表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/279

99.三つの言い付け

 キャロラインが廃人になった。


 彼女の正気を取り戻すため、俺は様々な手を使って覚醒を試みた。

 治療効果のあるモブ精霊や、チェームシェイスの治癒スキル、パーシヴァリーの聖騎士スキル等々。


 それでもキャロラインは抜け殻のままだったので、最終的に秘蔵の回復アイテムの使用を余儀なくされた。


 その回復アイテムは【万能の霊薬】と言い、ありとあらゆる状態異常を無効化させて、どんな致命傷でも一瞬で治してしまう、乙女精霊サーガの舞台である(なかば)世界の中でも最上級の薬だ。

 

 もちろん手に入れるのは困難であり、希少価値はめちゃくちゃ高い。


 当然、セラーラとピアにも【万能の霊薬】を試してみたが、結果は言うまでもないだろう。


 そりゃそうだ。

 あいつらは病気や怪我じゃないからな。

 ましてや状態異常でもない。

 効く訳ないわな……


「……」


 ……しかしだな……また【万能の霊薬】を使うとは……

 ……本音を言うと使いたくねえ……

 ……だってそんなに持ってないし、超レアアイテムなんだぜ……


 そうは思うものの、使わない訳にはいかない。

 俺はしぶしぶ在庫目録(インベントリ)から豪華な小瓶を取り出した。

 それを半開きになったキャロラインの口に当てて、中の液体を流し込む。


 すると彼女は直ぐさま意識を取り戻した。


「……う……うぅ……」


 ……さすがは【万能の霊薬】……一発で正気にさせやがった……


「……こ、ここは……?」


 キャロラインの視界にパーシヴァリー、エルテ、チェームシェイス、アプリコットの姿が飛び込んでくる。


「……ぃゃ……いやぁああああアァあああ嗚呼ァアあア!!!」

「……」


 ……完全にトラウマになってます……


「針が!!! 三本の針が迫ってくるぅうウうゥ゛ううううう゛ウうう゛う゛!!!」


 キャロラインは頭を振り回して絶叫した。


「……」


 ……こりゃいかん……錯乱してるよ……


「こっちを見るんだキャロライン」


 俺は彼女の両肩を掴み、強引にこちらへと向かせる。


「お前は誓約を完了させたんだ」

「……え?」


 キャロラインの動きがピタリと止まった。


「そうだキャロライン。お前はやり遂げたんだよ、誓約を」

「……」


 彼女は涙目でじっと俺の顔を見詰めている。


「しかも一分だ。あのべリアムドよりも早く誓約を完了させたんだ。野望が小さいこの俺とな……」

「……ほ、本当……?」

「ああ、本当だとも。もうお前はポンコツじゃない。自信を持て」


 俺の言葉にキャロラインは、泣きそうになりながらも笑顔になった。


「素晴らしかったのだ。私は感動した」

「自分の限界をあっさりと超えるなんて、さすがはボクたちの妹だよ」

「誇るが良いぞキャロライン。見事なり」

「凄すぎて興奮しちゃいました!」


 乙女精霊たちが口々に彼女を讃える。


「……あ、ありがとうございます……」

「……」


 ……さっきは四人を見て発狂したが、今は大丈夫みたいだぞ……

 ……どうやら記憶が曖昧なようだ……


「……」


 ……これは僥倖だ……

 あの事には触れないでおこう……また錯乱されても困るからな……

 

「……」


 だが、本能に刷り込まれているな。

 敬語になったところから見ても、乙女精霊たちに恐怖心を抱いているのは間違いない。


「これからは私たちのことを姉と呼ぶがいい」

「……は、はい……パ、パーシヴァリー姉さま……」

「良くできた、キャロライン」


 パーシヴァリーは満足そうに頷く。


 それを羨ましく見ていたアプリコットが自分も、と彼女に催促をした。


「キャロラインちゃん、私も呼んでください!」

「……はい……アプリコット姉さま……」


 アプリコットの頬がだらしなく緩む。


「凄く良いです! キャロラインちゃんは最高です!」


 アプリコットはキャロラインを抱き締め愛おしく頭を撫でた。


「これからは困った事があったら何でも言ってください! 私たちは姉妹です! 遠慮はいりません!」

「……は、はい……」


 キャロラインも満更ではなく、恥ずかしいのか頬を赤らめている。


 その様子を他の乙女精霊は温かい目で見守っていた。


「……」


 まあ、あいつらは優しいからな。

 この先も上手くやって行けるだろう。


「……」


 ……て言うか、なんでキャロラインが七人目の姉妹になってるんだ?

 一つも俺にお伺いがないんですけど……


 そこのところについて言及しようとしたそのとき、エルテが笑顔で口を開いた。


「これで精霊界に行けるね。早くセラーラちゃんとピアちゃんを目覚めさせようよ」


 おっと、そうだった。

 先ずは二人の復活が最優先だ。


「キャロちゃん。早速みんなで精霊界に乗り込むよ」


 その言葉にキャロラインの表情が険しくなる。


「……私の力では、誓約者を入れたら三人しか連れていけない……」

「そうなのか?」

「……うん……ごめんなさい……」

「……」


 ……という事は、精霊界に行けるのは全部で四人か……


 俺とキャロラインは当然として、虹の花は精霊界から持ち出せないから、あとはセラーラとピアで確定だな。


 そう考えていると、エルテが無慈悲な言葉を言い放った。


「キャロちゃんなら大丈夫だよ。さっきみたいに限界を超えて、みんなで一緒に精霊界に行こうよ」

「え?」


 キャロラインの表情が一気に蒼褪め、ぶるぶると小刻みに震えだす。


「うむ、おぬしならやれる!」

「頼んだのだキャロライン!」

「お願いします! キャロラインちゃん!」

「……」


 いや待てよ!!!

 もう無理だろ!!!

 それにさっきの事を思い出しちまうじゃねえか!


「いい加減にしてやれ。精霊界に行く者は俺とキャロライン、そしてセラーラとピアだ。これは決定事項だ」


 キャロラインよ、今度はしっかり守ってやるからな。


「……分かったのだ。マスターがそこまで言うのなら、私たちはその意に従うのみ」

「師匠の言う事は絶対だもんね」

「我が君の考えは我らの考えだからな」

「ご主人様はいつも正しいことしか言わないです!」


 強く言ったお陰か、彼女たちは素直に引き下がってくれた。


「……」


 ……それは嬉しいんだが、お前らちょっと盲目過ぎやしない……?


「……助かった……」


 一方で、キャロラインはホッと胸を撫で下ろしていた。


「……」


 ……これはこれで良いんだが……別の問題が発生するんだよな……


 それはパーシヴァリーたちを置いて行く事だ。

 今までの経験からして、乙女精霊たちを放置するのは非常にまずい。

 絶対、暴走するに決まってる。


「……」


 あいつらの身勝手な行動を防ぐには、約束事を決める必要がある。


「お前たち。俺はキャロラインと共に、セラーラとピアを連れて精霊界へ向かう。その際、俺が居ない間の注意事項を言うからしっかりと肝に銘じておけ」


 俺が真面目に話し出した事で、四人は直ぐさま真剣な表情を作り、背筋を伸ばして耳を傾けた。


「先ず一つ目。単独行動は取るな。何らかの用事で活動するときは、常に誰かを連れて行くんだ」


 アプリコットの件があったからな。

 ゼクトが処刑されそうになったとき、あいつは一人で助けに行った。

 いま考えれば危険極まりない行為だ。


 パーシヴァリーも一人でレンドン城に攻め入った。

 まあ、強かったから事なきを得たが、一軍を相手に一人で立ち向かうなんて非常識すぎる。


「……」


 ……だが今回は違う。


 人材が増えた。それに手練れも多いい。

 カセットラフを含めたエルフたちに、不死鳥騎士のアクセル。

 他にもゼクトを筆頭とした冒険者たちもいる。


 以前とは陣容が変わっているから、少しは安心できるぞ。


「二つ目。領主側には手を出すな。奴らの行動を監視するだけに留めておくんだ」


 乙女精霊たちの事だ。

 釘を刺しておかないと絶対に暴走する。

 ここまで明確に指示しておけば大丈夫だろう。


「三つ目、これが最後だ。覚醒状態(エピファニー・モード)は絶対に発動させるな。発動させる場合は、自分の命が本当に危険だと感じた時だけだ。これは厳命だ」


 精霊界から戻ってきたら、別の者が覚醒状態(エピファニー・モード)を使って眠りにつきました、では洒落にならない。


「……」


 ……でも、やっぱり不安は拭えない……


「承知した、マスター!」

「了解だよ、師匠!」

「その言葉、しかと胸に刻み込んだぞ、我が君よ!」

「分かりました、ご主人様!」


 四人の乙女精霊は元気よく返事をした。


「……」


 ……こいつらを信じるか……


「……では、今からカセットラフに説明をしに行く。それが終わってから精霊界に出発するぞ」


 いきなり俺が居なくなったらカセットラフたちが驚くからね。


「それは我らの方で伝えておく。我が君は直ぐにでも精霊界へ行って、セラーラとピアを目覚めさせて欲しい」

「後の事はボクたちに任せて」

「そうなのだ、安心して行ってくるのだ」

「お姉ちゃんたちの元気な姿が早く見たいです!」

「……」


 ……俺の娘たちよ……なんて優しいんだ……その姉妹愛、とても誇らしく思うぞ……

 

「……分かったよ……そこまで言うなら今すぐ精霊界に行ってくる」


 四人の乙女精霊たちは一斉に首肯する。


 それを確認した俺も頷き返し、ベッドに寝かされているセラーラとピアを担いだ。


「それでキャロライン。精霊界の場所と、移動までの掛かる時間を言ってくれ。旅支度をしないといけない」

「……大丈夫……直ぐに着くから、そのまま立ってて……」


 キャロラインが俺に抱き着いてくる。


「……今から精霊界に跳ぶ……」


 その言葉と共に、俺とキャロライン、そして担いでいるセラーラとピアの身体が透け始めた。


「おお……透明になるのか……?」

「……違う……精霊界に移動しているだけ……」


 なんだかよく分からんが、そんなに時間を食う訳でもなさそうだな。


 それに直ぐにでも帰って来れそうだ。

 何せセラーラとピアに花を嗅がせて神官長に会うだけだし。


「お前たち。やることは単純だから、一日二日ほど留守をする。その間の事は任せた」


 消えゆく俺に、少女たちが別れの言葉を告げてきた。


「マスター、気を付けて行ってくるのだ」

「師匠、頑張ってね!」

「我が君よ、二人を頼んだぞ」

「ご主人様、よろしくお願いします!」


 こうして俺は、四人の乙女精霊たちに見送られて、精霊界へと赴くのであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ