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世代交代  作者: 砥左 じろう
81/92

何とかしたいし、してやりたい

先頭の巧が粘りを見せて四球を選んだ。これは大きい。ベンチの空気も明るくなる。

ここで監督は零さんへの宣言通り代打を起用する。

恭さんが代打に送られた。

打撃に課題を抱えているが、バントは上手で守備走塁面においてはチームトップクラスの能力を持った選手だ。

その恭さんが初球から簡単に送りバントを決めた。

相変わらず上手いけど、1点差で終盤なのに随分とあっさりバントを許したなと不思議に思う。


これで1アウト2塁。ここまで長谷川さんに一方的に抑え込まれてばかりだった試合展開に変化が起こり始めている。

3巡目。当然バッテリーも攻め方を変えてくるだろう。

外野は浅い。バックホーム体制か。

なら頭上を越す強打で……って、空振りか。初球からスプリットかよ。容赦ないなぁ…。

だが2球目のストレートを初めて芯で捉える‼

打球はレフト線を襲うが、惜しくも切れてファールだ。

フェアだったら確実にタイムリーになってたのに…。

まだ振り遅れてるってことか。


追い込まれてしまい最後は食い込んでくる横のスライダーを引っ掛けてファーストゴロに倒れる。

甘めのボールではあったけど、完全に俺の打ち損ないだ…。

続く信介さんに期待するも、決め球のスプリットに当てるのが精一杯という感じのピッチャーゴロに終わった。

ドーム内に勝負あったな…みたいな空気が漂い始めている気がしてしまう。


そしてマウンドには交代を告げられた零さんに代わり弘さんが上がる。

浜野シニア戦でも旭山ドリームス戦でも登板機会がなかったことを思えば、弘さんがフェニックスカップの本選、それもドームで投げるのはこれが初めてだということに気づく。


だけど、センターの守備位置から見るに動揺しているようには見えないし大丈夫そうだ。

弘さんは結構メンタルが強いし、この大一番でも自滅するようなことはないと思う…けど、突然乱れてもおかしくはない。

俺が守備に就く前に監督が俊のところに行って「万が一がある。肩を作っておけ」と言って準備させていた。

零さんと長谷川さんが作ったこの試合のピリついた空気。

そこに別のピッチャーが登場するのは、流れを引き寄せる可能性もあるが勝敗を決定的にしてしまうリスクもある。

それに零さんはまだ限界を迎えている感じではなかった。

裏目に出なければいいのだが…。


弘さんが迎えるのは5番の長谷川さん。

初球から強気にインコースを要求する拓哉さん。

弘さんは高低というより左右を活かして抑えるタイプなのでこういうリードになることは多い。

強気にインコースを攻め続ける弘さんだったが、3球目のシュートが甘く入り、三遊間を破られた。


わかってはいる…今の鷺沢にこの場面は荷が重いということを。

元々ストレートがシュート気味に動く球質だった為、綺麗なストレートに直させるより、シュートボーラーとして育成する方が大成するのではないか、そんな可能性を感じて1年生だった5月に変化量の大きいシュートを教えた。

そして2種類のシュートを投げ分けられるようになって以降、1軍の戦力となった。

だが…その時期は2年生の4月と遅く、俺の想像を上回る遅さに当時は驚いていたことを思い出す。


しかし覚えたところで、小田嶋のような制球力も一条のような球威も持たない彼が強豪を相手にシュートだけで抑えられるほど、野球は甘くない。

そして俺は大きく曲がるカーブを教えたが、不器用な彼は1ヶ月掛けてようやく覚えることができた。

武器であるシュートを活かす為に覚えさえすればいいと思い教えたが、今では空振りを奪う武器にまで磨き上げている‼︎


確かに小田嶋や一条のような器用さはない…が、微妙にシュートするストレートにしっかりと変化するシュート、それに空振りを奪えるレベルにまで磨いたカーブ。

どれも時間は掛かっているし、プロで活躍できる素材であると現時点で太鼓判を推すのは難しい。

だが、成長期に入り球速は130kmの中盤まで伸びているし、高校で化けるタイプの選手なのかもしれない。最近になってそう思うことが増えていた。


改善すべき要素も多々あるが、不器用なりに成長しているあいつにもこの大舞台で活躍してもらうことで、スカウトたちにその可能性に気付いてもらいたいという親御心も少なからずあって、まだ投げられそうではあったが小田嶋を交代させた。


0アウト1塁で打席には6番の藤井さんにも関わらず、世良の監督はバントのサインを出しているようで、バントの構えをしている。

マジか?と思いながらも守っているとホントにしてきた。

しかし、強くなってしまったところを見逃さず前進してきた藤田さんが打球をセカンドに投げてアウトにする。

好判断だ。藤田さんと誉には打力の差こそないが、守備力には明確に差がある。

とくに捕球面だ。送球で言えばピッチャー出身の誉の方が上かもしれないが、安定感を初めとしてトータル的に見ると藤田さんに分があるように思う。


藤田さんのナイスプレーのおかげで1アウト1塁となった。

ここで打席には7番レフトでスタメンに入っている渉だ。

渉は本選に入ってからはあまり長打が出ていないようだが、予選では2本のホームランを打っていることから分かるように結構長打力がある。


ここでも弘さんは初球から強気のインコース攻めを見せる。

渉も必死に食らいつき2ストライク2ボールとなった。

粘る渉の反応を見てか拓哉さんはアウトコースに構えた。そこに投げられたボールは?


カーブ⁉

今日始めて投げたカーブがアウトローに決まったかに見えたが、渉は崩されながらもバットを合わせてリストを利かし、センター返しをする。

球足の速いゴロが弘さんの左側を抜けて行った。

マジかよ⁉と思い1塁ランナーを3塁に進ませないため俺は猛ダッシュする。

だが、そんな俺のプレーは不要だと言わんばかりにあの男が打球を捌く。


ショートの颯馬だった‼︎

長年一緒にプレーしてきた俺が颯馬の守備力を信頼していないわけではない。

でも、今の打球に追いつくとは思っていなかった……。

上手く足を運びながら打球を捕った颯馬は2塁を踏んでからファーストの宗さんへ矢のような送球を投げ込んでゲッツーを完成させると、センターの俺の方へと振り向き舌を出してニタッと笑ったあと、渾身のドヤ顔を決めてきた。


颯馬にとっては大したプレーではなかったようだが、観客席は大いに沸き立ち、

「おおおおぉぉぉぉ‼‼」

「すごーい‼」

「さすがは決勝戦」

といった歓声が響き渡った。


相手の攻撃の芽を摘み取る好プレーの数々が飛び出して、6回裏は終わる。

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