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世代交代  作者: 砥左 じろう
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記憶

「おはよっす‼ちゃんと寝たか?」

イヤホンを付けてスマホでこないだの半田ボーイズ戦の自分の投球を振り返っているのに、空気が読めないのか敢えて読んでいないのかわからずに後ろの席からそう話しかけてくる選手なんて……畑下颯馬しかいない。

こういうところは小学生の頃から全く変わっていない。

俺のこと好きすぎるだろ……。


そして平然と無視する俺の様子を見て、隣でケラケラと笑っているのはトミーだった。

キャラの濃い連中に囲まれてあんまりリラックスできなかったが、俺たち支倉シニア一行はフェニックスドームへと向かっていた。

道中の景色が都心になるにつれて、俺の意識も観光気分から試合へと変わった。

それは颯馬もトミーも同じようで、口数が減っていつものボーっとしたのとは違う、試合中に見せる真剣な表情をしていた。


およそ1時間バスに揺られ、遂に到着した。

去年も泊まった高級感溢れるホテル。

アマチュアの俺たちにこんなリッチな体験をさせてくれるのにはちゃんと理由があるらしく、1つ目はここまで勝ち上がってきたことへの敬意。2つ目はプロの環境の豊かさを体験することで、またここに戻ってきたいと思わせることにあるらしい。


去年は同じ1年の颯馬とルームメイトだったが、1拍2日の初戦敗退で帰還したので記憶が薄い。

今年もいきなり優勝候補と激突するし、去年の悪夢が繰り返されなければいいなと思う。

去年は青森県の強豪、小山内(おさない)シニアに4対5で敗れている。

その試合で最終回、1アウト1塁で代打として打席に立った俺はセンター前にヒットを放ち、チャンスを広げて反撃の1点に貢献したが……追い上げ及ばず、そこで支倉シニアのフェニックスカップは終わりを告げた。

あの当時の記憶を持っているのは2年生では俺と颯馬だけか……。


荷物を降ろしロビーに集合すると、監督から部屋割りを告げられた。

俺は守と同部屋だった。

冷静沈着な性格をした守となら、今年は落ち着いて過ごせそうだ。

守と共に部屋に向かい中に入ると、そこには確かな清潔感を感じられた。

シーツから漂ってくる柔軟剤の香りに癒される。


備え付けの小さな冷蔵庫に家から持ってきた野菜ジュースをたくさん閉まった。

その様子を見ていた守が笑っていた。

「何がおかしい?」

「いいや、別に。小学生の頃から変わらずに飲み続けているんだなって思ってさ」

「あー、まぁ結構長く飲んでるよね。将来俺が有名になったらこれの生産会社からCMに起用されたりして。ハハハ」

とふざけて言う俺に守はクスっと笑っていた。


現在時刻は11時30分になっていた。

お昼のアナウンスが流れたので、俺たちはバイキング形式の食事をしに行った。

食べ終えると練習が始まる。と言っても他の7チームもグラウンドを使用するので、俺たちが使える時間は思っている以上に短い。

明日の先発を告げられた零さんがマウンドの形状を確認しながら丁寧に投げていた。

続けて弘さんや俺、そして俊も投げてそれぞれ感触を確かめていた。

去年は立つ機会がないまま終わったので、ここのマウンドに立つのは人生で初めてだ。

新鮮だ。周囲を見渡してマウンドからだとこんな風に見えるんだと実感する。


短い練習を終えたときには、すでに次のチームの選手が数名現れていた。

あの紺を基調としながらも白のボーダーソックスを履いているチームは……浜野シニア。

そこには天才打者と言われている船本さんに、エースの田中さんの姿もあった。


強敵との対決に気持ちが昂る部分はあるが、気負いすぎるのも良くないので、こないだ読んだオリンピック水泳金メダリスト、青島丈一郎さんの本に書いてあった『泰然自若』を思い出した。

静かに闘志を燃やしながら部屋へと戻って行った。

その後はコーチから送られてきたデータに目を通しながらリラックスして過ごした。


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