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世代交代  作者: 砥左 じろう
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胸中

後片付けを終えた私が部署に戻ってきたとき、丁度CMが終わりスコアが表示される。

試合は5回表を終わって2対1。緊迫した展開が続いている。

8番打者から三振を奪いマウンドから降りてくる父親そっくりの整ったルックスをした少年は、まごうことなき元カレの息子であり部下の息子でもある……。

いったい私の子育ての何が間違いだったのだろうかと思えてくるが、同時にきっと正解などないなのだということもわかっている。

それでもこうして表舞台に立っている昴くんの存在を観ると、自らの生き方に迷いが生じそうになってしまう……。


観戦中のみんなは試合の行方を気にしながらも、ビールをグイっと飲んでいる。

さっきまでの緊張感はどこへ行ったのやら……。

この部署で最高責任者である私がみっともない醜態を晒すわけにはいくまいと思い、誘ってくれた川澄さんに申し訳ない思いがあったが、丁重に断わった。

彼女はすでにデキあがっている様子だったが、元々酒癖が悪いわけではなく明るい酔い方をするので私としては不快にはならない。


それとは裏腹に、おじさん社員たちはビールを片手に野球談議を始めていた。

彼らが作り出す熱気が部屋に籠り、居酒屋にいるような気分になってきた。臭い……。


今日、息子は部活だと言っていたし帰りは私と同じくらいだろう。

夫はもうしばらく家を空けている。

と言うよりも、実は別居している……。

良太には決して言えないが、私たち夫婦は半年前から別居している。

理由は単純で、多忙によるすれ違いだ。

良太と家事代行サービスの青山さんには長期出張中だと言っているが、完全な嘘なため罪悪感がある。

いずれバレることになるとは思うが、良太の心に傷を付けたくなくて言えずにいる。


早いもので、試合はすでに中盤から終盤へと移ろうとしている。

リードしているとは言えたったの1点。初回から飛ばしている一条の疲労度についても考えなくてはならない。

だが、決勝を見据えると小田嶋は使いたくない。しかしかと言ってこの展開で鷺沢に継投するのも怖い。

フェニックスドームに舞台を移してから、より一層監督としての手腕を問われている気がする。

5回裏の攻撃、8番の蓬莱からか。

厳しい試合展開だ。相手の安藤くんは序盤こそ不安定だったが徐々に立ち直っていいピッチングをしている。

一条も負けてはいないが、残塁の多いうちの攻撃が彼の投球リズムを損なわせることにならなきゃいいが……。

昨日も30球未満だったとはいえ投げていることだし、一応この回の攻撃が終わったら鷺沢に投球練習をさせておくか。

蓬莱、橋本の2人ともアウトに終わり打順は1番の畑下へと回る。


何とかしたい。昴は頑張っているし援護点を取ってやりたい。

1ストライク2ボール。バッター有利なカウントだな。狙ってみるか。

真ん中低めのカーブを強振してすくい上げた打球は右方向にグングン伸びて行き、ライトの松前さんの頭上を越したかに見えたが、大きく腕を伸ばしたグラブに収まりアウトとなった。

一瞬、長打を期待して「オオッ‼」と歓声に沸いたドームに、今度は「オオッ‼」とナイスキャッチに対する歓声が溢れた。

2塁に向かっていた俺は捕球を確認したあとも数秒だったが動けなかった……。

これが全国トップクラスのチーム‼

予選なら楽にライトオーバーになっていたはずなのに捕るなんて。やっぱり全国はすごい。ハイレベルだ。


ベンチに戻りかけると、俺のグラブを持った守が近づいてきて、

「惜しかったな。けどナイスバッティング。まだ試合は終わってないし集中力を切らすなよ」

「うん。ありがと。松前さん上手いな‼さすがだなって思った」

と言ってヘルメットを渡してグラブを受け取り、

「ありがとな。頑張る」

と言ってショートの守備位置へと向かった。

守はこういう小さな気遣いが上手い。その印象は初めて会ったときから変わらない。

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