表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世代交代  作者: 砥左 じろう
68/92

天才の一撃

2回の裏、先頭のトミーが打席に入る。

初球、カウントを取りにきたであろうスライダーが真ん中に抜けてきたところを見逃さず強振した。

打った瞬間、ホームランだとわかる打球がレフトスタンドの中段に飛び込む。

特大の1発が飛び出してこれで同点か……ありがたい。


ベースを1周してホームへと戻ってきたトミーは満面の笑みを浮かべていた。

前の試合の悔しさもあった中、その思いを力に変えて結果を出した。流石だ。

「ナイスホームラン」

「当然の結果さ。安藤さん、ボール浮ついてるしチャンスあるぞ」

ネクストバッターズサークルから見ても安藤さんのコントロールが不安定なのは明らかだった。このホームランで立ち直るかはわからないが、早めに試合を有利に進めたい。

打席に向かう俺の名前がコールされる。

「6番、ピッチャー一条くん」

一際大きい歓声が場内に響く。

特に気にも留めずバッターボックスの土を均す。


マウンドの安藤さんは振りかぶりモーションに入る。

俺は緊張してバットの出が悪くならないよう軽く手首を遊ばせる。

これは俺が野球を始めた当初、父さんから教わったルーティンだ。

初球はインコースへのストレートだったが外れてボールだった。

そんなに球威があるほうでもないし、かと言ってコントールが良いわけでもない。

実際、この大会中の防御率も他チームのエースと比べると遥かに劣る。

それでもさっきトミーに打たれたスライダーは決め球らしく、自信があるように見える。


2球目はストライクだったが、3、4球目と外れてボールだった。

1球見てもいい場面だが、甘く入れば打ちに行くつもりだ。

長打を狙いたい。欲を言えばだけど……。

初回からスライダーのコントロールに苦労しているところを見ると、この場面で投げてくる可能性が最も高い球種は……。


振り出したバットは大きな弧を描きアウトコースやや甘めのストレートを芯で捉えた。

コントロールに自信があるわけでもない安藤さんがインコースでカウントを取りにくることはないと思い、アウトコースに絞って打ちに行った。

打球はグングン伸びて行く。レフトがこちらに背中を向けてフェンス際へと走って行くが……途中で足が止まる。

1塁ベースを回り2塁へと向かっていた俺はレフトフライだったか……と思い少し俯いてしまう。

だが、どうやらそういうことではなかったらしい。


なぜなら打球は無人のレフトスタンドまで届いたからだ‼

そう、レフトの足が止まったのは捕球体制に入ったからではなく、打球がホームランになると確信して追うのを諦めたのだ。

「オオオオォォォォオオオオオ‼‼」

と叫ぶ保護者の方達の声が3塁ベースを回ろうとしている俺の耳までハッキリと聞こえてくる。

正直、今の打球がスタンドインするとは思っていなかった。

そりゃあまぁ感触良かったけど、レフトの守備位置深かったからまさかね……。


「司さん、今のホームランすごかったですね‼」

興奮した口調で妻の弟、友也くんが言う。

実際、今のホームランはかなりすごかった。

今まで俺が見てきた中で1番と言っていいレベルのホームランだったと思う。

ありとあらゆる高度な技術が凝縮された一打だ。

多分、友也くんもそのことに気づいたんだと思う。

「今のホームランは昴のホームランバッターとしての片鱗を見せつけるのに十分な一打だったと思う」

「何がすごかったの?いつものホームランとは違うの?」

と不可思議だと言わんばかりに訊いてくる妻。

その問いに真剣に答える。

「今のは初めから外に張っていて、丁度甘くきたところに最速で下からバットを出してぶつけた。そしてぶつけたあとの左手の押し込み。どれか1つでも欠けていたらホームランにはなっていなかった。だからすごいんだよ」

「でも、以前アッパースイングは良くないって言ってなかったっけ?」

「確かに言ったね。身体の小さかった以前の昴にとってはね……。でも今は違う。身長もあの頃より20cm以上も伸び、体重も15kg以上増えた。今の昴には狙って逆方向に長打を飛ばすだけの十分な力と技術がある。恐ろしいことに、中学2年生にしてね……」

「そうなのね‼いつからあんなスイングをするようになったの?」

「小学生の頃は足の速さを活かして出塁することを目的としていたから、強いゴロを打つスイングを練習させていた。何より守備の拙い少年野球ならゴロを打てばエラーや内野安打も多いからね」

「でも身体も大きくて守備のレベルが高い全国トップクラスのチームには、予選のチームにありがちな強烈なゴロとかライナーなら正面でもエラーを誘えるとかそういうのが通用しないから、以前と同じプレースタイルで結果を残し続けることは難しい。それに投手の球速も格段に上がるし、最短で振るより最速で振らないと振り遅れてしまう。だから最短から最速を目指すスイングを目指した。最短で振れば三振は減るかもしれないが、その分長打は出にくくなる。もちろんその方が適している選手もいるが、今の昴はその枠の選手ではない。最速で振ってボールを捉えた方がより遠くへ飛ばせる。衝撃が大きくなるからね。つまりホームランを含む長打が増えるってこと。他の子で言うと倭くんもそういうスイングをしているよね」

そこまで説明すると妻はフムフムといった様子で頷いた。

話を聞いていた友也くんも妻そっくりの仕草で頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ