小田嶋零
重たい空気の中でも引き続きマウンドに上がる背番号1を付けた支倉シニアのエース、『小田嶋零』その存在は小学生の頃から全国的に広く知られていた。
神奈川の名門『好京リトル』で6年生のときに全国大会を制覇。
更にU12でもエースを任されて準優勝に貢献した実績を引っ提げ、支倉シニアに入団。
抜群のコントロールと変化球のキレの良さを武器に1年春から能勢と一緒にベンチ入りを果たし、夏以降はエース格としてチームを牽引してきた、言わずと知れた野球エリート。
因みに学業も優秀で、文武両道のエリート校として名高い聡尽学園の中等部に通っている。
家族構成に関しては父親が医師で母親が専業主婦、そして子供は3人という俗にいう勝ち組のような家庭だ。
母親は結婚するまで知性の高さを感じさせるプレーが持ち味のバドミントン選手として、その界隈ではそれなりに有名だったようだ。
江戸時代から続く由緒ある医師の家系に生まれついた父親は、医師になる以外の選択肢を与えらず、幼少期から医師を志し続けた典型的なガリ勉だったらしい。
高校野球関係者や俺たちプロのスカウトの間で頻繁に名前の挙がる選手だが、中高一貫の聡尽学園に通っていることから、そのまま進学するのではとの説が有力なっている。
ただ、聡尽学園の野球部は毎年県大会ベスト8か良くてベスト4といった感じなので、現実的に甲子園出場は厳しい。
その為、競合ひしめく神奈川で甲子園出場を目指すのであれば、他校に進学する可能性も十分あり得るは思う。
最終的には本人の意思に委ねられてしまうので何とも言えないが、それでも俺たちプロのスカウトが変わらず調査していく選手であることに変わりはない。
その小田嶋が2番の杉山から始まる好打順と3度目の対決に入る。
前の回で全てを使い切った印象を受けていたが、投球に変化はなく安定している。
杉山にはボールになるスライダーを振らせて空振りの三振に仕留めた。ストライクからボールに変化するいいボールだ。
ここで迎えるのは3番の橋舘。
1ストライク2ボールからの低めのストレートを拾われセンター右前に落ちるかと思ったが、センターの一条が素早く前進してきて、最後は滑り込んでグラブをはめた右腕を思いっきりクロスしてキャッチした。
プロ野球選手かと思ってしまうようなその華麗な身のこなしにドームは歓声で包まれた。
右打者特有の切れて行く打球にあれだけの反応ができるんだ。素晴らしいと言う他ない。
ホント、この選手はどのプレーにも華があるな……。
彼を見ていると同じ野球人としてその才能が羨ましくなる。
これで2アウトか。立ち上がりの制球の乱れを修正してよくゲームを作っていると思う。
先制タイムリーを許している4番の喜連に対しても臆することなく攻め切れている。
2ストライク2ボールから粘られたが、7球目の渾身のストレートが膝元に決まって見逃し三振となった。
強気にインコースを攻めてくるあたり、冷静ながらもどこか気の強さを感じる。
そしてこのストレートの球速が……自己最速タイに並ぶ134kmだった。
受けた能勢はグラブをパチンと強く叩いて喜びを表現していた。
俺がベンチに戻ると、出迎えてくれた監督から交代を告げられた。
正直まだ投げられる。そう思っていたので驚いてしまう。
そして何より、同世代でNo. 1の称号を得ている将輝に負けたくないし、あいつより先にマウンドを降りたくない。
でも、
「小田嶋のところで代打を出す。だから次の回から鷺沢で行く。よくゲームを作ってくれた。さすが支倉シニアのエースだなと思ったよ。誇りに思うぞ」
と労われると、すんなりと頷いていた。
そして6回の攻防に入る。




