目覚めの悪い朝
意識がはっきりするにつれて、敗戦のショックが脳裏を過ぎる。
スプリットに三振したシーンも、バックホームが間に合わず、ゲームセットを告げられた瞬間の絶望も、鮮明に覚えてる。
終わった、のか……。
「あー、世良に勝てなかったんだよな……」
左拳にグッと力を入れてから独り言を呟いてると、机に置いていたスマホが鳴る。
誰だよ、こんな朝早くに⁇
今日から来週いっぱいまで練習は休みだって、昨日の終わりに監督が言ってたんだから休ませてくれよ。
面倒に思いながらも手に取って画面を覗くと……「おっはー。起きてるか?俺だよ、俺」と雑な文面のLINEが届いていた。
送り主は颯馬だった……。
颯馬の奴6時5分に送ってきてやがる。今が6時13分だから、別に極端に早くはないが、朝に弱い颯馬がこの時間帯から起きてることは意外だった。
既読すると面倒なことになりそうなので、しばらく無視することに決めて部屋を出る。
顔を洗ってリビングに行くと、すでに両親と姉さんがいる。
務は?あいつはまだ寝てんのか?
「おはよ……」
「おはよう‼」
魂の抜けたようなトーンで言う俺に、元気よく返してくるお母さん。
朝っぱらからこの人はすごい。素直にそう思う。
「ご飯できているけど、食べる?」
「うん。ありがとう」
いつもと変わらない朝食を食べ終えて歯を磨いている最中に、奴から電話がかかってくる……。
着信音が鳴った時点で、察しは付いた。
「あ、颯馬くん‼いるよ。ちょっと待ってね」
と洗面所まで聞こえる声で話していたお父さんが、俺のところまで渡しにくる。
うがいをする直前だった俺は、喋れないので、代わりに右手で制止のポーズを示した。
歯磨きを終えた俺はやむなく子機を受け取って、電話に出る。
「なんだよ!負けた翌日だってのに」
呆れながらも、語気を強めて言う。
「そう言うなよ。練習しようぜ?」
軽々しく言う颯馬。
「本気で言ってんの?」
「じょーだん。友達として遊びに行きたいだけ」
今度は真面目な口調に変わっていた。
「ならいいけど…俺も今日は野球から離れたい気分だからさ」
「……。んじゃ10時に越智駅集合な」
「わかった。けど何すんの?」
「……」
「決めてないんだろ?」
「バレたか。まぁまだ時間あるし集合までに決めとくよ」
「よろしく頼む」
通話を終えて子機を戻すと、朝のニュースが始まったのでそのままリビングに残って観ていた。
ほどなくしてプロ野球のコーナーが始まった。
8月も前半が終わろうとしているが、早くも優勝を諦めて来年以降のシーズンを意識した選手起用に切り替えている球団があった。
それは……『ペガサス』だ。
まだCS進出の可能性が残っているにも関わらず、シーズンを諦めた采配にスタジオゲストの園部さん(ペガサスOB)は、辛口なコメントをしていた。
辛口なコメントを求められてスタジオに呼ばれていると思うので、番組側の言いつけ通りに言っただけなのだとは思うが…。
そしてこのタイミングで監督の瀬川さんが今季限りでの辞任を申し出たことも発表された。
ペガサスは元々、俺と颯馬の暮らしていた多摩地区をホームグラウンドとして戦ってきたチームなので、少なからず応援はしていた。俺はフェニックス推しだったが……。
瀬川さんは6年間もペガサスの監督を務めて、2度のリーグ優勝に導いた実績があったが、チームの成績不振を人一倍重く受け止めていたってことか。
ペガサスファンの颯馬にとっては朝から衝撃的なニュースだっただろうな。
後任については未定とのことだったが、俺の人生を一変させた『NPB12球団ジュニアトーナメント』でお世話になった、蓮沼さんに監督就任のオファーがあるかもしんない。
昨日のバックホームの影響か、足首を軽く捻挫しているなと気付いたのは帰宅して荷物をしまい、階段を上がって自室に向かおうとしているときだった。
かつてないほど全力で投げたあの送球は自分的にはベストな動作をしていたつもりだったが、知らない間に無理のある身体の使い方をしていたのかもしれない……。
その衝撃が足首を襲った、というわけだ。
歩けないほどの痛みがあるわけではないけど、激しい運動ができる状況ではないぞ……これは。
ニュースは終わったけど、まだ時間はあるし、部屋でゆっくりマッサージしてから、フェニックスカップの大会期間中に届いていたメッセージに返信して過ごそう。




