ホテルにて
ホテルに戻り自分の部屋……と言っても同部屋の守と一緒にコーチから送られてきた対戦資料とベスト4まで勝ち残ったチームの顔触れを見ている。
残っているのは支倉シニア・世良ビッグボーイズ・旭山ドリームス・中岡シニアか。
対戦カードは明日の第1試合が『世良ビッグボーイズ』VS『中岡シニア』で、第2試合が『支倉シニア』VS『旭山ドリームス』だ。
決勝にエースの長谷川さんを投げさせるなら、世良の先発投手は同世代の森垣渉だろう。渉とは小6のNPBトーナメントで知り合った仲だ。
中岡シニアにも評判になっている選手がいて、それがエースで4番の川上竜平さんだ。
多分この2人が投げ合うんだろうな。
一方の俺たちについて考えていると、守から急に右肩をトントンとされた。
「どうした?」
と訊くと、守がスマホを見せてきた。
「これ、明日の先発昴だってさ」
こちらも決勝をエースの零さんに託すなら俺だろうなと思っていたので、特にどうということもなかった。
仮に明日も零さんが投げるような展開になってしまったら、連投になるので決勝は大会規定で投げられない。
そうなると俺か弘さんが先発だろうなと予想していたので、旭山の試合を観ているときから攻め方などはある程度シュミレーションしていた。
「驚かないの?」
「別に。旭山の主力打者に左が多かったし、弘さんだと厳しい気がする。タイプ的に打ち込まれてた三田村さんと似てたから」
「よく見てるんだね」
「先発するかもなと思いながら観ていたからね。正直かなり厳しい試合になると思う」
「だね。4番の松前さんが要注意人物であることに変わりはないけど、1番の鈴木さんの方が厄介そうだよね」
「そう、そこなんだよ。さっきの試合で鈴木さんが出塁した4回全部が得点に繋がっていたからさ」
鈴木さんを塁に出さないことが重要だ。つまり打線として機能させないということ。
「緊張してる?」
「少しはね。でも大丈夫」
「何が大丈夫なの?」
と探りを入れてくる守。
「とにかく大丈夫なんだよ!結果は必ず付いてくるから」
「ベンチから応援してるよ」
「ありがとう。来年はバッテリー組んで戦いたいな」
喉が渇いた俺は水分が欲しくなり備え付けの小さな冷蔵庫を開けるが、すでに空になっており軽く落ち込んでいた。
その様子を見ていた守に売店に行って買ってくればと提案され、売店へと足を運ぶ。
着くとそこには知っている顔が2人いた。
世良のジャージを着た選手たちだ。確か……沖田ともう1人は誰だっけ?
キョトンとしている俺に2人は近づいて来て話しかけてきた。
「よぉ‼一条昴だろ?覚えとるか俺らんこと?」
「左にいるのが沖田で右が……」
「おいっ‼」
と軽い突っ込みを受けた。
「俺は橋舘だ。ったくこれやから東京者は」
東京者は関係ないだろと思ったが口にはしなかった。
「ああぁ、橋舘ね。いたね。今思い出した」
「こんな時間になんで2人がいるの?」
「なんでって、小腹が空いてな。ちょっと買いに来たんや」
それは手にぶら下げている袋を見ればわかる。
「そうなんだ。じゃあな」
と言って立ち去ろうとすると、2人が俺の前に立って通せんぼをした。
「何の真似だ?俺は水分を買って帰りたいだけなんだ。邪魔をすんな」
「ノリが悪い奴やな~」
と沖田が言う。それに橋舘も頷く。
「あのな、俺は明日投げることになってんの。だから早く帰って休みたいんだよ。今日はリリーフもしてるしな」
「明日投げるってホンマの話か?」
と言って目を丸くする2人。
「そうだよ。世良も渉が投げるんだろ?」
「そや。渉なら大丈夫や」
「随分信頼されてんのな」
「当たり前やろ。あいつは関西№1の2年生投手やで。明日の中岡シニアなんか軽~く捻ってくれるわ」
「そんじゃあ、お互いに勝ち上がっても今年は投げ合えないってことか」
「せやな。まあ関東№1の一条くんも頑張りや~」
とだけ言うと2人はそそくさと帰って行った。
邪魔者がいなくなったのを確認して俺は売店で水分と軽食を購入し、守が待つ部屋へ戻って胃を満たすと眠りに就いた。




