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第59話:vs悪魔

どもどもべべでございます!

クライマックスフェイズも、4000文字でお送りしますよ!

熱く書けたかなぁ? 楽しんでいただければよいのですが。

というわけでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!

 

 古い油のように、濁った黒色の肌。

 青年2人分はあろうかという体躯、丸太のような腕。首が無く、頭と胴体が地続きになっている。

 巨躯なれど、下半身は小さめというバランスの悪さ。しかし、伝承になぞらえるような翼は持っていない。

 裂けたように広い口角に、焦点の読めない赤い瞳は、こちらを明確に獲物と認識していると感じさせてくれた。それだけでも、奴を敵と認識するには充分だ。


 悪魔か。どえらいもん呼び出してくれたなあいつめ。

 こいつらは、人間にとって絶対の討伐対象だ。

 かつて、人間が神からの啓示を受けて、馬車馬のように働いた時代がある。その労働の一端が、悪魔を地上から根絶するというものだ。


 悪魔は、契約によって他者と連なり、その代償を食らう生き物。

 それは時として命であり、時として魂。または物理的な何かの時もあり、種によっては人の子種だったりもする。

 そして、そのおおよそは神にとって非常に都合の悪いものが代償として持ってかれるのだ。それ故の、全面戦争。

 結果として、悪魔は別の時空に追いやられ、滅多に人前に姿を現さなくなった。しかし、それは完全に潰したわけではない。

 現にこうして、裏技使って呼び出してくるような輩もいるわけだしな。


「ゲホッ、ゲホッ……! 二回目だと、レッサーが限界かよ……まぁ、いいさ」


 暗殺者の男は、しばらくの間咳き込んでいたが、誰もその隙を突けない。

 悪魔が、こちらが動く度に反応してくるのだ。ハノンに念話を送り、じりじりと下がらせるのが現状取れる最善だろう。


「貴方、何処でそんな物を手に入れてきましたの?」


「んぁ? あぁ……まぁ、昔取った杵柄って奴だ。一回使った後は、もう使う気なかったんだがよ」


 そりゃあそうだろう。

 魔呼まこの符は、別の時空から悪魔を呼び出すアイテムだ。魔力の無い者でも使う事ができる危険なもののため、持つだけでも犯罪と言われている。

 何より、こいつで呼び出された悪魔の代償は、寿命に固定されるのだ。それは神が回しているシステムに、大きな狂いを生じさせるらしい。

 そういや10年くらい前に、身重の妻と腹の中の子を救うために、このアイテムに手を出した冒険者もいたっけか。たとえ人命を救うためでも、そいつを所持した事が原因でその冒険者も解雇されたんだったな。


「けどまぁ、この流れでこれ持ってたんなら、使うしかねぇわな? さぁ、第2ラウンドといこうぜ」


「チッ……悪魔とやり合うのは初めてだ。どう対処したものかな」


「見た目からして、物理攻撃してきそうですわ。速さが読めません、注意してくださいな!」


 悪魔の瞳が、より一層赤く染まる。命令を受注したようだ。

 しゃあねえ、逃げれるかどうかも、悪魔の特性を知らない事には判断できん。

 悪魔の強さに、基準はない。1匹1匹がまったく別の個体であり、戦うとなると行き当たりばったりで攻略するしかないのである。


「作戦、決まった? じゃあ行くぞ……暴れろ、悪魔!」


『ゴァァァァ!』


 叫ぶ悪魔からは、理性が感じられない。脚に力を込めて、接近の構えを見せる。

 それに合わせて、俺も跳んだ。奴にペースは握らせねぇ。


「フシッ!」


 悪魔が突っ込んで来た時には、俺もまた奴の頭上でかかとを上げている。

 振り下ろす一瞬に【身体強化】を発動。そのまま奴の顔面に、思い切り踵を叩き込んだ。

 肉にめり込む感覚、飛び出す目玉……だが、そこには手応えが無い。

 まるで、硬めのスライムに足を突っ込んだみてぇだ。


『ガァァ!』


『チッ!』


 肩の動きで腕を振るうのが分かったため、相手を足場に後ろに跳躍。

 同時に振るわれた腕を、回避……する、つもりだった。


「……っ!」


 相手の腕が、ぐわっと伸びてくる。その不意打ちに、俺は反応しそこねてしまった。


「っ、グ……!」


 鋭い痛みが眉間に走る。咄嗟に角で受けようとしてしまい、失敗に終わった結果である。


「ヴォルさん!!」


『……! 衝撃吸収、軟体……! 伸縮性の攻撃!』


 頭がくらつくが、なんとか着地する。同時に、俺の周囲に赤い液体が散らばる。

 額を、横に一閃か。肉だけで、骨で止まったみたいだな……ウォーターシールドが割って入ってくれなかったら、頭蓋が砕けていた事だろう。

 いかんな、一度のダメージでここまでふらつくか。この体は。


『グルォォォ!!』


「フッ」


 振り下ろされた腕を、大きく右に跳んで回避。フロキアも突っ込んで来ようとしていたが、悪魔の腕が伸びたのを見て行動を遅らせる選択を取ったようだ。範囲攻撃には巻き込まれないよう注意する。基本だな。

 その間に、ハノンが涙を浮かべながら、フロキアとオリアンティに何かを叫んでいるのが見える。

 だが、俺の意識は、そこを集中させてもらえない。


「オラ、こっちにもいるぞ!」


 剣を構えた男が、突っ込んで来た。口からは、血を流している。

 お前、大人しくしとけよ……寿命吸われたんだろう?

 まったくさっきまでのキレがねぇぞ。


「っらぁ!」


「フシ……ッ!」


 振るわれたロングソード。そのこと如くを、回避していく。

 銀貨級として、充分通用するような斬撃だった。しかし、今は見る影もない。

 だが、こいつの目的は、俺を抑えること……というよりは、俺とやり合うことだったか? どうでもいいが、こいつとやり合っている間、悪魔が好き勝手動くのがやべぇ!


「『あの悪魔を燃やしなさい! 徹底的に! 炭も残しちゃだめよ!』」


 オリアンティの詠唱が聞こえると同時に、飛来した炎の矢が悪魔に直撃する。回避できなかった悪魔は、暗がりを照らす松明となって悲痛な叫びをあげた。

 魔法は効いたみたいだが……これでヘイトはあっちに向かったな。速攻でコイツを落として、加勢にいかねぇと。


「まだまだぁ!」


『お前は、寝てろ!』


「っへへ……!」


 俺が放つ蹴りを、肩から血を流しつつ受け止める暗殺者。

 こちらも血で左側の視界が赤く染まったが、知らん。無視だ。見えてはいるから戦闘は可能。

 とはいえ、参った。出血も止まらんし、いつか避けられなくなるだろう。

 このままじゃ、じり貧だな。


『グオォォオ!』


 炎を拭き散らした悪魔が、ハノン達のいる方向に突貫したのが見えた。

 咄嗟にそちらに向かって、跳躍する。


「だからぁ! 俺と向き合えよぉぉ!!」


 暗殺者が、その隙を見逃すはずがない。

 剣を頭上に構え、思い切り突っ込んでくる。まったく余裕はないであろうに、その顔はどこまでも楽しそうだった。


(……悪いな、ちゃんと相手してやらなくてよ)


 そういう興奮状態の敵は、えてしてフェイントに引っ掛かる。

 俺は着地と同時に、悪魔とは反対側に思い切り足を踏み込んだ。

 すなわち、暗殺者の元へ後ろ向きに跳んだのである。

 その体勢では、蹴りなど放てない。ならば、何を使うのか?

 あるだろう。このモンスターに生えている唯一の武器が。


「んな……!?」


 ギャキン! という音と共に、男の剣が跳ね上がる。

 今までさんざん蹴りばかリ見せてたからな。反応遅れたみたいだな。

 俺の()は、硬いだろ!


「フシッ!」


「おぼぅ……!?」


 角による刺突を防いだことで、隙が出来た男のどてっ腹に、思い切り蹴りを叩き込む。

 空気を押し出され、瞳が裏返る。

 勢いに負け、体が宙を舞う。

 背中が地面に擦りつけられて、ようやく男は動かなくなった。うん、意識は飛んだみたいだな。


『さて、後は……』


『オオォォォ!!』


 俺が向き直るのと、悪魔が腕を振り上げるのは、同時だった。

 咄嗟に剣で穿とうとしていたフロキアの脇を、腕がすり抜けていく。


「しまっ……!」


 奴の攻撃は、魔法を使ってヘイトを集めていたオリアンティへ。

 伸びた腕を警戒していたとしても、見えていたとしても、オリアンティは魔法使いだ。体が追いつくかはわからない。

 その腕は、避けようとしていたオリアンティの胸を穿たんと、肉迫している。


「っあぁ!」


 だが、一瞬後に響いたのは、肉裂き骨を砕く致命の音ではなかった。

 甲高い金属音。そして、無意識に口からついて出る理外の掛け声。

 悪魔が煩わしそうに腕を振り払うと、その声の主は弾かれ地面に転がってしまう。


「「ハノンくん(さん)!?」」


「フス……!」


 ハノンが、オリアンティを庇ったのだ。

 あの時の、大蝙蝠ジャイアントバットのように。ハノンは見事、彼女を守って見せた。


「っ……『水よ、命の源よ。主を守る盾となりて、潤いを持って事を成さん』……【ウォーターシールド】!」


 同時に、俺の周囲に水の盾が浮遊する。転んでしまったとはいえ、体勢を整えつつ詠唱をこなす姿は、俺が考えていた支援魔法系盾使いとして理想的な動きだと言えた。


「フロキアさん!」


「あぁ……!」


 敵の一手を防げた。ハノンの大金星を不意にする程、オリアンティとフロキアはペーペーじゃねぇ。

 悪魔の胸板に、剣が突き刺さる。

 どす黒い血がそこから溢れ、悪魔は絶叫した。


「ハノンくんの情報通りだったな……すまない、反応が遅れてしまった」


「ありがとうございます、ハノンさん! 助かりましたわ!」


「い、いえ……」


「打撃に対して耐性があるだけで、斬撃には弱いみたいですわ! 魔法はそこまでのダメージではありません! フロキアさん、貴方の活躍次第でしてよ!」


「あぁ、わかった」


 フロキアが再度剣を構え、オリアンティも魔法の準備に入る。

 俺もなんか仕事しねぇと、な。


「さぁ……ここからは好きにさせんぞ、悪魔」


『ガァァァア!!』


「『ワタクシの為に戦う栄誉を与えます! その切っ先に褒美を与えます! さぁ戦いなさい、誉れの戦士!』」


 オリアンティの魔法によって、その切っ先が淡く輝く。火属性の【ウェポンストレングス】だな。

 フロキアの一撃は、これで大幅に強化された。ならば、それが万全の状態で放てる機会を作る!


「フシッ!」


『っ!?』


 俺は、フロキアにヘイトが向いた悪魔に向けて、突進した。

 いつものような、蹴りの体勢ではない。本日二度目の、角を用いての突貫だ。角兎ホーンラビットが唯一使える、先天的な武器である。


『ガァ……!』


 頭に衝撃。そして、肉を押し通る感触。

 やはり威力はそこまででもないか。しかし、打撃ではないためダメージにはなっている。

 悪魔が煩わしそうに腕を振るった。俺に対するけん制だろう。

 ハノンのウォーターシールドがそれを受け止め、威力を減衰。俺はその腕を足に合わせて、跳躍と同時に角を抜いた。

 結果……悪魔は、無防備な姿をフロキアに晒す事になる。


「これで……沈め!」


 力を溜め込んだフロキアが、地を蹴る。

 瞬間的に、相手の懐へ。悪魔が反応するが、遅い。

 僅かな跳躍と共に、突き出された剣。腕の一部のようにしなやかに伸びたそれは……悪魔の眉間に、的確に吸い込まれていく。

 オリアンティの魔力が込められた一撃は、まるでバターを斬るようにスムーズに、相手を貫いた。


『…………』


 動きが、止まる。

 悪魔の腕はだらりと下がり、口はぽかりと開いて牙を覗かせる。

 フロキアは、即座にレイピアを抜いて着地、後退して武器を構え直した。


『…………』


 どろりと、輪郭が消えていく。

 まるで世界から切り離されるかのように、悪魔のパーツが消えて行く。

 勝負は一瞬? 否や。フロキアの一撃が、あまりに綺麗な渾身クリティカルであった為に起きた奇跡だ。

 オリアンティの火力と、支援魔法。

 ハノンの護衛カバーリングと、防御支援魔法。

 フロキアの一撃。

 どれもが足りなければ、この結果は無かったやもしれない。


「……やった?」


 荒い息を吐きながら盾を構えるハノンが、小さく呟く。

 その時にはもう、悪魔は足首しか残っていなかった。


『あぁ、やったよ』


「やった……な」


「えぇ、やりました」


 俺らが返事をするまでの間に、その足首も消えて行く。

 そして、この世に悪魔が存在する証拠は……魔呼の符だけになった。


「……やった……やったぁ!」


 ハノンが叫ぶ。

 フロキアもまた、肩の力を抜いた。

 うんうん、いい活躍だったじゃねぇか。さて、喜びも大事だが、おっさんは下手人の拘束と行こうかね……


「あ、ヴォルさん待って! 回復、回復してください!?」


『あん? ……おぉ』


 そういや、斬られてたな……今になってふらつきが戻ってきやがった。

 これは、鍛え直しかねぇ。


「ああああ、血、血が、ちぃ!」


『いや、落ち着けよ……大丈夫だから、な?』


 こうして。

 俺とハノンが、初めて巻き込まれた異界との接触は、幕を閉じた。

 勝利したのは、人類。

 この3人と1匹である。

 

戦闘の描写を、大きく変更いたしました。


ヴォルさん中心の戦闘ではなく、それぞれに活躍の場を与えています。


なにより、ハノンくんがピンチを打開する瞬間を書き込みました。これが何より大事だと、教わったです。

うん、書いていて、とても大事だと痛感しました。


教えていただいた方に、ひたすら感謝です。

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