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世代交代  作者: 砥左 じろう
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安静

 外には全然人がいない。そりゃあそうだ。暑過ぎる……。

 西から差し込む強い陽射しから逃れる方法はなく、汗をだらだら流しながら歩いて自宅に向かっていたが、颯馬と遊んでいた時と違って足取りは重い。

 やっぱりまだ痛みはある……。多分、昨日の試合でセンターからバックホームしたときに少し左足首を捻っている。

 投げた瞬間は送球と走者の行方に夢中で気付いていなかった……。

 軽い捻挫だと思うけど、今週は安静にしていた方が良さそうだ。

 今後はもっと守備練習に時間を割く必要もあるなと、昨日の寝る前にぼんやりと考えていたことを思い出す。


「ただいま~」

「……」

 ドアを開けて呼びかけるも反応がない。再び外に出て車庫を確認すると車もない。買い物か?

 入り直して洗面所に向かう。いつも洗面所に置いている俺専用の籠に着替えを置いて、汗だくになった衣類を脱いで洗濯籠に放り投げる。


 シャワーだけでいい。あまりの暑さにお風呂を沸かすことさえ面倒になってそう決めた。

 サッと洗い流すと、洗面所に吊るしてある支倉シニアからの支給品のバスタオルを手にして、全身の水滴を大雑把に拭き取る。

 着替えた俺は短髪で乾きやすい髪に数秒ドライヤーを当てると、洗面所を後にしてリビングへと向かう。

 さっきは暑いからシャワーを浴びたい以外の感情を覚えずリビングは通り抜けるだけだったが、今回は喉が渇いていたので冷蔵庫を開けて手にしたブドウジュースをフェニックス優勝記念で発売されたグラスに注ぐと、扉を閉めるより先に半分飲む。

 いつ飲んでもブドウジュースは美味い。なんて浮かれていると、

「ピー、ピー」

 と冷蔵庫から警告音が鳴る。しまった……自分のことに夢中で、閉めるの忘れていた。

 週明けからどうなんだろ?

 昨日の帰り、別れ際に零さんに言われたことを思い出す。

「これからは昴が引っ張ていけよ。期待しているからな」

 引っ張るってなんだ?今、その答えを求めることには意味がないと感じて止める。


 ボーっと突っ立てても仕方ないし、取り敢えずテレビでも点けるか。

 月曜日なのでプロ野球の試合はない。その代わりあまり観ることはない甲子園での熱闘を放送しているNHKにチャンネルを回す。

 第3試合の小関一高VS光瞭大相模との関東の強豪同士によるベスト8の座をかけた潰し合いが始まっている。

 両チームともに背番号1を付けたエースが好投を繰り広げていて、5回を終わって0対0だ。

「ピコーン‼」

 突然スマホから音が鳴り画面から視線を離して向けると、守からの通知だった。守からなんて珍しいと思いながら内容を確認すると、

「疲れはどう?甲子園観てる?今投げてる光瞭大のピッチャー、支倉シニア出身なんだって‼」

 書かれている情報を目にして、気になってしまい返信するのを忘れて調べる。

 すると確かにそのような情報が出てくる。

房前(ふさまえ)大也(だいや)支倉シニア→光瞭大相模 身長180cm体重78kg 右投げ右打ちで最速は149km』

 上も下も個性的な名前だな‼︎この人支倉シニアのOBだったのか。

 まぁ、神奈川県だし不思議はないか……。

 おっといけねえ!守に返すの忘れていた。

「お気遣いどうも。まだ少し怠い。ホントにうちのOBなんだな」

 試合はテンポよく進み7回の裏に突入していたが、いまだに無得点だ。

 強打で有名な小関一の打線を抑え込んでいる房前さんはここまで85球を投げているが、表情にはまだ余裕が見える。

 それでも少し球数が多くなってきているし、いつ捉えられ始めてもおかしくはない。

 こうしてゆっくりと甲子園の中継を観るのは小学生のとき以来か……。

 小関一のエース土井さんには房崎さんほどの球威はないが、打たせてとる投球でテンポよくアウトを重ねている。


 8回も無得点で最終回に突入する。

 だが、ここにきて両エースに差が現れる……。

 9回もマウンドに上がった房前さんだが、すでに球数は114球。中盤までは楽に145kmを越えていた球速も140km前後まで落ち込んでいる。それでも十分速いとは思うが。

 不安視していた通り、小関一の打線が襲いかかり、瞬く間に1アウト2、3塁のチャンスを作ると、3番がストレートをセンター後方まで飛ばし犠牲フライとなって、遂に均衡が破れる。

 こういう緊張感のある試合で、勝敗を決定付けるような1点を取れるチームは強い。

 結局、この1点で試合は決まってしまった……。ベンチ前で泣き崩れる房前さんの無念さに共感を覚えながらも、勝った小関一の強さに感心した。

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