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世代交代  作者: 砥左 じろう
72/92

山場

先頭を難なくストレートでショートフライに打ち取ると、1番の鈴木さんを迎えた。

バントの構えを見せたりしながら揺さぶってくるが2ストライク2ボールと追い込んだ。

だがそこから粘られ、7球目のカーブに合わされてレフト前に運ばれた。

改めて思う。嫌なバッターだ……。

2番の河野さんに対してはストレートで押していき浅いライトフライに打ち取る。

これで2アウト1塁。


初回と違って走る気配を見せない鈴木さんだったが、あの足は脅威なので2度の牽制を挟んで3番の大澤さんに投げていたら、チェンジアップが甘く入り三遊間を破る鋭い打球が抜けて行った。

これでランナーが2人溜まってしまった。


ベンチからは監督が出てくる。

交代されてしまうかもしれないと思っていると、

「山場だな」

と左手に握った俺のボールを見ながらボソッと言った直後、

「能勢、ボールの感じはどうだ?」

と訊いた。

そう訊かれても特に表情一つ変えず拓哉さんはこう返す。

「行けると思います。この試合の空気を作ったのは間違いなく昴ですし、他のピッチャーがこの試合に、それもイニングの途中のピンチで代わるっていうのは酷なんじゃないですかね。それに今の大澤のヒットは2アウトなのに鈴木を気にしすぎた昴のミスです。でもボール自体の勢いは変わらず良いですし、続投で大丈夫かと」

途中しれっとディスられたが、確かに俺の状況判断ミスだったので、その通りだなと思った。

拓哉さんからの返しに納得した様子の監督は、

「任せたぞ」

と言ってベンチに戻って行った。

それを背後で聞いていた颯馬がふざけて監督のマネをして笑わせてきた。

「よしっ、大丈夫だな」

と勝手に呟いてショートのポジションへと戻って行く颯馬を見て拓哉さんは試合中にも関わらずニタニタと笑っていた。


「正念場ですね」

と言う友也くん。

球威が落ちているようには見えないが、上位打線は甘く入り始めている昴の変化球に対応し始めている。

「1点差だからね。もしここで失点するようなら迷わず継投だろうね」

「そうですよね」

その会話を隣で聞いていた遥が珍しく参加してくる。

「昴は6回でスタミナ切れを起こすほど体力がないの?」

「あのなぁ、遥。どんな良いピッチャーでも1試合を通して全力で投げ続けられるピッチャーなんていないんだよ。そして昴はこの試合中ここまで全力で投げ続けている」

「だからもう限界だと?」

「それはこのバッター次第かな。ここさえ抑えれば最終回は下位打線だから完投できるかもね」

「ふーん」

と言って納得した様子の遥から視線をマウンドの昴へと戻す。


気合を入れ直し打席に入った松前さんとの勝負に集中する。

バッター集中でいい。アウトにすれば何も問題ないんだから。

初球から自己最速タイに並ぶ137kmのストレートで見逃しのストライクを奪う。

バックから盛り立ててくる颯馬や信介さんの声が聞こえてくる。

前の打席の変化球攻めが効いているのか松前さんはスイングしてこなかった。

2球目のサインがインローへのチェンジアップだったことに驚いたがキッチリと投げ切った。

けど見逃されてボールとなった。

次はインコースへのストレートか。

少し甘くはなったがボールに威力があったおかげでファールとなり追い込む‼

1球投げるごとにドームに歓声が沸き起こる。


2球目のチェンジアップを平然と見送り今のストレートにフルスイングでファールか…。

結局ストレート狙いだったんだな。

今の打ち損ないで変化球を意識せざるを得なくなっただろうし、インコースに2球投げさせたことでアウトコースを活かしやすくなった。

次で決めるぞ、昴‼

ここに渾身のストレートを……。

そして投じられたボールは俺が構えていたアウトコースに決まり空振りを奪った。

捕った瞬間左手が痺れるほど威力のある1球だった。


この試合最大のピンチを脱した、と思う。

「す、すげえええ‼」

とバックスクリーンを見て騒ぐ観客席につられ、マウンドの昴から目を離し見上げるとそこには驚愕のスピードが記録されていた……。

13……9km⁉139kmってマジかよ……。ほぼ140kmじゃん。

だがマウンドの昴はこの1球が球場中に与えた衝撃に気づいていないようだったので、

「バックスクリーンを見ろ」

と叫んだ。

叫ばないと周囲の声に掻き消されてしまうと思ったからだ。

慌てて昴は振り向いた。


拓哉さんに指摘されるがまま振り向いた先には『139km』と表示されている。

いっきに自己最速を2km更新したようだ。

バッターが強打者でピンチを迎えていたのも手伝って普段以上の力が発揮されたのかな?

山場を凌ぎピンチを脱してホッと息を吐きながらベンチに向かっていると、チームメイトたちから次々と、

「おめでとう‼ナイスピッチ」

と労われた。

だが監督だけは、

「最後まで気を抜くなよ」

と言ってきた。しかしそんなことを言っていた監督も喜びと興奮を隠しきれなかったのか、笑顔を浮かべていた。

その表情を見ていたら特別な言葉などなくても十分満ち足りた気持ちになった。

監督の言っていた通りまだ最終回が残っている。最後まで気を引き締めて投げ切るぞ。

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