野沢との再会
野沢優。小6のときに知り合って以降、お互いの連絡先を知らなかった俺たちは一言も言葉を交わすことなく現在まで至る。
だけど今日から行われるフェニックスカップ本選準々決勝第3試合で、およそ1年半ぶりの再会を果たすこととなる。
ドーム内ではすでに第2試合の世良ビッグボーイズ(大阪)VS三井東ボーイズ(島根)戦が行われていた。
「やっぱ世良のエース、長谷川さんはすげえな。モノが違う」
と隣でおにぎりを頬張りながら颯馬が言う。
まぁスタンドから観ていても一目瞭然なほどすごいので、確かにその気持ちはわかる。
制球を重視しているように見えるストレートでさえも常時130kmの後半は出ているし、切れ味抜群の縦と横のスライダーが面白いように低めに決まっている。
ストレートと2種類のスライダーしか使ってないのに、相手の打者を翻弄している。
これをすごいと言わずなんと言うのだろうかってほどすごい。結局すごいの一言に尽きる。
そして俺の語彙力の低さよ……。
「同感。俺たちも決勝まで勝ち進めば対戦することになるんだよな……」
と俺が言うと、
「そうだな。だけどまずは浜野シニアに勝たないとな」
「そうだったな。忘れてた」
「おいおい大丈夫かよ?優とも久しぶりの再会なんだろ?」
「大丈夫だよ。優のことはちゃーんと覚えているし、試合も勝つからさ」
「頼もしいけど、その余裕はどこから生まれてくるんだよ?」
「日頃の練習かな」
とマジレスすると、
「なら俺も自信あるわ」
と言ってリュックから水筒を取り出して水分を補給する颯馬。
試合は6回の表まで進み、4番の喜連さんに3ランが飛び出すなどして、スコアは9対0と世良の大量リードだった。勝負あったな。
俺たちレギュラー陣は監督に呼ばれ作戦を告げられた。
対戦相手の浜野シニア。中学生で硬式野球をやっている奴なら知らない人はいないであろう石川県の名門だ。
「言うまでもないが相手は強い。投打に渡り完成度の高い選手が多数集まっていると思う。厳しい試合展開になることが予想されるので、継投になると思う。投手陣は常に気持ちと身体の準備をしておくように」
その指示に俺たち投手陣4人はコクリと頷いた。
野沢と投げ合えるチャンスだったけど、前の試合で投げていることを考えると先発ではないだろう。
相手もうちのことは相当意識していると思うし、やっぱりエースの田中さんがくると考えるのが自然か。
気づいたら試合は終わっていて9対1で世良の勝利だった。
長谷川さんに代わり6回から投げていた同じ2年生の佐藤というピッチャーが最終回にタイムリーで1点を失ったが、後続は打ち取ったようでゲームセットとなっていた。
先に先輩たちがベンチへと向かっていて俺はトイレから出てきて少し遅れていたので近くで俺の荷物を見て待ってくれていた守と一緒に遅れて向かった。
そんな俺たちの前に野沢が現れた。
「よぉ‼元気そうだな」
と小学生の頃会ったときとは明らかに違う声変わりした声で話しかけてきた。
「普通かな。そっちは?」
と俺も声変わりした声で素っ気なく返す。
「絶好調だ。一昨日の堂島シニア(東京)相手にも6回を無失点だったしな」
「知ってるよ。父さんの知り合いの息子さんが対戦していたみたいだからな」
それに驚いた様子の野沢だったが、
「そんなにうちのことを意識していたとはな」
と誇らしげに言う。
「別に。俺も帰ってきてから一方的に話を聞かされただけだしな」
「まあいいさ。この試合でも全日本シニア選手権優勝チームの実力を見せてやるからさ」
「ほぉ。そりゃあ怖いな。んじゃ、続きはグラウンドで語り合おうぜ」
短い会話を終えた俺たちは再び通路を歩き出した。
「野沢の奴、相変わらずだったな」
と隣を歩く守がボソッと呟く。
久しぶりの会話で昔の記憶が蘇ってきたが、あくまで対戦相手は野沢1人ではなく浜野シニア全体なので、頭をブンブンと振って思考を切り替える。
「切り替えようぜ。マウンドに立っているのは野沢じゃなくてエースの田中さんだと思うから」
守は俺の返しに何も言わず、小さく頷いただけだった。
ベンチ内で颯馬とトミーと一緒に相手のラインナップに目を通す。
スタメンに俺たちと同じ2年生が3人いて、自然と意識してしまった。
1人目は1番セカンドの多田祥吾。2人目は5番サードの石野総我。最後の3人目は9番センターの八巻凌一。
この3人のうち、石野とだけは小学生の頃に対戦歴がある。
甘く入ったカーブを左中間に運ばれて長打にされたんだっけな……。
2年生ながら優勝チームの5番を任されていることを思うと、あれからあいつも成長したんだなと実感する。
それに彼らはまだ俺たちの味わったことがない全国での優勝をすでに経験している。
でもそこに載っている彼らよりも俺の関心を引いた選手がいて、その選手の名が……。




