんが豪華な椅子に座って踏ん反り返っていた。

 そいつはつるっぱげだが頭頂に一本だけピンク色の毛が立っている。


「……」 

 

 ……コメントのしようがねえ……


「感謝しなさい。無能な貴方たちのために、神官長様は貴重な時間を割いてくれたのです。くれぐれも無礼の無いように振る舞いなさい」

「……」


 ……どう見ても怪しいおっさんだが、人を見かけで判断してはダメだ……

 

「何をしているのですか、早く行きなさい」

「はいはい、分かりましたよ」

「なんですかその態度は!」

「こりゃ済んませんね、何せ無能なもんで……行くぞキャロライン」


 女精霊は射殺すような視線をこちらに向けてきた。

 そんな彼女を無視して俺とキャロラインは赤い絨毯の上を進む。


 言うまでもなく、大広間では俺たちを馬鹿にするため多くの精霊が集まっており、全ての者が侮りの視線をこちらに向け悍ましく哂っていた。


 その中に、フランワージュ、マーシェリ、メニメニの姿が見え、彼女たちは愉悦に浸っている。


「……」


 ……やはり居やがったか……

 ……俺たちの事を触れ回ったのはこいつらで間違いない……


 ……そこまでして人をバカにしたいのかよ……


「……」


 まあいい。さっさと挨拶して撤収だ。


 俺とキャロラインは神官長の少し手前で立ち止まった。


「お初にお目にかかる。俺の名はトモカズ。キャロラインの誓約者となった者だ。よろしく頼む」


 俺はハッキリとした口調で挨拶を述べる。

 しかし神官長は信じられないといった顔で俺たちを見ていた。


「……フランワージュの言っていた事は本当だったのか……キャロライン、まさかお前が誓約できるとは……」

「……」


 ……神官長……あんたは精霊を束ねる立場だから、長たる者、もちろん平等に見てくれるんだろう……?


「……ポンコツ精霊め……さっさと脱落すればいいものを……お前のダメっぷりが他の庭にまで広まるではないか……」

「……」


 ……信じた俺が馬鹿だったよ。

 こいつも他の奴と同じで性根が腐ってやがる。


「……しかしどうしてキャロラインが誓約できた……?」


 神官長の興味がこちらに移った。

 奴は目を顰めて俺を値踏みする。


「……むう……確かにキャロラインと誓約をしている……」


 見ただけで俺とキャロラインが誓約しているかが分かるのか。

 気に食わない奴だけど、神官長と言うだけはあるな。


「……だが、お前は見たところ野望が小さいようだ。どうやってキャロラインと誓約を交わした? あいつの実力では到底無理なはず」


 尋ねられた俺は胸を張って答える。  


「決まってるじゃないか。本人が頑張ったからだよ」

 

 その言葉にキャロラインは嬉しそうな表情を浮かべた。


「……信じられん……頑張った程度でどうこう出来るはずがない……」


 神官長は思いっきり顔を顰めて怪しんでいる。


「……お前、何かしたな……?」


 はい、ドーピングしました。


「神官長さんよ。何がどうあれキャロラインが俺と誓約を交わしたのは事実だ」

「……むう……」

「という訳で、お披露目は済んだ。帰らせてもらうよ」


 これ以上ここにいる必要はない。

 こいつらの顔を見てると吐き気がする。


「待て、一つ相談がある」


 神官長が唐突に話を持ち掛けてきた。


「キャロラインはフェレーアンの庭が始まって以来のダメ精霊だ。このまま精霊選戦に参加し続ければ、その無能振りが他の庭に知れてしまい、恥を晒してしまう。今ここで棄権しろ」


 馬鹿かこいつは。そんなもん、やってみないと分からないだろ。

 しかも命令口調で相談とか言うんじゃねえよ。


「おっさん。俺たちは棄権なんてしない」


 まあ、俺も中身はおっさんですけどね。


「貴様! 神官長様に向かっておっさんとはなんだ!!!」

「口の利き方に気を付けなさい!!!」


 神官長の傍に控えていた者たちが、顔を真っ赤にさせ激しく捲くし立てた。


「あー、はいはい。じゃあな」


 俺は適当にあしらって立ち去ろうとする。


「待つんだ! キャロラインはフェレーアンの庭にとって必要なのだ!!!」


 その言葉で俺の足が止まり、直ぐさま神官長の方へと体を向けた。


「……なんだよそれ……必要ってどういうことなんだよ……」


 俺は眉根を寄せて訝しむ。


「誓約者のお前なら聞いていると思うが、精霊選戦を脱落した精霊は【臣従の房】に入れられる」

「……ああ、知ってるよ。それがどうしたってんだ」


 神官長は口角を上げ言葉を続けた。


「【臣従の房】は、それぞれの庭ごとに配備されている。簡単に言うとだな、庭の数だけ【臣従の房】が存在するのだ。そうなると、もちろん【無能の部屋】も庭の数だけ存在する」

「だから何なんだよ」


 苛つき始めた俺を見て、神官長の顔がより一層と醜く歪んだ。


「教えてやろう。最底辺の一の部屋、【無能の部屋】の定員は一名だけだ」

「……一名だけ? という事は……」

「そうだ。貴様の考えている通り、ポンコツのキャロラインさえそこに入れば、精霊選戦に参戦したフェレーアンの庭の精霊たちが無事でいられるのだ」

「……」


 ……それってキャロラインを人柱にするってこと……?


「だからこそ、キャロラインはこのフェレーアンの庭に取っては必要な精霊なのだ。理解してくれたか?」

「……」


 ……おいおいおい、ふざけてんのか……?

 ……散々キャロラインを虐め抜いた挙句、【無能の部屋】にまで入れようとしてたのかよ……


「……」


 ……さすがに黙ってられねえぞ……


 俺の怒りが頂点に達しようとしたその時、キャロラインが上目遣いで訴えてきた。


「……私はいいの……もう行こう……」


 その瞳には溢れんばかりに涙が溜まっており、今にも零れ落ちそうだ。


「……」


 ……そうだよな……辛かったよな……今も我慢してるんだよな……


「……分かったよキャロライン……こんな胸糞悪い場所に一秒でも居る必要はない。さっさと行こう」


 俺はキャロラインの手を握ると、踵を返して来た道を戻る。

 その様子を見た神官長は、必死になって説得を始めた。


「いいか、よく聞くのだ!!! そんなゴミ精霊と精霊選戦に参加すれば、お前は必ず命を落とす!!!  今ここでキャロラインを切れば助かるのだ!!! こちらも無能が処分出来る! お互いに取って利益しかない!!! 悪いことは言わん、棄権するんだ!!!」

「……」

 

 神官長の言葉でキャロラインの顔が不安の色に染まっていく。


「心配するな、お前は俺の娘となった。見捨てるなんて有り得ない」

「……」

 

 それでも彼女の不安が和らぐ事はなかった。

 なぜならば、精霊たちの悪意が大広間全体に満ちており、その矛先がキャロラインに向けられていたからだ。


「早く【無能の部屋】に行けよ!!!」

「お前ひとりが犠牲になればいいんだ!!!」

「さっさと居なくなれ!!!」

「ポンコツのお前には【無能の部屋】がふさわしいんだよ!!!」

「処分されろ!!!」

「消えろよポンコツ精霊!!!」


 罵詈雑言を浴びせられる中、俺たちは足早に出口へと向かう。


「……」


 ……こいつら本当にどうしようもないな……


 俺が呆れ果てたその時、罵声以外の言葉が耳に入って来た。


「何だお前たちは!!?」


 どよめきが大広間を支配する。


「いつからそこに居る!!?」

「何者だ!!!」


 精霊たちの視線は俺の背後に向けられていた。

 俺自身もつられて後ろを振り返る。


 するとそこには純白の祭服を身に纏った少女と、清純さと妖艶さを併せ持つ白髪の少女、二人の美少女の姿があった。


「は……?」


 ……ちょ、ちょっとお二人さん……何でスキルを解除してるの……?


「えっ!!?」


 直後、俺は気づく。


 セラーラとピアから異常な殺気が溢れ出していることに。

 

「……」


 ……精霊たちの悪意が強すぎてまったく気づかなかった……


 ……しかもセラーラとピアの剣呑とした雰囲気……

 ……この俺でさえも話しかけるのに躊躇するレベルだ……


「……ピア……」

「……はい、セラーラさん……」

「……私が言いたいこと、分かりますよね……?」

「……もちろんです……」


 彼女たちの全身が仄かに輝きだした。

 そして次に、ハート形の紋様が額に浮かび上がる。


「え」


 突然の事態に俺は固まった。


「……準備はよろしいですか……?」

「……はい……いつでもゴミムシを殺処分できます……セラーラさんはどうでしょうか……?」

「……私も大丈夫です……ではさっそく、主様と私たちの妹を侮辱する汚物に鉄槌を下して差し上げましょう……」


 こいつらぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!


 なんでまた覚醒状態(エピファニー・モード)を発動させてんだよ!!!

 ねえ!!!

 俺の説教聞いてたのっ!!?






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― 新着の感想 ―
[一言] 精霊たち腹立つなって思ったけど、セラーラとピアでキッチリオチをシメやがったw
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