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第18話:ゴブリン対策会議

 どもどもべべでございます!

 保育園ではこいのぼりが空を飛んでますよ~。

 でも、僕の園ではどちらかというと、干物みたいに吊るされてるんですよねw

 まったく面白そうに泳げてないよぉ!

 

 100匹単位のゴブリンが森に居着いている。

 その報告は、ギルドの職員達の間を風のように駆け巡った。当然、周囲はキラービーの巣を突いたような喧騒に包まれる。

 やれ殲滅がどうの、やれ女子供を逃がせだの。やかましいったらありゃしない。


 俺らもまた、当事者っつう名目でギルド内に監禁だ。無駄な混乱を防ぐべく、まだ大多数の冒険者達には情報を洩らす訳にはいかないんだろう。

 現在、真実かどうかを確かめる為、即座に銀貨級が偵察に放たれている。ギルドの中でも特に信頼されてる奴らに、口外しないという条件で頼んだ訳だな。

 まぁフロキアが見たのは6体だけだからな。まだ少ない群れの可能性だってあるし、そいつらだけのはぐれって可能性もある……淡い期待だがな。


「す、凄い状況、ですね……」


「当然だな。ゴブリンが本当に大量発生しているなら、このグランアインの町を放棄せざるを得ない状況になる可能性だってある。そんなことも知らないのかい?」


「ひぇ……」


 皮肉な口ぶりは素なのか? 損してんなぁ。

 ハノンとフロキアは、ギルド職員の休憩室にてソファに座っていた。当然、俺もそこにいる。

 慌ただしい雰囲気のまま職員が走り回る音を聞きながら、今後の展開を考えていたところだ。

 森の距離と規模を考えたら、そろそろ報告が来てもおかしくはない。そして、事態が最悪の方向に向かったとしたら……


「失礼する」


 ……まぁ、こいつが来るよなぁ。


「ギルドマスター……」


「お、お邪魔してますっ」


「かけたままで良い。早速だが話を始めようか」


 来客……アルバートは、俺らの前にドカリと腰を降ろして眉間を揉んでいる。こりゃ余程ストレスが溜まってるなぁ。

 まぁ、俺が死んでから数日以内にこんな事態だもんな。ちゃんと寝てんのかね?


「フロキア青年、ハノン少年。君たちが相対したゴブリンに関しての新情報が、今しがた届いた」


「はい」


「……早期発見に至らなかったのが悔やまれる。間違いなく、100を超えるゴブリンが森の奥で巣を作っていた」


「うぇ……!」


 まぁ、そうだよなぁ。

 ゴブリンの偵察隊、見回り隊ってのは、群れの規模によって決まる。群れの半数近くを八方に散らして、こまめに帰還させるのだ。

 そして、遠くに偵察に行く程その部隊の規模を減らして、上位種込みの少数精鋭にする。今回はただのゴブリンが6体だったから……八方に散らした偵察だったのだろう。

 つまり、さっき俺が計算した通りだ。銀貨級の偵察隊の報告では、合計で100体を超えるゴブリンが拠点を築いてたそうである。


「ただのゴブリンであれば、100体以上も纏められる訳がない……つまり……」


「察しの通りだ。まず間違いなく、ロードが居ると言っていい」


「ろ、ろーど?」


「ん、あぁ。ゴブリンは亜人種の中でも珍しい、進化できる種族なんだ。ホブゴブリンやゴブリンメイジなど、多種多様な役割を持つ者がいる」


「ロードはその中でも、ゴブリン共のトップとして君臨する存在だ。賢く、狡猾で、強い。配下を常に連れて、烏合の衆であるゴブリンに規律を生み出す存在となる」


 ただでさえ強いゴブリンが、統率され連携を作り、社会を築く。そうなったら、人間の住む村や町など入れ食い状態の餌場でしかないだろう。

 まず近日中に、グランアインは襲われるな。


「すぐにでも、冒険者ギルドの総力を持って潰さねばならん。領主に進言し、町の防衛も強化せねば……」


「そこはわかりました。それで、本題は?」


 フロキアの言葉に、アルバートの眉がわずかに動く。奸計を得意とするアルバートとしては、こういう単刀直入な奴は相性悪いよなぁ。

 小さなため息と共に、アルバートは書類を一枚取り出し、フロキアの前に差し出す。


「フロキア青年。今回の依頼で重要な情報を持ってきた君は、晴れて銀貨級と認められた。受付に言って、昇格登録を済ませてきなさい」


「そして、ゴブリン討伐隊の一員に加われ、と」


「そうだ。町の命運を君にも担ってほしい」


 ……チッ、やっぱそう来るか。

 てぇことはだ。ハノンまでこの部屋で待たされた理由は当然……そういう事だよな。


「お言葉ですが、私はこの少年の契約獣に助けられて、ようやく生還できたのです。まだ自分が銀貨級であるなどと驕ることは出来ません」


「驕りではなく事実だ。ハノン少年に助けられたのも事実であり、君がゴブリンを相手取って無傷で帰還したのもまた事実。ならばギルドが君を評価するのは当然だろう」


「私の納得の問題だと、言っているのですが?」


「……そうか。残念だが仕方ない」


 アルバートは、眼鏡を指で押し上げた。反射によりその目元は見えなくなるが、俺にはわかる。

 こいつは、どっちに転んでも美味い交渉しかしない男だと知っているのだ。


「ならば、今回は特例としてハノン少年の契約獣を討伐隊に組み込もう。聞けばゴブリン3体を相手に余裕の勝利と言うじゃないか」


 ダンッ!! と、音が響く。

 俺が、テーブルの上に着地したからだ。真っすぐにアルバートを睨みつけ、角を突きつける。


『正気か? おい長耳ぃ』


『本気だ。お前を戦線に投入しない理由がない』


『ハノンをゴブリンの巣に連れて行けるわけねぇだろうが……!』


『今回の事態発覚も、貴様がハノンをゴブリンの元まで連れて行ったのだろう? 同じ穴のむじなが吠えるなよ』


 念話の応酬は一瞬。

 しかし、俺らの間に流れる空気で何かを察しているのか、フロキアは特に何も言わないでいる。

 ハノンは、俺らの念話が聞こえているのだろう。顔を青くしながらおろおろしていた。


「ハノン少年、どうだろう? 君の安全は冒険者ギルドの中でも指折りの存在に任せて保証する。なので、ゴブリン討伐部隊に参加してもらえないだろうか?」


『おいこら。ダメだっつってんだろうが!』


『貴様はこの子の契約獣だ。決めるのはこの子だよ』


『クソッたれ……ハノン、行くこたぁねぇぞ。鉄貨級が行って良い依頼じゃねぇ。死ぬぞ!』


「え、ぁ、う……」


 ゴブリン一匹に対して、銅貨級冒険者2人がギルドの定めた目安。つまり、鉄貨級は今回の部隊には、原則参加させられない。そんな事は当然だ。

 それなのに、アルバートの野郎……無茶言いやがって!


「あ、あの……僕は、その……こ、怖……」


「君の契約獣の強さは知っている。彼がいるだけで、冒険者の生存率は大きく変わるだろう」


「っ……!」


『テメェこら、いい加減にしろよ……!』


 そろそろマジで一発蹴ってやろうか?

 俺が衝動に身を任せようとしていると、ハノンの肩が跳ねる。

 見れば、フロキアがハノンを抱き寄せ、背中をポンポンと叩いていた。


「私を助けてくれた恩人が、情けない姿を見せないでくれないかい?」


「フ、フロキアさ……」


「ギルドマスター。先ほどの銀貨級の件、謹んで受け取ります。ゴブリン討伐隊にも参加しましょう。そのような角兎ホーンラビットの助けはいりません」


 フロキアは、アルバートを真っすぐ見つめて宣言する。

 ハノンを庇ってくれたという事は、明白だった。


「ふむ、そうか。ではフロキア青年はすぐに受付に向かってくれたまえ。君が来てくれるのであれば、確かに角兎は必要ないだろう」


「……失礼します」


「受けてくれたからには、最大限のサポートをさせてもらう。共に生還しよう、フロキア青年」


 それだけ言い合い、フロキアは立ち上がる。

 ハノンが服の端を握っていた事に気づき、少しだけ微笑むと、奴はハノンの頭を撫でた。言葉はなく、踵を返し、部屋を出ていく。

 ようやく動ける……俺は、アルバートの胸倉を掴んだ。


『あんまり人を出汁に使うなよ、アルバート』


「出汁もなにも、本命は貴様だったぞ? 角兎とはいえ金貨級。組み込まない手はないと思っていたが……残念だ」


「っ、フシッ!」


「あわわわ、も、もう止めてください二人とも!」


 ハノンの制止により、俺は振りかぶった足を止める。

 ……こいつの立場はわかってる。しかし、やり方ってのがあるだろう。

 昔っから、こいつは嫌な交渉を持ち掛けてくるんだ。


「ふむ……仕方ない。ハノン少年、実は君に、折り入って一つの依頼を受けてもらいたい」


「は、はい?」


 アルバートは、悪びれないままにまた書類を取り出し、ハノンに見せてくる。とんでもない無茶ぶりだったら破り捨ててやっからな。


「簡単だ。あの森で勤務についていた、【森人もりびと】の行方を追ってもらいたい。我々がゴブリンを討伐出来た場合、必要になるカードだ」


 そこには、ある男の人相書きと、男の情報が記されていた。

 男の名は、【ガジルデ】。右の口が大きく裂けている傷跡が特徴の、気弱そうな青年だった。


「今回のゴブリン繁殖が、この森の監視人から報告されていないのは不可解だ。そして斥侯の話では、小屋の中に彼は居なかったらしい。まず間違いなく、姿をくらませている」


「え、な、なんで……」


 ……アルバート、お前……。


「私は、何者かが彼を抱き込み、嘘の報告をさせていたと見ている。そして、町に打撃を与えるのが目的なのだろう……彼を捕らえ、話を聞きだしてほしい。ゴブリンを相手にするよりは、マシな依頼だろう? ヴォルくん」


 最初から、これを俺らに押し付けるのが目的だったな!?

 結局、俺らはアルバートの掌の上だったらしい。まったく、こいつにはかりごとで勝てた試しがねぇ。

 

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