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世代交代  作者: 砥左 じろう
83/92

バックホーム

試合前に監督が予想していた通りの展開になった。スコアは1対1。

ロースコアになることが予想されていたこの試合、両チームのエースが素晴らしい投球を披露して見事にそうなったわけだが、俺たちは6回から弘さんにスイッチしている。

試合はすでに7回裏に入っている。

この回を抑えれば延長戦に突入だ。


先頭は8番の額塚さんか……。

今日はまだノーヒットだが、センターの守備位置から見ていてもスイングの強さは感じる。

甘く入れば長打になる危険性が高い打者だ。

今日の弘さんは球の走り自体は良さそうに見えるけど、ボールのバラつきが多い気はする。

そんな俺の不安は的中し、2球目のインコースを狙ったのが甘く入ったシュートを捉えられて、レフトのトミーの頭上を越したが、トミーが素早く処理したおかげで長打とはならなかった。


サヨナラのランナーか……。しかもこのタイミングで代走が起用された。

背番号13を付けた3年生の塚原さんだ。見るからに足が速そう。

十中八九バントが考えられるこの場面で迎えるのは9番の音海。

喜連さんや額塚さんもそうだけど、見慣れない名前の選手が多いよな。初めて渉と会ったときも同じようなことを思ったっけ?


音海は初球のストレートを三塁側に転がして、送りバントを成功させた。

これでシングルでもサヨナラか……。

タイムをかけた監督と内野陣がマウンドに集まっている間、俺たち2年生トリオで守っている外野陣も集まる。

「絶体絶命だね」

と言う巧に俺もトミーも無言で頷く。

「頭越されたらしょうがないけど、前出るしかないか」

「だな。左中間の際どい打球は昴に任せるからな」

と無責任なことを言い出すトミー……。

「フライなら俺が捕るけど、ヒットならトミーが処理しろ」

ハァーと息を吐いてトミーは頷いた。

タイムは終わり、巧とトミーはそれぞれの守備位置へと戻って行った。


打席には1番の沖田。

長打を警戒するような選手ではないが、三振が少ないのでこういう状況で迎えるには嫌なタイプの選手である。それに弘さんは三振を量産するタイプじゃない。これはかなりヤバイ……。

つまり打球がどこかに飛ぶ可能性がかなり高いということだ。


外野陣はバックホームに備えて前進守備だ。

沖田は初球のインコース低めに決まったシュートを見逃した。

今のコースに決まれば打たれないだろうな。

2球目のアウトローへのカーブが引っ掛かり、ワンバウンドして後ろに逸れてしまう。

ワイルドピッチでランナーに3塁まで進まれた。

1球投げる度にざわつくドーム。

抜けた瞬間サヨナラが決まる状況になって、俺たち外野陣は定位置に戻る。


3球目は初球と同じところを狙ったシュートだったが、甘く入りほぼ真ん中に入る‼

ヤバイと思い息を飲んだその瞬間……沖田は失投を捉えた。

犠牲フライになりそうな打球が俺の方に伸びている‼

定位置から数歩下がったあとすぐに捕球地点に向かって助走をつける。

「昴ーーーー‼︎」

と四方八方から声がする。

多分ホームまでの距離は70m以上ある。

サヨナラのチャンスだし、ランナーは走ってくるだろう。

全力で投げても間に合うか分からないが、投げるしかない。


打球を捕り、助走して得た力のすべてをボールに伝える。

指から離れたボールは低くて速い思い描いた通りの送球になった。

完璧なバックホームだと思ったのか、颯馬はカットしない。

そしてやはりランナーも走っている。

これなら……そう願ったが、捕球した拓哉さんがタッチするより先に滑り込んだ塚原さんの生還が認められ、

「ホームイン。ゲームセット」

と無情にも試合終了が告げられた……。

球場は沸いていた。それは歓声と悲鳴が入り乱れたものだった。


現実を受け止め切れず茫然としていたが、整列の声が掛かり重い足取りでホームへと向かう。

整列をしている最中に平静を取り戻し勝者を称えた。

すぐに表彰などが始まった。

その後、色々な人に話しかけられたりした気がするが、あまりよく覚えていない。

はっきりと終わったんだなと実感したのは、通路からバスに向かう途中で颯馬に話し掛けられたときだった。

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