引き寄せる
投球練習を終え、先頭打者の多田を迎えた。
気持ちの入っていた俺はエンジン全開の投球で1球もバットに当てさせず、ストレートだけで三振に斬って取った。
零さんから受けとった襷をこの試合に勝ってまた零さんに繋ぐんだ。
2番の河合さんをキャッチャーファールフライに抑え2アウトとした。
遂に打順は船本さんに回った。
3塁側の応援席で見守る俺の心はザワザワしていた。
「どうなるかなぁ?」
と真緒に聞くと、
「緊張しているのはわかるし私も同じだけど、強く手を握るのは止めてくれる?」
と真顔で返された。
いつの間にか握っていた手に力がこもっていたらしい。
「ごめん。昴が出てきたら緊張しちゃって……」
「平気よ。あの子ならきっと抑えてくれるわ」
冗談とか願望ではなく、本気でそう思って言っているのが表情から伝わってきた。
「すんごい自信だね」
「だって私たちが未来を託して育てている子供だもの。だから私たちの今までにもっと自信を持とう」
と言ってニコリと笑った妻を見て頷き、昴の投球に視線を遣った。
打席でのオーラすごいな、この人‼
でもチームに勢いをもたらすために抑えてみせる。
初球、インコースへのストレートで見逃しのストライクを奪った。
打ちにくる気配がなかった。
ストレートに手を焼いていた1、2番を見て球筋を見極めたかったのかもしれない。
2球目はアウトコースへのストレート。外れてボールとなったがいいところには投げ込めた。
これでいい。慎重すぎるくらい慎重に攻めないと抑えられないだろうから。
3球目は1週間前に投げ始めたばかりのチェンジアップを投げて空振りを奪った。
ヨッシャー‼俺のチェンジアップが船本さんのバットに空を切らせた。これは今後の自信になる。
正直すんごくドキドキした‼心臓に悪い。とんでもないスイングだったな……。
当たっていたらスタンドインだったと思う。
4球目、拓哉さんから出たサインは高めのストレートだった。
このサインには迷いを感じた。チェンジアップの方が確実に打ち取れるんじゃないかと思ったからだ。
でも、ここまでバッテリーを組んできた拓哉さんのことを信頼していた俺は、頷いて投球モーションに入った。
拓哉さんの要求通り投げ切ったストレートに船本さんはスイングしてきた。
鋭いスイングで俺のストレートを捉える。ハッとして打球の行方を追うとライトに飛んでいた。
予め深めに守っていた巧は数歩下がったところで足を止め、勢いを失った打球を捕球した。
良かった。本当に良かった。にしてもすごいバッターだったな……。
球場内は溜息と歓声に包まれていた。
「ほらねぇ。私が言った通り抑えたでしょ」
「そうだね。球場中が湧くほどのいい勝負だった」
「うん。私、感動しちゃった」
「俺も。でもまだ終わってないよ。最後の攻撃が残っているから」
「そうね」
残す攻撃はこの回のみ。スコアは1対2。
最少点差で最終回のマウンドに上がるプレッシャーは半端なものじゃない。エースの田中くんも少なからず心境や肉体的疲労度に変化を感じているはずだ。
昴の投球で支倉シニアに勢いが付くといいんだが……。
最終回の攻撃、この回同点に追いつけなければ俺たちの敗退が決まってしまう。
先頭の俺は気を引き締めて打席に入った。
相手のエース田中さんはテンポのいい投球で打たせて取ることが多かったので、それほど球数を投げてないし、最終回にも関わらず余力があるように見える。
ただ、過去の2打席である程度球種も見ることができたし、打てそうな気はしている。
初球から外のカーブにバットを合わせてレフト前に運んだ。
球種の多いこの人相手に追い込まれてから打つのは厳しい。狙い球が絞りにくいから。
だったら球種に張るのではなくコースに張って待つ。
打席に向かう前に監督から言われた指示だった。
あえて大きいのは狙わずに、出塁することだけを考えて打席に入って良かった。
2打席目のチャンスで犠牲フライを打ったが、明らかな失投だったし長打にできるボールだったので、あの打席は俺のミスだ。
今の打席で帳消しになったなんて思ってはいないが、この1本が反撃の口火となってくれれば……。
7番の藤田さんは送りバントをした。これはベンチからのサインだった。
8番の巧は5球粘るも、カーブを打ち上げてしまいレフトフライに終わる。
ここまでなのか……?
万事休すとなったところで、途中から9番センターに入っている誉に回ってきた。
監督、代打出すのかな?
いや、そのまま誉が打席に向かっているぞ‼
サウスポーに強い誉は冷静にボールを選び、四球で颯馬へと繋いだ。
俺の打席といい、今の誉の打席でもそうだったけど、少しずつストライクゾーンの際どいところを狙ったボールが決まらなくなってきている。
それと早く抑えたいという思いからか、テンポがいいと言うより投げ急いでいるような気がする……。
同じピッチャーとして気持ちはよくわかるが、こういう状態のときのピッチングは失点する確率が高い。
チャンスだぞ、颯馬。




