ファミリーデー
上司として一応司に声を掛けてみたが、結局不参加とのことだったので当初の予定通りのメンバーでファミリーデーは進んでいた。
現在午前の部は終わり、お昼休憩を挟んで午後の部がスタートしていた。
司の家族も私の家族も参加していないこのイベントだが、他の社員たちには大盛況でオフィス内は大いに沸いていた。
社員の日頃の業務内容から家族のことまで話題は豊富で、会話が落ち着く気配はない。
だが、そんな一大イベントも終わりを迎え、徐々に帰り始めていた。
そんな状況の中で、ある社員さんの家族が司のオフィスに置いてある家族写真を眺めているのが目に入ったので、私は近づいて様子を見る。
その人のネームプレートには川澄正人と書かれていた。川澄さんのお父さんだ。
川澄さんも当初は「彼氏と旅行に」などと言っていたが、急遽彼氏の仕事が決まってしまったらしく参加することに決めていた。
彼氏が来られなくなったので、お父さんを呼ぶって言っていたわね。
彼女のお父さんは川澄さんの容姿からは想像もできないほどガッチリとした体格をしている。
何かスポーツをやっていたのだろうか?
そんなことを思っていると川澄さんは近づいてきて私に話し掛けてくる。
「あっ‼ひょっとして、私とお父さんが似てないなって思っていませんか?」
「えっ⁉」
いきなり核心を突かれ驚いてしまった。
「いいですよぉ。昔からよく言われてきたんで」
とおどけた表情で言う。
「そうね。思ったわ。お父さん、何かスポーツされていたの?」
「あー、高校まで野球していたみたいです。確かポジションはキャッチャーだったって言っていたかな?」
と顎に手を当てて言う。
なるほど、だから司のことが気になるのか……。
「お父さんに、『今日は司さん来ないと思うよー』って言ったのにそれでも行くって聞かなくて来ちゃったんです。ホントはサインが欲しかったみたいで……」
彼女のお父さんの気持ちを思えば2人を合わせてあげたい気持ちになったが、司には司の事情があるので無理に参加させることはできない。
それでも私なりに何かできることはないかと思い、テレビで中継されていることを思い出して話してみる。司本人ではなく彼の息子だけど……。
「あの、今テレビで一条の息子さんが出場しているフェニックスカップっていう中学生硬式野球の最高峰の大会がテレビ中継されているのですが、御覧になられますか?」
と訊いてみた。
「そうなんですか‼へぇー、あの一条さんの息子さんが……もうそんなに大きい息子さんがおられるのですね⁉ぜひお願いします」
川澄さんは困ったような表情をして何度も頭を下げる。
「いいのよ。せっかく遠方から訪ねてくださったんだし、何か娯楽があってもいいんじゃない?」
「すいません。お心遣いありがとうございます」
私はテレビを点け、チャンネルを日テレにする。
すぐに試合が映った。
まだ試合は始まったばかりのようで、1回の表2アウト3塁で旭山ドリームスの攻撃だった。マウンドには2年生の昴くんがいる。
彼は真剣な顔つきをしていた。その顔はすぐ側のデスクで司が時折見せる表情そっくりだ。
画面が映ってすぐに、参加者をお見送りした社員たちが部署に戻ってきた。
「おおぉ‼野球を観ているのかな谷川くん?これって確か……」
と部長の青柳さんが言う。
「あぁ、今日昴くんが投げるって昨日司さんから連絡あったみたいなんです」
と部下の谷川くんが返す。
「ほほぉ。ピンチですか……。加藤さん、チャンネルは野球でいいのかい?」
「えぇ」
とだけ短く返した。他に観たい番組もなかったし、なんと言っていいかわからなかったのだ。
それに部署のメンバーは試合を食い入るように観ているし。
昴くんは4番にタイムリーを打たれて1点を失っていた。
「今頃一条くんも緊張して見守っているんだろうね。これは彼が今日ファミリーデーに参加していたとしても気が気じゃなかっただろうね。ハハハ」
青柳さんの豪快な笑い声がオフィスに響く。
それにつられるように川澄さんのお父さんも笑っていた。
2人は年齢が近いこともありすでに意気投合している。




