第5話:冒険者の基礎講座
どもどもべべでございます!
なんか筆が乗ったので、同日に2つご投稿!
どうぞ、お楽しみあれー
「では、冒険者について改めて説明させていただきますね♪」
パメラは、俺の背筋を凍らせる程に若作りした声でハノンに説明を始める。
冒険者にとっての基礎知識などは、ここでこうして受付嬢から説明を受けるのが習わしだ。
この時間の間は、他の冒険者達もその受付に近寄らないのは暗黙の了解ってやつである。
「では、まずは冒険者の階級についてお教えしておきましょうか」
「よ、よろしくお願いしますっ」
まぁ、パメラの話しをおさらいしておこう。
階級ってのは、その冒険者がどれだけの格を持っているかを表すものだ。
俺が毎回のように金貨級って言ってただろ? あれだよ。
階級は、合計で5つに分類される。
1、【鉄貨級】:一番下の階級、冒険者としてはまぁ駆け出しだわな。だいたいは雑用的なニュアンスの依頼しか受けれねぇ。簡単なモンスター討伐で日銭を稼げりゃ上等だな。
2、【銅貨級】:ある程度実力がついてきたらこの階級になる。まぁ一人前だな。冒険者はこの階級が一番多く、大型のモンスター討伐依頼なんかが受注できるようになる。ダンジョンに潜る許可も降りるぞ。
3、【銀貨級】:ギルドに対する貢献が如実だったり、強力なモンスターを倒せるようになったらこの階級だ。冒険者として箔がつくし、何より銅貨級に比べて格段に旨味のある権利が増えるな。
4、【金貨級】:俺がこの階級だったな。自分で言っちゃあなんだが、ギルドに無くてはならない存在になったらこの階級に上げられる。実力はもちろん、様々な要素で町に貢献してる奴が多いな。
5、【白金貨級】:これはもう冒険者としてカウントしなくていいと思うんだがな……いわば伝説に名を残せそうな存在だ。グランアインにもかつて一人いたが、今はいないな。
以上の階級を用いて、冒険者はランク分けされている。ハノンは一番下の、鉄貨級からスタートだ。
こいつは成り行きで冒険者になっちまって、覚悟決めてないからな。この階級のうちに冒険者としてやってけるかどうか判断してやんねぇといけねぇ。
本気で無理なら、俺からアルバートに進言して資格を取り消してもらわねぇと。
「とまぁ、階級については以上です。何かご質問はありますか?」
「え、えっと、その……依頼、受けなかったら、資格はどうなりますか?」
「そうですね。あまり長い期間依頼をこなしていないと判断された場合、ギルドから資格剥奪の通知が下りることがございます。基本的に皆さん、今日を明日をと生きるために躍起になって依頼を受けますので、あまりそういう事は無いのですが……気を付けてくださいね?」
「は、はいっ!」
「なお、金貨級になれば剥奪通知なんてまず出されませんので、のんびりできますよ?」
「……そうなの?」
『あ~、まぁそうだな』
確かに、金貨級はそういう剥奪期間が除外される。
けど、ギルドの方から進んで依頼を持ち込んでくるから実質のんびりなんてできないんだよなぁ。
俺が最後に受けた依頼も、アルバートが持ち込んできたからな……あれ、俺実質アイツに殺されてね?
ま、まぁそれはともかくとして、後は依頼を受けるための手続きの仕方や、基本的にしてはいけない事。禁止事項を犯した際の罰則などを大まかに教えてもらったようだ。
ハノンもしっかり聞いている。乗り気じゃないっつっても根は真面目みたいだしな。教え甲斐はあるだろうさ。
「なお、こちらは冒険者になった方へのサービスとして、武具屋や神殿宛ての紹介状でございます。諸々の手続きをスムーズに行えますので是非ご活用ください♪」
「あ、ありがとうございますっ」
「後の流れやお勉強は、今すぐ詰め込むよりもそちらの兎さんに聞いた方がいいでしょう? 私からは以上とさせていただきますね?」
あ、楽しやがった。
こいつ、空いた時間で菓子でもつまむつもりだな? これだからババァは油断も隙も……
「今日の夕飯は兎鍋かい?」
『はぁ!? 何も言ってねぇだろ!』
「アンタの考えなんざお見通しさね」
「フシャーッ!」
「ちょ、もうっ、ケンカしないでくださいっ! パメラさん、ありがとうございますっ」
このまま俺とパメラが一緒にいたらマジな殴り合いになると判断したのか、ハノンは俺を押さえて一礼した。うん、まぁ今の俺がパメラの相手なんかできる訳ないから、これはじゃれ合いみたいなもんなんだが……トラブルを避けようとするのは良い判断だな。
「ふん、坊やに助けられたねぇハゲ頭」
『今はフサフサだっての!』
「ではハノンさん? 頑張ってくださいね?」
「は、はいっ、失礼します~!」
『無視かおい』
さて、じゃあパメラから押し付けられた教職でもこなそうかねぇ。
ひとまず足りないのは……まぁ一杯あるが、まずは金だよな。
カウンターから離れていくハノンに揺られつつ、俺は近くの休憩スペースを示してやる。
ハノンもそれを察したのか、ゆっくりとそちらに向かったのであった。
◆ ◆ ◆
冒険者ギルドのロビーには、軽い飲食ができる休憩コーナーがある。
まぁ飲食っつっても酒なんかは無いし、食事も本当に簡単な雑炊とかしか出ない。それでも、駆け出しの鉄貨級なんかには安く食える貴重な場所だ。
あとはまぁ、休憩コーナーの看板娘目当てに他の冒険者が集まる時もあるな。
『さて、ひとまずは冒険者デビューだな』
「な、なったからには頑張ります。はい」
『いい心意気だ』
俺をテーブルの上に座らせ、自身も椅子に座ってようやく一息つくハノン。
責任感があるのはいいこったな。俺もそれに応えて、少しは真面目に授業してやるかね。
……どうでもいいけど、前足組んだ角兎と念話しつつ、畏まってる少年の姿は中々シュールだろうなぁ。
『んじゃあ、とりあえずお前に冒険者と活動していくために必要な物を聞くぞ。何がいると思う?』
「命ですね!」
『根本的正解だな。まぁ、俺も本当だったら、一番は目的や目標と言いたい』
「目標……ですか。」
『あぁ、冒険者になったからには、何か目標が無いと精神が持たないからな。とはいえ、冒険者の特筆上、その目標は金と名声の上に成り立つもんなんだが……ハノンは、何かそういう目標はあるか?』
「……そう、ですね……」
少しの間考え込むハノン。しかし、どちらかというとこれは、目標を探しているというより、言うのを躊躇っているように見える。
まぁ、何も持ってない只の子どもが、スラムでギルドマスターにすがりついたりはしない、か。
『冒険者になる事で、その目標がどうにか目指せそうなら胸に秘めておけ。それが生きる活力になる』
「あ……は、はい。すみません」
『気にすんな。で、他に必要な事はあると思うか?』
「……やっぱり、身を守るためのもの、ですよね? 紹介状貰いましたし……」
ん、正解。
何はなくとも、自分に合った武具を見繕わない事には町から出ることもままならん。武具屋で装備を整えるのは最優先事項だな。身なりも整えてやりたいし。
正解をほめてやると、「えへへ……」と照れるハノン。その笑顔に女性冒険者の何人かがやたら注目してるが、まぁ気にしないでおこう。
『あとそれとは別に、神殿への招待状も貰ったろ。あれは何でだと思う?』
「え? えと……わかりません」
『下手に知ったかされるよりもずっといい。正解は、神殿に金払って、自分の能力を数値化してもらうためだ』
「能力?」
まぁ、人によっちゃステータスとも言うな。その人物の筋力だとか、精神力を神殿では知ることが出来る。
これもまた神様関連の技術だから、神殿の管轄なんだよな……それでも、自分の実力を目で見れるってのは金を払う価値があるもんだ。
自分が伸ばすべき長所、補うべき欠点が見れるだけでなく、向かうべきでない討伐依頼の目安にもなるからな。これをケチった冒険者は、たいてい死ぬと俺は思ってる。
「なるほど……僕もそれは知っておきたい、です。切実に」
『だろ? だからまずは、能力値を確認してから、それに見合った装備を見繕ってもらうのがお前の目標だ』
「……でもヴォルさん。僕、お金持ってないです!」
『うん、だからお前には、これから街中でこなせる依頼を受けてもらうことになるな』
俺は一度机から飛び降り、ピョンピョンと依頼掲示板へ跳ねていく。
んで、端っこに貼られた一枚の依頼書に向けてジャンプし、口で引き剥がした。横にいた奴らがギョッとしていたが……契約獣に驚くあたり新人かね?
『……待たせたな。ほら、こいつだよ』
「え、えっと、街中の依頼なんですよね? 命の危険とかは……」
『少なくとも、今のお前にとっては命の危険がない依頼さ』
その言葉に安心したのか、ハノンは依頼書を受け取り読み始める。
その顔色は、読み進めるごとに青くなっていっているが……これ以上実入りが良くてリスクの少ない依頼はないぞ?
「えっと……マジ、ですか?」
『マジだ』
「あの、せめて準備とか……」
『ギルドが最低限の道具は工面してくれる。残りは実費だ』
「…………」
ハノンが頬をひきつらせながら、依頼書を落とす。
そこには……【スラムの大清掃】と、はっきり明記されていた。
物語の一部分に、ハノンくんの目的をにおわせる文を追加いたしました。