表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世代交代  作者: 砥左 じろう
91/92

親友として

 約束の時間より2分早く駅に着いた。正確にはまだデッキを歩いて駅前に向かってるんだけど……。

「よっ!遅かったな」

 先に見つけたようで、人混みの中でも手を振る颯馬。

「時間ピッタリだろ?」

「ギリギリセーフな」

「んで、どこ行くの?」

「知らん。取り敢えずぶらぶらしようぜ」

 いつにも増して計画性がなく、酷い。

「考えてくるって言ってなかったっけ?」

「言っていたかもしれんが、瀬川監督の辞任で全部消し飛んじまった」

「そりゃあそうか。颯馬はペガサスファンだしな。俺もニュース観てビックリした‼︎」

「だよな。まさかこのタイミングとは思わなかったなぁ」

「しょうがないだろ。今年は開幕から最下位を独走してたんだしさ……」

「最下位を独走って言うか?」

 珍しく颯馬に突っ込まれる。

「細かいことはいいんだよ」


 普段と変わらない会話をしながら先に書店に寄って、マンガの新刊や月間の野球雑誌を買う。

「次どうする?」

 雑に訊いてくる颯馬は、本当にノープランのようだ。

 だが、俺には目的があった。

「服買いたい」

「上?下?」

「下の下」

「了解。試合のときに破れたの?」

 颯馬は『下の下』だけで下着のことであると会話が成立する唯一の友達だ。

 大抵は顔のことを意味していると誤解される……。

「いいや」

「俺もなんか買おうかぁ」

 下りのエスカレーターに乗りながら、俺も買うかみたいな軽いノリで口にした。

「いいのがあったら買えば?」

「そうだな。買うの決めてんの?」

「決めてるよ。最近、吸収性のいいトランクスが発売されたって母さんが言ってたから、それ買おうかなって」

「俺汗っかきだから、吸収性のいいやつはありがたいんだよ」

「機能性を求めるとかおじさんの仲間入りだな……」

「はぁ⁉︎スポーツ選手なら機能性を追求するのは常識だろ?」

 動揺して、思わず声が上ずってしまった……。

「それはわかるけど、デザイン的に色気はないよな……」

「まだそういうことを気にする歳でもないっしょ」

 余裕ぶった返しをする

「気にする頃には色気もあるのが発売されてるといいな」

「だな」

 

 オチがつく頃にはお店の前に着き、迷うことなくトランクス売り場に行く。

「意外と人気あるんだな。もう残り4枚だぞ」

 ほれ見ろと言わんばかりにドヤ顔を決めた俺に、颯馬が現実を告げる。

「こっちの紺はな。けど両隣のグレーと黒を見ろ」

「……」

 言葉を失った。

「減ってても1枚か2枚ってとこだろ?」

「まぁ、紺があるのに、進んでおじさん感があるこの2色を選ぶ人は滅多にいないだろうな」

「確かに……。俺も紺にするかな」

「なんだかんだ、デザイン気にしてんじゃん」

「さすがに他のはないっしょ」

 少しトーンを落としてそう言った。

「だよな。履き心地良かったら教えてくれよ。俺も買うから」

「いいけど、そのときには紺切らしてるかもな」

「大丈夫だろ。こんだけ人気なら再入荷するだろうし」

「それもそうか」

 レジへと向かい、会計を済ませた。


 買い物も終わったしそろそろ帰る頃かなと思いながら、右腕にはめた時計を見る。

 颯馬も同じように確認していたが、驚いているようで言葉が漏れる。

「もう12時か。早えな」

「なんだかんだすることあったからな。普段はシニアの練習にスイミングスクールと自宅での自主練を繰り返す日々で、街中で買い物なんて生活とは無縁だからな」

「だな。唯一してないことと言えば映画観賞か……」

 ここにきて、時間のかかりそうな予定を加えようとしてくる颯馬……。今日はそんな面倒なことに付き合う体力ないんだけど。絶対寝ちゃうだろうし。

「俺には男同士で2時間もポップコーンを食いながら座って観続けるほどの忍耐力はないから、それは彼女と行け。と言うか福岡に帰省するんじゃないのかよ?」

 と返した。

「いねえよ。いないから親友の昴を誘ったんだろうが」

「それってさ……彼女がいたら俺よりも彼女の方が優先度が高いってこと⁉」

「当たり前だろ」

 急すぎる非情な宣告を受けて落ち込む俺に、

「そう落ち込むなよ。俺は昴と違ってイケメンではないからな。少ないチャンスをモノにするためには優先しないと生涯彼女はできないだろうからさ」

「フハハハハ。やっぱり颯馬は面白いな」

「笑うとこじゃねえだろ?」

「いやいや、すまん。なんか真面目な理由だったから面白くてさ。でもそれなら納得できるかな」

「それより腹減ったし昼飯だけ食べたら解散しようぜ。このあと、福岡に帰省するから早く帰んないと行けないんだ」

「了解。いつ帰ってくるの?」

「週末には帰ってくる。眠いから飛行機の中では寝てるだろうな」

 そういや颯馬の奴、今朝の6時にLINEしてきたんだったな。

 爆睡していた俺は陽射しで目覚めかけていたが、まだ寝てたいというのが本音だった。

「ってか、もしかして寝れなかったの?」

 疑問に思った俺が訊くと、

「そうだよ……。帰りの車の中では爆睡だったみたいだけどな」

 意外だった。颯馬は図太そうに見えるが割と引きずっていた様だ。

「おかげで帰ってからの眠りが浅くて、体内時計が狂っちまったぜ」

「時期に元に戻るだろ」

「昴は眠れたの?」

「俺は颯馬ほど神経質ではないからな。車の中でも自宅でも爆睡だったらしいよ」

「そうか。昴はフルスロットルで活躍してたもんな……。決勝戦での俺は見所なしだったからあんまり疲れてないんだよ」

 ポジティブモンスターな颯馬がここまで弱気になっている姿を見ることは滅多にない……。

 その颯馬がこんなに落ち込んでいるのは、それだけ彼がこの大会に真剣だったからだろう。

「今日は早く帰って寝ようぜ。沈んだ気持ちのまま起きてても、苦しいだろ?」

 と言った俺の一言が締めとなり、俺たちはお互いに帰路へと着く。

 会話の最中に知ったのだが、今日の16時の飛行機の便で畑下家は故郷の福岡へと帰省するらしい。

 戻ってくるのは金曜の夜になると、スマホに残したメモを見ながら言っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ