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世代交代  作者: 砥左 じろう
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先制点を許してしまった。大澤さんを三振に仕留めたことで気が抜けたわけではない……。

空振りを取りにいったアウトコースのストレートに合わせるようなバッティングでレフト前に運ばれた。

明らかに前の試合とは違う打撃スタイルに驚いたが、やられた。


マウンドで拓哉さんと話し込む。

「狙われてたなストレート。それも強振せずにミートされた」

「はい。カーブの制球がイマイチなところを狙われた感じでした」

「取り敢えず切り替えて、次の真鍋を確実に打ち取ろう」

「わかりました」

定位置へと戻る拓哉さんから視線を外し、ボールを見つめる。

俺にできることを……。


5番の真鍋さんにも粘られたが、6球目のチェンジアップを引っ掛けさせてショートゴロに抑え、追加点は許さなかった。

ベンチに戻る途中の颯馬から、

「まだ初回だ。湿気た面すんなよ」

と言われて、背中を軽く叩かれた。

「おう」

「必ず点は取る。任せておけ」

と元気よく言った颯馬は相手のエース安藤さんから痛烈なライナーをライト前に放って出塁した。

だが、後続が打ち損ないのアウトを重ねて無得点に終わる。


気持ちを切らさないぞ。

浮足立つことがないよう意識してマウンドに向かった。

だが、強打の旭山打線を前にして少なからず動揺があるのをここにきて実感している。

それでも抑えるのがピッチャーの役割だ。

この回の先頭6番の夏川は同世代で、NPB12球団ジュニアトーナメントの大会で対戦歴がある選手だったので、2年振りの対戦とあって少しだけワクワクしている自分がいる。

初球はチェンジアップのサインが出た。初球からなのは珍しい。

初球をストレートと読んでいたであろう夏川は裏をかかれて大きな空振りをし、こちらを見て苦笑いを浮かべている。

勝負する気がないわけじゃないんだ……悪く思うなよ。

2球目のストレートをコンパクトなスイングで振って1、2塁間に打ち返してきたが信介さんの守備範囲だった。


7番にはこの大会参加チームの中で唯一の1年生キャッチャーである依田松之助という左打者がバッターボックスに入る。

去年のU12で代表チームのキャプテンにして3番キャッチャーを任されていたらしい。

かなりのエリートなようだ。


俺、依田松之助は小2で野球を始めて以降キャッチャー一筋で育ってきて、北海道№1の選手と呼ばれることもあるほどの負け知らずなエリート選手だった。

足はそんなに速くなかったが、守備も打撃も他の子よりずば抜けて優れているという絶対的な自信があった。

そんな俺はリトルの先輩だったショートの大輔さんが入団した北海道の名門チーム『旭山ドリームス』に跡を追って入団した。

入団当初はレベルの高さに驚く日々の連続で付いて行くのに必死だったが、何とかこの大会前に正捕手の座をつかんだ。

エースの安藤さんの球を受けてきてこれが名門のエースなのかとそのすごさに衝撃を受けていたが、全国の舞台にきて初めて平凡なピッチャーなのかもしれないと思うようになった。

特に今自分に対して投げているこの一条昴という選手。名前はリトル時代から知っていた。

依田を136kmのストレートで空振り三振に仕留めた。

背後から、

「ナイスピー、次で決めちゃえ」

などと言う颯馬の応援だか雑音だかわからない声がして集中し切れないが、確実に状態は良くなっている。

評判になっていた1年生打者を仕留め、少し気持ちも乗り始めていた。


1塁側スタンドから観る昴の投球フォームが初回より安定してきていることは明らかだ。

監督の中野さんかキャッチャーの拓哉くんに体の開きが速くなっていることを指摘されたのかな?

「2回に入って立ち直れたみたいだな、昴」

「良かったわ。初回の失点を引きずってないか気になっていたから安心した」

隣の真緒も安心した様子だ。

今の打者への攻めは最高だった。この調子で投げられればいいんだが、どこまで持つかな? 

前の席で観戦している遥と務もガッツポーズをして喜んでいた。

長女の遥は普段こそ昴に冷たいが、内心では誰よりも昴の才能に惚れ込んでいると思う。

その証拠にこういう昴の目に付かない場所だと素直に感情を表している。

普段も同じように接してあげて欲しいんだけど、年頃の女の子は難しいな……。

また、同じく前の席で観戦している真緒の弟、友也くんにとっても甥っ子の活躍を願う気持ちは俺たちと同じようで、真剣な眼差しで試合の行方を見守っている。


初回の投球を終えた後、監督に呼ばれて、

「ベンチまで縦振りを意識してカーブだけのキャッチボールをしなさい」

と言われるがまま、ベンチにいる守に付き合ってもらって計11球投げた。

そして拓哉さんがセンターフライに倒れたのを確認して、最後に1球だけストレートを投げると、そこには本来のキレを伴った自分のストレートの姿があった。


ストレートの調子が良くないときはカーブの調子も良くない。これは俺の元々の身体の使い方が縦回転だから。

だから監督は縦のカーブの状態を良くすることで、俺のストレートの状態も戻せると考えてあんなことを言ったのか。


8番センターの千葉さんに対しては縦のカーブで全くタイミングが合っていない空振りの三振に斬り、2回は3者凡退の無失点で抑えてベンチに向かう。

歓声に沸くフェニックスドーム。自分の投球がこの歓声を生んだことに誇らしさを感じたが、打席が回ってくるのですぐに思考は切り替わる。

忘れてはいけない。俺たちは0対1で負けている……。

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