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97.七人目の姉妹

「キャロちゃん。さっそく師匠と誓約を交わしてよ」


 エルテに促されたキャロラインは、透き通るような指で俺の手を握る。

 途端、彼女の表情が強張った。


「……え……思った以上に野望が小さすぎる……?」

「……」

 

 ……失礼な、俺にも偉大な野望はあるよ。

 育て上げた六人の乙女精霊たちと、何の悩みも無くスローライフを過ごすって野望がね……


「……無理……私では誓約が難しい……」


 俺の野望が小さすぎたため、キャロラインはやる前から断念していた。


「キャロちゃん、野望が小さいからって諦めちゃだめだよ」

「そうだ、エルテの言う通り。それがどうしたと言うのだ」

「キャロラインよ、おぬしの覚悟はその程度なのか?」

「キャロラインちゃんなら必ずご主人様と誓約ができます!」

「……」


 乙女精霊たちに励まされて、キャロラインは再び意を決する。


「……分かった……やるだけやってみる……」


 ところがそこで、パーシヴァリーがとんでもない事を口にした。


「一分で済ませるのだ」

「……え……?」


 キャロラインの目が大きく見開かれる。


「そんなに驚くことじゃないよ。気合が入った今のキャロちゃんなら全然へっちゃらだよ」

「うむ、何も怖がることはないぞ」

「大丈夫! きっと一分で誓約を完了できます!」


 ……こいつら無茶苦茶だよ……

 野望が小さい者と誓約を交わすこと自体が難しいって言ってんじゃねえか。

 しかも一分で終わらせろとかって……


「……私にそんな力はない……一分なんて絶対に出来ない……」


 ほらみろよ。

 ここはキャロラインのペースでやらせてやれよ。


「分かっておらぬなキャロライン。おぬしの我が君に抱く愛があれば、簡単に乗り越えられるであろうに」

「そうだよキャロちゃん。君はもうボクたちの妹。ということは、余裕で出来るはずだよ」


 ……は……?

 ……チェームやエルテは何を言ってるんだ……?


「其方は私たち姉妹の末席に加わるのだ。それくらいのことが出来ないでどうする」

「キャロラインちゃんはご主人様の七番目の乙女精霊になるんですから、頑張らなきゃダメです!」


 おいおい待てよ!!!

 なんでそんな事になってんだ!!?

 

 キャロラインも、え、何の話? ってキョトンとしてるじゃねえかよ!!!


「さあキャロライン、早く誓約とやらを始めるのだ!」


 パーシヴァリーは強引に推し進めようとする。


「……誓約を完了させるのは、普通の高位精霊でも一日……あのぺリアムドでも一時間……そして私は半年……それを一分って……」


 自信がないキャロラインは二の足を踏んだ。


「やってみないと分からないです!」

「そうだよキャロちゃん! 何事も挑戦だよ!」

「時間は限られているのだ! グズグズしている暇はない!」

「うむ! 早急に我が君と誓約を結ばねば、おぬしは明日にでも精霊界に送還されるのだぞ!」

「……」


 乙女精霊たちに背中を押され、キャロラインは重い腰を上げる。


「……分かった……無駄だと思うけど、やってみる……」


 彼女は俺の手を強く握りしめた。

 すると、不思議な何かが微量ではあるが流れ込んでくる。


 ……何だこれ……


 しばらくの間、乙女精霊たちが見守る中でそれは続いた。






 結果、誓約はできなかった。


「……ハァハァ……」


 キャロラインは疲れ切っており、肩で息をしている。


「……やっぱり私じゃ出来ない……」


 その言葉に乙女精霊たちが豹変した。


「……其方、ふざけているのか……?」

「……え……?」


 パーシヴァリーの底冷えした声にキャロラインは驚愕する。

 

「……ど、どうしたの……?」


 恐る恐る聞き返したとき、怒気を孕んだエルテの言葉が彼女に向けられた。


「……それはないよ、キャロちゃん……全然頑張ってないじゃない……」


 チェームシェイスも不機嫌な表情で口を開く。


「……おぬし、死ぬ気でやっていないな……?」


 アプリコットすらも露骨に嫌な顔をして言葉を投げた。


「……頑張りが全然たりないです……」

「……」


 四人に詰められたキャロラインは戦慄する。

 そして身の危険を感じたのか、再度、誓約を試みることにした。


「……わ、分かった……もう一回やってみる……」


 再び俺の手を握って何かを流し始める。


「……くっ……ううっ……」


 彼女は額に汗を噴き出し懸命に頑張った。


 しかし、誓約とやらは一向に出来そうもない。

 

「……う、ううっ……」


 そうこうしていると、直ぐに限界を迎えた。


「……もうダメ……ごめんなさい……」


 キャロラインが俺の手を放そうとする。


「ここで諦めるな!」


 パーシヴァリーの綺麗ながらも力強い声で、彼女の手が止まった。


「キャロちゃん! ここが踏ん張りどころだよ!」

「おぬしなら限界を超えられる!」

「負けないで、キャロラインちゃん!」


 続いて三人の乙女精霊も声援を送る。


「……」


 勇気づけられたキャロラインは、顔を真っ赤にさせ再び力を振り絞った。


「……くぅううう……」

「……」


 それでも誓約する気配は微塵も見えない。


「……もう無理……」


 彼女が諦めかけたその時、乙女精霊たちがとんでもない暴挙に出た。


「……仕方ない……荒療治になるが、これもまた其方の為。チェーム、頼んだ」

「うむ、我に任せよ」


 チェームシェイスがキャロラインの肩を掴み、スキルを発動させる。


「魔法スキル、〈雷陽(オルベア)の槍〉」


 何を思ったのか、彼女に電撃を流し込んだ。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!?」


 おいおいおいおい!

 これは高位の雷魔法スキルじゃねえか!!!


「チェーム! お前なに考えてんだ!」


 俺の心配を余所に、チェームシェイスは平然と答える。


「我が君よ、案ずることはない。キャロラインに発破をかけているだけだからな」

「……発破って……やり過ぎだろう」

「そこも問題はない。何せこやつは雷属性の精霊。これくらいの雷魔法スキルを使わねば刺激にはならぬ。それに治癒スキルも同時発動しておるから、何ら心配はない」

「……」


 ……それならいいんだけどさ……


「……」


 ……全然関係ないんだけど、キャロラインを伝って俺にまで電撃が来てるんですけど……

 ……まあ、雷耐性がMaxだから構わないけど……その辺り分かってやってんの……?


「さあキャロライン! 其方の本当の力を見せてみるのだ!!!」

「おねぎゃい!!! なんでもじゅるから許じてぇえええええええ!!!」


 ここに来て、彼女は初めて大声を出した。


「ならぬ! 誓約を済ませるまでは電撃を流し続ける!!!」

「キャロちゃん!!! ここで死ぬか、後で死ぬか、それとも今を乗り切って明日を生きるかは君の頑張り次第だよ!!!」

「キャロラインちゃんは私たちの姉妹です!!! 絶対に出来るはずです!!!」


 ……残酷すぎる……が、仕方ない……

 これもセラーラとピアを目覚めさせるためだ……


「や゛、め゛、でェええええええ゛え゛ええ゛え゛エえ゛え゛!!!」


 痛みに耐えかねたキャロラインが、強引にチェームシェイスを振り払おうとする。

 しかしがっちりと掴まれた肩は尋常でない力で抑えつけらており、身動き一つ取れなかった。


 俺も心を鬼にして、キャロラインの手を強く握り逃がさないようにする。


「い゛や゛あ゛アあああぁああァあアアああああ゛あ゛あ゛!!!」


 それから少しの間、彼女は発破という名の拷問に晒された。

 そして自分の状況を死ぬほど理解する。


 誓約をしなければ、この地獄からは抜け出せないと。

 

「も゛、う゛、い゛、や、だァアあァあああ゛あァ嗚呼ああ゛ああアァあぁあああア゛!!!」


 血走った眼を俺に向けると自分の限界以上に何かを流し始めた。


「ぎぃ゛い゛いいいィい゛イいいいいいいいぃイ゛いい゛いいいいいいィイいいいいい゛!!!」


 キャロラインの可愛らしい顔が鬼気迫る形相となり、額には数多の血管が浮き出てくる。


「……」


 ……すげえ……

 ……これぞ死ぬ気で頑張るってやつか……


 俺が感心したその瞬間、何かが体に定着し始めた。

 次にほんのりと全身が輝きはじめ、次第に収束していく。


「お? なんか上手くいったみたいだぞ」


 その言葉でチェームシェイスはスキルを中断させた。


 と同時に精魂使い果たしたキャロラインは、両手両膝を床に付け、下を向いて苦しそうに呼吸をする。


「マスター、どんな具合なのだ?」

「誓約を完了した、って感じはしないけど、ちょっとずつ何かが流れ込んでいるな。このまま時間が経てば誓約出来るんじゃないのか?」


 死にそうなキャロラインが、蒼褪めながらも顔を上げた。


「……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……ご、ごれがら半年間ぐらいたてば、トモカズは私の誓約者……げほっ、げほっ」


 ……完全に限界を超えたな……よくやったぞ、キャロライン。これは褒めてやらないとな。


 俺は賞賛の言葉を贈ろうとした。

 ところがその前に、パーシヴァリーの無慈悲な宣告が彼女を襲う。


「キャロライン、もう一度やるのだ」

「……へっ……?」


 彼女は頭を真っ白にさせ唖然とした。


「マスターを一分で誓約者にしろと言ったではないか」

「そうですキャロラインちゃん! もう一分経ってます! でもご主人様は誓約者になっていません!」

「チェームちゃん、今度はもっと強烈なスキルを使ってよ」

「うむ。キャロラインの為に、我がもう一肌脱ごう」


 乙女精霊たちの非情な言葉でキャロラインはどん底へと叩き落される。


「……いや……いやぁああああああああァアア゛あああああ嗚呼嗚呼嗚呼ァアああああ゛!!!」


 悲痛な叫びがバンジョーナ城塞の外まで響き渡った。


「……」


 ……鬼かよ、お前ら……






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[一言] キャ、キャロライーーーン!?(ク□コダ○ンみたいに叫ぶ
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