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世代交代  作者: 砥左 じろう
78/92

息詰まる投手戦

2回の裏、打席には6番サードの藤井さん。ここをストレートで見逃しの三振に仕留めるとリズムに乗ったのか、続く7番レフトの渉と8番キャッチャーの額塚さんも抑えた。

この回の零さんは良かった。

だが長谷川さんは勢いの増した投球で下位打線を3者三振に抑え込む。

この回は俺に投げたスプリットはなかった……。たまたまだったのか?

調子を取り戻しつつあった零さんだけど、9番の音海という1年生ショートにスライダーを右方向にライナーで打ち返される‼

だがこれにダッシュで前進してきて捕球したのはライトを守っている蓬莱巧だ。

このナイスキャッチにドームも歓声に包まれた。

巧は下位打線を任されていることが多い選手だが、何でも万能に熟す器用さがあり、それが彼の最大の魅力だ。

無論、守備も上手い。

マウンドの零さんも巧に拍手を送っていた。


先頭の出塁は許さなかった零さんだがここから上位打線に回る。

1番の沖田にはチェンジアップでタイミングを外しレフトフライに打ち取る。

2番の杉山さんにはカウントを悪くしながらも最後はスライダーで見逃し三振に斬ってベンチへと戻る。

巧のファインプレーのあとの投球は完璧に近かったと思う。

それでも球数は結構投じていたようで、ベンチの監督は何とも言えない表情をしていた。

3回の表の俺たちの攻撃はあっという間に終わった……。

ベンチから見ていて打ち崩せる気配が感じられない。

そんな状況でも表情を崩さずマウンドに向かう零さんの背中は大きく見えた。

3番の橋舘をインコースのストレートで詰まらせショートフライに打ち取ると、4番の喜連さんに対してはさっきの仕返しとでも言わんばかりにインコースを攻めたあとで、外のチェンジアップを振らせて三振に抑えて先程のリベンジを果たす。

これがエース。やられたままでは終われない。

打席の長谷川さんに粘られるも最後はスライダーでセカンドゴロに仕留めた。

零さんが意地を見せ、クリーンアップを完璧に抑え込んだ。


しかし4回の表が終わっても支倉シニア側のスコアボードにHのランプが点くことはなかった。

これが『長谷川将暉』さんか。3者連続三振の圧巻の投球でベンチへと戻って行った。


対照的に1アウトから7番の渉にセンター前ヒットを許し、8番の額塚さんにもレフト前ヒット許してしまった零さん。

顔にこそ出てはいないが、精神的にしんどいことに間違いはなさそうだ。

9番の音海は送りバントの構えを見せて揺さぶってきたが、結局チェンジアップに詰まりボテボテのサードゴロだった。

だが詰まったのが幸いし、ランナーはそれぞれ進塁した。これで2アウト2、3塁……。

ここで追加点を許すようなら俺たちの勝利は絶望的だ。長谷川さんが突然乱れるとかでもしてくれない限りは……。

打席には3回り目の沖田。ランナーが2、3塁なので守備位置が難しいが、2アウトなので俺とトミーは定位置にいる。

ライトの巧だけ浅めだ。


このチャンスをモノにすれば俺らの勝ちやな。

渉から始まった攻撃。いや、ちゃうな。長谷川さんの投球がこのチャンスを生んだんやな。

このピッチャー、確かにエースを任されるだけのことはある。

長谷川さんのような圧倒的な球威はないが、コントロールと変化球は中学生離れしとる。

球種で絞るには多くて厳しそうやな。ならコントロールの良さに付け込むか。


俺には昴のようなストレートがあるわけではない。

それでも監督が俺にエースナンバーを託してくれた理由、それはこのコントロールだ。

2ストライク2ボールから拓哉の構えたアウトローいっぱいに渾身のカーブが決まった。

「ストライーク、バッターアウト」

とコールされるとドーム内に歓声が沸いた。

凌いだ。エースとしてこれ以上の失点はできない。良かった。本当に良かった。

「フゥ―」

と息を吐いてベンチに向かっていると、近づいてきた拓哉から、

「ナイスボール。最高のカーブだったな」

と労われた。

「ありがとう。拓哉もナイスリード」

と返して俺たちはベンチに戻った。


4回が終わり5回に入る。

先頭の拓哉さんが打席に向かうタイミングで監督から呼び止められた。

何かを耳打ちしている。なんだ?と思いつつも俺に打席が回ってくるので、自分のことに集中する。

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