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第0話:なんの因果か契約獣

 どもどもべべでございます!

 なんか色々と書きたい欲が溢れてきたので、作品を一つ追加です。本当は褒められたことではないのですが!

 とあるおっさんが、少年を一人前の冒険者に育て上げる過程を描いた冒険譚でございます!

 この作者、大概兎好きだなぁ……まぁとにかく読んでいただけたら幸いです!

 のんびりスローペースで書かせていただきますとも~。

 ではでは、お楽しみあれ~

 

「……『生命よ、我が声に応えよ』……えっと、『魔として生まれ、力を振るう者よ。我は』……すみません、もう一回読ませてください……」


 とある一室にて、幼さを隠しきれない高音が俺の耳をくすぐる。本人は威厳を籠めているようなつもりなんだろうが、どうにもこうにも可愛らしさが先行してしまってるのがやるせない。

 とはいえ、聞いていて嫌な気分にならないのは才能と言えるだろう。なんかこそばゆい思いを隠しきれず、俺はその声から逃げるように視線をずらした。


 良い部屋だ。内装こそ派手ではないが、所々で己の権威をちらつかせる事が出来るであろう調度品や家具が見られる。

 だが、けして嫌味な雰囲気ではない。最低限、上に立つ者として揃えるべきを揃える必要があった。そんな意思が感じられる部屋だ。

 ぐるっと見回すと、俺の背後には書類棚と執務机が配置されている。この部屋の持ち主は、いつもならあそこに齧りついて様々な書類と戦っているのだろう。


「落ち着いて詠唱すればいい。今回の相手はけして逃げないし、君に危害をくわえるような事はしない。契約において、ここまでの安全性が保証されていることはまずないと言っていい。今の状況ならば、君は己の中の芯と、彼の芯を繋ぐというイメージに集中できるはずだ」


 そしてこの部屋の持ち主は、俺の目の前で授業の真っ最中ときた。

 試しに、フスンと鼻を鳴らしてやる。すると「ひぅっ」という声をあげて、2人の内1人が後ろに下がった。


「……あまり彼を怖がらせるな」


「……フン」


「え、えっと……」


「気にする事はない、素直じゃないだけだ。さぁ詠唱文を覚えていこう」


 目の前の人物。一人は、良く言やクール、悪く言や無愛想って感じの男だ。

 特徴的な青髪をオールバックでまとめ、眼鏡越しに見える瞳は物事の裏を探る事に慣れきっている。まぁスレてるってことだな。

 歳は若く見えるが、こう見えてこいつは俺の同期だ。最低でも30年はここに務めてるって事になる。まったく長耳エルフってのは見た目なんぞあてにならん。


 対して、もう片方の少年はどうだろう。

 歳は、10の前後ってところだろうか。ボロを着込み、所々薄汚れた風貌をしているが、その見てくれはけして悪くはない。

 いや、むしろその服装であってもなお人目を惹くほどに整った顔つきをしている。ともすれば少女とも取れそうだが、覗く手足の筋などはちゃんと少年特有のものだ。

 薄い銀色の髪はボリュームがあり、少々痩せた輪郭を丸く見せてくれている。大きな青い瞳に、低過ぎず高すぎない鼻。唇は栄養が足りていないのか、乾燥しているように見える。

 総じて、磨けば光る原石って評価だな。


「よ、よし、いきます……! 『生命よ、我が声に応えよ。魔として生まれ、力を振るう者よ。我は汝の力を求める者なり』……」


 先ほど俺の鼻息ですらびくついていた少年が、呪文の詠唱に入る。その唇から漏れる声はどうにもたどたどしいもんだ。暗記した内容を必死で途切れないようにしているからか、こちらに漂ってくる魔力は弱く、吹けば散りそうな程度しかない。

 ……まったくもって、先が思いやられる。仕方ないから、手助けしてやることにした。


「『共に生き、共に歩む盟友となれることを望む』……『さすれば、我が魔力を通貨として捧げん』」


 少年の魔力を、俺は自分の魔力で絡めとる。互いを繋ぎ、少年の芯を魔力越しに感じ取っていく。

 ここで注意すべきは、主導権を俺が握らない事だ。あくまで少年が主として行わなくてはならない。契約魔術ってのは、主導権を握られた方が下になってしまうのだから。


「『魔の者よ。応えるならば、今ここに契約を』……『我が友よ。応えるならば、今ここに契約を』……」


 少年の弱々しい魔力を、俺の中に受け入れる。これならば、少年は俺の芯を見つけることができるだろう。

 後は、互いが繋がったのを確認し、俺が同意として受け入れりゃそれでいい。


「……フシッ」


「……『契約は成った。【ハノン】の名の元に、汝に名を与える』……『友よ、汝の名は【ヴォル】! 魂の名である』!」


 キィン、と、清んだ音が響いた。

 その音は、俺と少年……ハノンの2人しか聞こえないものだ。これで契約は成った。

 これから先、これが解除されるまで……このハノンが御主人様ってわけだな。


「見事だ。……とはお世辞にも言えないが、なんとか成ったな。彼に礼を言うと良い」


「あぅ……す、すみませんでした。ヴォルフガングさん!」


 あ~、やめてくれ。その名で呼ぶのは。今の俺は、そんな大層な存在じゃあないんだ。

 そんな俺の気持ちが届いたのか、ハノンはいかにも失言したかのような表情を浮かべて慌てふためいている。

 なんとも頼りない様子にため息が漏れそうになるのを、自分の耳を前足で撫でることで紛らわしつつ、俺はハノンに語り掛けた。


『聞こえるか、少年?』


「え、あ、はい! わわ、凄い……念話なんて初めてです」


『契約した間柄だからな、こういう事もできる。……んで、だ。お前さんは俺の御主人様になったわけだから、当然呼び方は決まってるだろう?』


「えっと……ヴォル、さん?」


『そうだ。お前がつけた名なんだから、ちゃんと呼んでくれよ?』


 契約がうまく機能しているかを確認するように、俺は後ろ脚に力を込めてピョンピョンと飛んでみたり、【額の角】に魔力を流してみる。

 試しにハノンに攻撃の意思を見せると、俺の中の大事な何かが握りしめられた感覚がした。

 うん、大丈夫みたいだな。少年が俺の殺気に気付けてないのは大いに問題だが、まぁそこは素人だ。しょうがない。


「ふむ、問題なく契約は済んだようだな」


「で、でも、本当にいいんですか、ギルドマスターさん? ……僕なんかがその……だって、この人は……」


 ハノンは、オドオドしながら俺を見下ろす。

 その顔には、恐れ多さとか不安とか借金返済間近の首が回らなさがにじみ出ているが……まぁ言わんとしていることはわかるさ。


「……この男が、元人間であるという点を後ろめたく思っているのならば、それは君が覚えるべき罪悪感ではないな」


 ピコピコと動く俺の耳を見つめながら、長耳が言う。

 ひくつく俺の鼻を眺めながら、ハノンは口を噤んだ。まぁ、俺も同感だな。


『まぁ、気にすんな。今の俺は、単なる【角兎ホーンラビット】だ』


「あぅ……」


 そう、俺は小さな角兎。

 元は人間、かつ冒険者だが……何の因果か、こんななりになっちまいやがった。

 んで、これまた何のめぐり合わせか、今はこうして少年の契約獣ってわけだ。


『ま、なんだな。これからバシバシしごいてやっから、よろしく頼むぜ。御主人様よ』


「だ、そうだ。彼はキャリアに関しては申し分ない人材だ。みっちり鍛えてもらうと良い」


「は、はい……!」


 まぁ、なったもんは仕方ねぇ。

 こいつと出会ったのも何かの縁だ。

 俺の第二の人生……もとい、兎生を始めていこうじゃぁねぇの。


『つうわけで……行くぞ、ハノン』


「わ、わ、はいっ」


 これは、ひょんなことから角兎になっちまった元冒険者の俺が、この小さな少年を一人前に育て上げる物語。

 つっても、このままじゃあ何が何だかわかんねぇよな?

 安心しろよ。なんで俺がこんなことになったのか、少しだけ遡って語ってやるさ。

 


感想、評価、誤字報告などいただければ幸いでございます!

ではでは、次項もお楽しみにー!

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