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一会誘魄死神結社の日常

第7話 鬼は外

作者: 弔野ゆめ

「ふたり、弔野さんが増えた?」


ある休みの日の夜。

チャンネル登録者が100名を越えたお祝いに、と、現世諜報部部長に飲みに誘われ、連れ立っていつもの居酒屋へ向かっていた。


「はい……。いつものように、出勤したら、私がふたり……」


いつぞやに体験した不思議な出来事を、何となく部長に話すと。


「大丈夫よ、稀によくあることだわ」


「……稀になのによくあるんですか??」


「ごめんなさいね、馴染みが薄かったかしら。よく使われるのよ、現世では。

ええと、そうね。

自炊はするかしら、弔野さん」


「ええと……たまにですね。毎日は、さすがに。

帰りが遅いと晩御飯食べなかったりしますし」


「そう。

調味料を切らしていた、なんてことはないかしら、自炊の時に」


「ああ、しょっちゅうですよ!

折角自分でご飯を作る気になったのに、結局お買い物に行くことになって、そこで買い食いなんてしてしまうので、家に帰る頃にはお腹いっぱいで……」


「それが、稀によくある、という状態だと理解しているわ、私は。

頻発しているように思うでしょう、でも実際に起こっていることは稀なのよ」


「……!

とっても分かりやすいです!確かに、稀によくありますね!! 」


合点がいった、とばかりに手を打つ弔野。

新しい現世の言い回しを覚えてご機嫌な弔野の姿を微笑ましく横目に見ながら、部長は話を続ける。


「弔野さんが増えていた話なのだけれど、私も経験があるのよ、実は」


「ええっ!?」


「そうね、あの時は……。とても忙しかった記憶があるわ、仕事でね。猫の手も借りたいくらいに。

5人居たのよ、私の時は。

でも、全員私なのよ、結局はね。だから、分かっているの、仕事が面倒だということを。

誰も手伝いなんかしてくれなかったわ、どんなに頼んでもね」


弔野にも、思い当たる節はある。

動画製作において1番労力のかかる、編集のタイミングで、ふたりの弔野は見計らったように姿を消した。好きなことを好きなだけ語っておいて、だ。


「他の種族でも起こるそうよ、死神に限らずね」


着いたわね、と、行きつけの居酒屋の前で足を止める部長。


「……入らないんですか?」


立ち止まったまま動かない部長の見つめる先に、視線を移す弔野。



「……あれ?」



臨時休業


本日は現世に

鬼退治

されに行くため

休業します。


現世の美味しい

お酒をお楽しみにネ♥️


店主



「そうね、今日だったわね、節分。失念していたわ、すっかり」


「そんな……。

でも、どうしてわざわざ"退治されに"行くんでしょう?」


「憶測なのだけれど、これは。

それが、必要だからよ」


難しい顔で首を傾げる弔野。


「人間はまだ必要としているのね、鬼を退治する方法を。だから倣わなければならないの、鬼たちは。

人間なんて、鬼の手にかかればすぐにでも滅ぼせる。だけれど、必要なの、回避する方法がね。

いつまでも続くわ、この倣いは。忘れない限りだけれどね、人間たちが」


「んーと、つまり……。

人間と鬼、それぞれが、退治する、される方法を忘れないために、ごっこ遊びを続けている、ような……?」


「そう。

鬼の力は無限のもの、人間からしたらね。だから、種族間にある種誓約のようなものが存在するの。

人間が豆を投げたら、鬼は観念してください、というね。忘れないように受け継ぐための大切な行事だわ、人間にとっても、鬼にとっても」

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