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世代交代  作者: 砥左 じろう
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大学時代の同級生

 久しぶりに大学時代の同級生たちと駅前にできたおしゃれな雰囲気のカフェに来ていた私に、彼女たちは次々と質問を投げかけてくる。

「ねえ、さっきのフェニックスカップ決勝戦観た?」

 さっきまで家事をしていたという琴音が言う。フェニックスドーム主催の試合は日テレで放送しているので、午前中のワイドショーが終わるとすぐに中継が始まる。

「観てない。仕事の残りがあったから今朝からずーっと働いていたから」

「今ってお盆だから休みじゃないの?」

 不思議そうに訊く琴音。

 どこの一流企業もそれなりの役職に就く者は多少なりとも休日出勤をしたりしてプロジェクトの遅れを取り戻したりしている。

 そうすることで納期を守っているのだ。


 琴音は3人のお子さんの母親になって以降、社会人生活から遠ざかる日々を過ごしている為、この辺の事情には疎い。こうしたところに私たちの歩んできた人生の違いを感じる……。

「そうなんだけど、残りが気になっちゃって落ち着かなくてさぁ…」

 忙しいアピールにならないよう、私の性格に問題があるように聞こえる言い方をした。

「ふーん」

 頷いてひと段落付くと、琴音は話を続ける。

「ねぇ、昨日息子が言っていたことなんだけど、『風斂高校』が昴くんをスカウトしようとしているらしいよ。知ってた?」

『風斂高校』とは司の母校であり、多数のプロ野球選手を輩出している、超が付くほどの名門校だ。

「そんなこと私が知っているわけないでしょ。あの人私にはそういう話しないし…」

「同じ職場なのに、そういう子供トークしないのかぁ……。あくまで同僚として、業務に必要な話しかしないってことなんだね」

 落胆したように言う琴音。

「まぁそんなところかな。あれ⁉でも、どうして琴音の息子さんはスカウトの話を知っていたの?」

 いきなり大きく話題を変えるのではなく、少しだけ変えようとした。

「あー、監督さんが誰かと電話しているときに聞こえたらしいよ。もしかして…相手は司くんだったりして」

 風斂高校の監督さんが司の恩師であることは知っていたし、一条司を語る上で欠かせない存在であることから、今も接点があるとは思う。


「龍馬がさぁ、『あんな化け物が入学したら、3年になっても俺はレギュラーになれないかも』って嘆いていたのよ。今はベンチ外でスタンドから応援している状況だけだから、なおのこと焦りがあるのかもね……」

 そこまで聞いて、なぜ琴音がフェニックスカップを観ていたのか分かった。彼女は龍馬くんの不安に寄り添っていたのだ。

 不安を吐露した息子さんを見て、「努力すれば大丈夫」なんて陳腐な言葉をかけてもらったところで、不安を拭い去れると思わなかったから、観ていたのだろう。

 以前は野球なんて全く興味のなかった彼女だが、変わったものだ。

「あそこで1年生からベンチ入りするのは厳しいでしょ」

 と、ここまで口数の少なかった優香が突っ込んだ。


「でもさ、もしもだよ。昴くんが風斂に進学したら息子と同じ時期にプレーすることになるのかも……。そうしたら龍馬はどうなっちゃうんだろう」

 ……一瞬ピンとこなかったがすぐに理解した。

 龍馬くんが3年生で昴くんが1年生ということになるからか……。

 そして3年生でレギュラーになれなければ、試合で活躍してアピールできる機会も当然減る。控えでは、仮に甲子園に出れたとしてもよほどのことがない限り、スポーツ推薦での六大学などへの進学が絶望的になることを意味している。

 先のことを考えると心配になるのは私も同じだが、世の中のほとんどの心配事は杞憂で終わると思う。

「そもそも、いくら昴くんでもいきなりレギュラーになれるのかな?」

 風斂ほどの強豪校で1年生からレギュラーにななれるのか疑問に思った私は訊いた。

「レギュラーになった子は少ないみたいだけど、風斂は実力主義だから1年生でもベンチ入りする子は毎年何人かいるみたい。龍馬の同級生の菖蒲(あやめ)くんっていうキャッチャーは入学当初からベンチ入りしていたし、それに環の元カレも1年生の春からベンチ入りしていたじゃない」

「そうなんだ……」

 訊いておきながら他人事のように返してしまった。


「ところで、良太くんはもう受験勉強始めていたりするの?」

 場の空気を読み、冷静に回す優香。

 良太は夏の大会で初戦敗退するや否や、勉強に熱を出し始めている。

 あの子はあの子なりに現実を理解しているのだと思う。今日も夏季講習に行っている。

「うん。最近始めたばかりだよ。まだ志望校は決めてないみたいだけど、もしかしたらこれから学校見学とかで忙しくなるかもしれない」

「さすが環ね。準備が早い」

 いつも通りの落ち着いた口調で話す優香。この間合いは学生時代から変わっていない。

「仕事が忙しくなる冬までにしておかないと、来年大変になりそうだから…」

「環の役職は大変そうだし、旦那さんに同行してもらうんじゃダメなの?」

 不思議そうな顔をしていた琴音にそう言われる。


「うーん、難しいと思う。今、長期海外出張中で家にいないからさ」

 家庭内の事情を怪しまれないように告げる。本当は何年も別居中なのだが……。

「あー、前会ったときに旦那さん忙しいって言っていたよね」

 一瞬、何かを察したような表情を見せたが、すぐに普段通りの表情に戻り、私に合わせるような反応をする優香。もしかして気付かれた?

「うん。結婚したときからそうなるなって分かっていたから平気」

 不安を抱えながらも、動揺を見せないように言った。

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