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世代交代  作者: 砥左 じろう
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遥の人生とみんなの日常

「お母さーん、昴の試合どうだったの?」

「勝ったわよ。14対0の4回コールドですって」

「圧勝じゃーん。応援しなくても当たり前のように勝つでしょ」

「えぇ。でもあの子毎日のように野球のことばかり考えて頑張っていたもの。報われてよかったわ。先も長いし私も一安心よ」

「全国優勝まであと何勝なの?」

「わかんないけど、フェニックスカップ出場権獲得まではあと3勝必要らしいわよ」

「これから相手もどんどん強くなるんでしょ?」

「そうでしょうね。今頃あの子部屋にこもって試合のビデオ見て振り返っていると思うわ」

「そっか。頑張ってるんだねあいつ。私も勉強してくるわ」

私、一条遥の弟、一条昴は野球の天才だ。

その事実に気づくきっかけとなったのが、昴が小学生の頃に出場したプロ野球トーナメント大会だった。

この大会はプロ野球12球団傘下のジュニアチームで構成されており、昴はペガサスジュニアの代表として選ばれた。

そして昴のプレーしたペガサスジュニアが大会を制した。

大会を通して昴の活躍は圧倒的であり世間の話題をさらった。

それは私の通っていた中学校でも話題となり、クラスメイトや先生たちから昴の話題を振られることが多かった。

以降、私の父、一条司の名前も度々出るようになり、今度は一条司の娘と一条昴の姉という色眼鏡で接されるようになった。

今ではこういったことに慣れたため、特になんとも思わなくなったが、当時は煩わしかった。

因みに授業参観にはなるべく父には来ないようにしてもらっている。

なぜなら周囲に人だかりが出来て大変なことになってしまうからだ。


現在私は高校2年生で部活は陸上部に所属している。

私は部活でそれなりの成績を残しているが、それが将来生計を立てるのに結びつくとは思えないので、そろそろ受験勉強を始めないといけないなと思っている。

昴のような存在が極めて稀有なだけで、大方の人間はこっち側だ。

というわけで私は勉強をし始めた。


試合のビデオを見返していた。

ホームランを打ったシーンは確かに良かったが、これは甘い球だったので自分の実力からすれば打って当然と言うべきボールだった。

注目すべきは父さんも言ったように次の打席のレフト線へのタイムリースリーベースだ。

割と難しめの外に逃げるカーブだったが、最後まで右肩が開くことなくキッチリと捉えられたのは良かったし、それに加えてレフトのホームへの送球が浮く隙を見逃さずに3塁まで落とせた点も収穫だ。

なんて振り返っていたら、拓哉さんからLINEが来た。

「お疲れさん。本日のMVP。来週は昴が登板予定だからしっかり調整しておけよ」

「先輩もお疲れ様です。わかりました。今日のホームランお見事でした」

「ありがとよ。今年こそは全国制覇しような」

「ハイ。もちろんです」

「それじゃあまた練習でな」

「ハイ。おやすみなさい」

トークが終わると、俺はすぐに眠りについた。


日曜日の朝、眠い目を擦りながら起き上がってリビングに行くと、息子がスマホで動画を見ていた。

「おはよう。あの人はどこ?」

「おはよう。仕事があるからとか言って2時間前に出て行ったよ」

「そう。いつも通りね。今から朝食作るから」

「もうコーンフレークとパンにジャム塗って食べたからいいよ。それより俺も今日は部活あるしもう行くわ。じゃね」

「そ、そう。いってらっしゃい」

私が顔を洗い終わってリビングに戻って来たときにはすでに息子は家を出ていた。

ここ2年ぐらい私たち家族はずっとこんな感じだ。

他人から見ればそれぞれが自立していて自由なように感じるかもしれないが、実態はこのようにてんでんばらばらである。

私もこれから職場に行く。まだ業務がいくつか残っているからだ。

出来る限り今日のうちに片付けておきたい。

基本的に仕事を重視して生きてきたことに誇りを持っていた私だが、司が越してきて以来自分の生き方に自信が持てなくなった。

一条司という男はどうにも私の心を揺さぶる。

きっと私が今の私に満足できていないからなのだろう。

今までも悩んでいるときほど働いてきた。そうすることで気を紛らわせるからだ。

だから今もこうして誰もいないオフィスで業務を片付けている。

お昼時になり、ある程度仕事が片付いたのでオフィスをあとにし近場のカフェに入った。

今日が日曜日ということもあり、客層は大学生らしきカップルが目立っていて少し気後れした。

彼らを見ていると自分が大学生だった頃を思い出す。

司とも何度か一緒にカフェに行ったことがあったなと懐かしんでいると電話がかかって来た。

店内だったので通知を切ってスクリーンに表示された名前を確認した。

大学の同級生だった斎藤琴音からだった。

彼女とはここ数年連絡を取り合っていなかったので妙な緊張感が走った。

昼食を食べ終えるとカフェを出てすぐに掛け直した。

すぐに元気のいい声が響いた。

「あっ。環?久しぶり」

「久しぶり。急にどうしたの?」

「なんか久しぶりに環と華子と3人で会いたいなって思ってさ。最近忙しかったりする?」

「うーん。そうでもないかな。私は平気だよ。華子はどうなの?」

「平気だってさ。いつにする?」

「琴音が言い出したんだから琴音が決めてよ」

「はーい。じゃあ、来週の日曜日に越智駅のレッドボックスでどう?」

「いいよ。時間帯はどうする?」

「11時は?」

「OK。それで決まり」

「私から華子に伝えておくね。じゃまた」

「ありがとう。またね」


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