ライバル?
試合後に船本さんと野沢が俺のもとに近づいてきた。
「負けたよ。おめでとう」
と初対面の船本さんから言われ右手を差し出された。握手ってことか……。
「あ、ありがとうございます」
そう言って俺も右手を差し出し船本さんの丈夫な右手を握った。
すんごい分厚い……。なんだこの手は⁉
「いいボールを投げるね。今年見た中で1番の好投手だと思ってたから対戦できて良かったよ」
と褒められて、少し照れ臭くなっている俺を見た野沢が突っ込んできた。
「ちょっと先輩、俺より一条の方がいいって言うんですか?」
「そうだ。野沢、今のお前では一条には勝てないだろうな」
そう言われてムッとする野沢だったが、すぐに機嫌を取り戻し俺にこう布告した。
「来年は俺が勝つかんな。お前が俺をライバルだと思ってなくても俺はお前をライバルだと思ってるし、負けねえかんな」
一方的なライバル宣言をして1人先に去ってしまった野沢の後ろ姿を見てやれやれといった表情をしていた船本さんに、俺はある質問をしてみた。
「どうしてそんなに分厚い手をしてるんですか?」
「あー、それね。俺の実家漁師なんだよね。それでガキの頃から親父や兄貴の手伝いをしてるうちに気づいたら分厚くなってたわ。まあ野球の練習も関係あるだろうけどさ」
そうだったのか!船本さんの実家は漁師だったのか。
「そうだったんですね。あの、もう進路は決めてるんですか?」
「決めてるよ。海宝高校でプレーしたいと思ってる」
海宝高校か。石川県にある甲子園常連校だ。船本さんクラスの選手だったら全国のスカウトがこぞって勧誘にきたのだろうけど、それでも地元への愛を貫いたってわけか。
高感度上がるだろうなぁ。
「地元でプレーするんですね」
「まあね。田舎だなぁとか思うこともあるけど、石川県で生まれ育った俺にとっては1番思い入れのある高校だから。それより昴はもう決めてんの?」
ん?今昴って呼ばれたよな?よな?
「いえまだ……。もしかしてですけど野沢から訊くように頼まれてます?」
「そうか。さすがに勘が良いな。そうなんだよ。野沢が訊いて来て下さいって対戦が決まったときからうるさくてな。あいつ昴のことライバル視しているけど、ホントは大好きだから仲良くしてやってくれ」
ハァ……。直接訊いてくれればいいのに。決まってても教えないけどさ(笑)
「わかりました。まぁ俺にも多少は負けたくないなって想いがあるんであいつの存在は自分の励みになっています。お互いに刺激し合えるいい存在になれればなとは思っています」
「今の話し聞いたら、あいつ喜んでただろうな。ところでさ、SNSってやってる?」
「えぇ。LINEだけですけど……」
「なら連絡先教えてくれないか?」
「いいですよ。俺も船本さんの今後の動向には興味ありますし交換しましょう」
そして俺たちは連絡先を交換した。
「ありがとな。俺たちを倒したんだから優勝しろよ。期待してるからな」
とエールを貰い、それに対して、
「はい。ありがとうございます。頑張ります」
と答えて、去って行く船本さんを見送り、俺はチームメイトたちがいる観客席へと向かった。
船本さんの手は分厚かった。あれは漁の手伝いだけで作られたものではない。あの場では口にしなかったけど相当振り込んでいる証だ。
あんなになるまで振り込んで、中学生№1選手の称号を手にしたのだなと思う。
才能に恵まれている部分もあるだろうけど、それだけではあそこまでの選手にはなれない。
世代を代表するような選手はそれ相応の努力を重ねてきたと言える確かな日々を持っている。
そしてトップであればあるほどその背景を見せようとはしない。
船本さんとの数分間の会話でそのことを強く実感した。




