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第6話:いざ大清掃

どもどもべべでございます!

これもまた冒険ですよ? 小さな少年にとってはね!

というわけでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~

 

「……臭い……」


『そうだな』


「汚い……」


『そうだな』


「目、痛い……」


『……やめるか?』


「やめない……」


 ギルドを出てから、二刻ほど経過した現在。お昼時。

 俺たちは、グランアインの町にあるスラムにいた。今回受けた依頼、【スラムの大清掃】を遂行するためだ。

 スラム……いわゆる貧民街だが、規模はそこまで大きいものではない。

 しかし、忌々しい事に肥える者あれば飢える者がいるのが社会の常。理不尽かはたまた自業自得かはともかくとして、割を食ってしまった者たちが集まった区画がここである。


 石造りの家々、小さいながらも機能している井戸。退廃的な雰囲気こそさほどしないものの、行き交う人々の身なりは残念ながら満たされている者のそれではない。

 皆が皆、今日を生き延び明日を目指すために、己の持つ全てを賭けて生活し続けているのだ。

 現在は朝市がお開きになり、後片付けが所々で始まっている。少しでも長く居座って儲けようとする輩もいるが、いつ生まれたかもわからず、日に当たりすぎた鶏卵を買おうとするものはもはやいないと思う。


 さてこのスラムだが、よくよく見てみれば、居住区はまったく汚れていないのがわかる。

 まぁ当然だな。自分達が住んでいる空間が汚れていたら、誰しも嫌悪するものである。

 では、どこを清掃する必要があるのか?


「……手袋貰えて良かったです。こんなに汚いトイレ、直接は触りたくないですもん」


『そだなぁ。普通は嫌だよな』


 そう、公衆便所だ。

 このスラムには、合計で10の公衆便所が設置されている。その内の3つが、今回指定された清掃部分である。


『今回指定されている公衆便所は、全部酒場の近くに設置されたものだ。だから、使用する奴らってのは大体が泥酔した奴らなのさ。そんな奴らがまともに便所を使う訳がねぇ。肥料にもならねぇくらいにいろんなもんぶちまけていくんだよ』


「うぇっぷ……やめてくださいよ、考えないようにしてたのに」


 ハノンは現在、ギルドから支給された捨ててもいい布の服に着替えている。更に湿らせた布で鼻と口元を隠し、手袋をはめた状態だ。

 完全とは言えないが、まぁ最低限の装備だよな。道具も支給された掃除用具で、汚物をくみ取りながら便器一つ一つを掃除していっている。

 俺はというと、くみ取った汚物を捨ててもいい場所に運んでは捨ててを繰り返している所だ。契約獣として、御主人様のサポートはしねぇとな。


「ここの人達も、流石にこれは掃除したくないですよねぇ……」


『そうだな。掃除してもまたすぐ悪酔いした奴らが汚しちまうし、なにより不衛生だ。近づきたくなくなって、結果として放置され余計に汚れていくんだ』


 そもそも、ここを汚している連中のほとんどは、スラム以外で生活している平民だ。

 スラムの人々よりマシな生活をしているとはいえ、こいつらもまた裕福って訳じゃねぇ。酒を飲んだり女を買うなら、安いに越したことはない。

 そんな連中が、スラムで経営しているギリギリな酒場で色々混ぜ込んだリスキーな安酒をかっくらい、悪酔いした結果公衆便所を汚す訳だ。


 さっさとそんな酒場を潰しちまえばいいとも思うが、酒もまたスラムの人間の心を癒すためには必要な物。ようは飲みすぎる奴が悪いって訳だな。

 んで、汚れたままだと病気の原因になりかねん。しかし、掃除する人間がいないという悪循環。そんな一連の流れを危惧した町のお偉いさん方が、冒険者ギルドに依頼を持ってくるのである。

 報酬は、1人銀貨40枚。汚れ仕事の中でも最たる部類故に、中々破格の報酬だと言える。


「んしょっ、と! ふぅ……ようやく一ヵ所終わりです~」


『頑張ったじゃねぇか。少し休憩しようぜ? 飯持ってくるからよ』


「いえ、今のうちにもう一ヵ所の所まで行って……少し準備してから休みましょう」


『ん、そうか』


 ハノンは手袋を外すと、俺を抱き上げる。


「んん~、モフモフで気持ちいいんですけど……少し匂い移りました?」


『そりゃあ臭くなるわな。戻ったら2人で念入りに洗うぞ?』


「えへへ……はい」


 俺を掃除用具が入った荷車に乗せ、移動を開始する。

 10歳の少年にやらせるには少々酷な作業かもしれんが、これも必要な事だ。


「そういえば……なんで、労働者ギルドじゃなくて、冒険者ギルド……なんです? 依頼、来るの」


『この掃除がか?』


「ん、そうです」


『そりゃあお前、労働者ギルドの下っ端は金がねぇからさ』


 さっきも言ったように、この依頼は病原になりかねん場所を掃除する依頼だ。つまり、この依頼を受けた人間は、万が一と言わず結構な確率で病気を貰う事が多い。

 だから、基本的には依頼を受ける前に、銀貨10枚を払って病気予防の祝福を貰ってから挑むのがベターである。

 労働者ギルドは、基本的に金が無く、また冒険者になれない連中を雇い入れて様々な労働力として派遣する組織だ。そんな連中が、銀貨10枚も払える訳が無い。だから、冒険者ギルドにこの依頼が舞い込む訳だ。


『行きがけに説明したが、お前の場合は裏技みたいなもんでこの依頼を受けれた感じだな』


「契約獣との、能力の共有、ですね?」


『正解だ。呑み込みが早くて教え甲斐がある』


「え、えへ……」


 そう、当然ハノンは、銀貨10枚も持っていない。それを持っていたら、既に神殿に行ってステータスを見せてもらっている。

 病気予防の祝福を受けていないハノンが、どうしてこの依頼を受けれたか? その理由が、俺と契約したからである。


 従魔師テイマーは、契約した魔物に自分の代わりに戦ってもらう事を是とする技能である。

 しかし、本質はそこではない。従魔師の真骨頂はズバリ、【契約したモンスターの能力を、一部使えるようになる】事にある。

 わかりやすい話で言えば、仮にドラゴンと契約できた奴がいたら、そいつは自分でブレスが吐けるようになったりする。また、半魚人マーマンと契約したりすれば、水中でも呼吸が可能になる場合もあるのだ。


 そして、俺こと角兎ホーンラビットと契約して得られる能力は、【毒や病気への抗体】である。

 角兎は悪食だって前に話したろ? あれは比喩でもなんでもなく、本当に何でも食べるんだ。肉でも食うし、野菜もいける。

 しかし、角兎ってのは種族的に弱いモンスターだ。そんな雑魚モンスターが食える肉って言ったら、大抵は毒で己を守ってる小動物だったりするのである。


 腐った物も平気で食べるし、見るからにヤバいキノコも食う。それらの毒や病原のほとんどを、角兎は無効化できるのである。子々孫々に抗体が受け継がれ、進化していったんだろうな。

 だから意外にも、従魔師として才能が開花しある程度実力がついた者は、角兎と契約する者が多い。保険として有用だからな。


『それに、だ。この依頼は、お前にとって必要な心構えを得られる依頼でもある』


「心構え、ですか?」


『そうだ。この依頼をこなすことが出来たなら、お前は間違いなく冒険者としてやっていける。俺が断言してやる』


「そっ……それは、嬉しいです、けど……なんで、です?」


 元々俺は生前も、新米にこそこの依頼を勧めていた。もちろん、金に余裕が出来た奴らにだけな。

 どいつもこいつも絶対に最初嫌がるが、この依頼をこなすことが出来た奴らは、最低でも銀貨級に上がることが出来ている。

 逆に、この依頼を受けなかった連中は途中でやめる奴が多いんだ、これが。


『これは俺の自論だがな……この世界において、人間以上に食い汚く、汚し上手で、内臓が不潔な生物はまずいねぇ。せいぜいゴブリンがどっこいだと思うぞ?』


「えぇ……ゴブリンと同等なんですか? 人間って」


『そうだ。だからこそ、人間が出した汚物を掃除できるんなら、他のどんな環境にも抵抗は薄くなるのさ』


 そう、人間の糞尿が磨けるんなら、解体作業中に血で汚れるのも我慢できる。

 人間の吐しゃ物を処理できるんなら、ゴブリンの巣穴に入り込むのも抵抗がなくなるだろうさ。

 何事も最底辺を知れば後はマシになる。人間はそういう意味では、底辺の生き物ってわけだな。


『お前は頑張ってるよハノン。そんな最悪を前に、たった二刻で一ヵ所の掃除をこなしてるんだからな』


「っ……い、いやその、スラムの人達……のため、ですし……」


『その心意気が、何よりも大事なんだ。誰かの為と思うにしろ、誰かの羨望を浴びたいにせよ、そういう【動く理由】を見出せる者であってこそ冒険者は成り立つんだからな』


「…………」


 俺の言葉に、ハノンは応えない。

 んん、少々クサかったか? とはいえ本心だしなぁ。


「……が、頑張ります、ね?」


『んぉ? ……おうよ』


 なんだ、響いてはくれていたのか。

 よくよく見たら耳まで赤ぇ。初々しいにも程があるぜ、まったくよぅ。


『ま、そういう事だからあと2ヶ所、しっかり掃除してがっつり稼ごうじゃねぇか。なぁ?』


「……はい。大変だけど……スラムの皆さんの、為ですもん、ねっ」


 車を押す、ハノンの手に力が籠る。

 ……なるほどねぇ。こりゃ、結構行けんじゃねぇか?

 そう思うが、こいつの為にも判断は慎重にしてやんねぇとな。

 成りたて冒険者の初依頼。それは、まだ始まったばかりである。

 

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