2人きりの時間?
時刻は20時50分になっていた。
吊る下げてあるタオルを手に取ってお皿を拭いている真緒だったが、なんだかいつもと違い表情からは気怠さが見て取れた。
その様子を見ていて、暑さの厳しい中、朝の9時からダブルヘッダーとなっていた試合を応援していたのだから疲れていないはずはないなと思う。
俺は俺でソファに座り、洗濯の終わった衣類を畳んでいた。
俺の方はすでに終わりかけていたが、真緒はまだ終わらなさそうだった。
昨今の家事の分担の風潮に拍車がかかる前から俺は俺の得意なことはしていた。
「今日はこの辺で終わりにしよう」
「まだ時間じゃないよ?」
「そうだけど、前に言ったことあったよね?その日の21時までに終わらなそうな家事があったときは、翌日に残して寝ようって。翌日に片付けたからって死ぬわけじゃないんだしさ。でしょ?」
新婚の頃に俺がした懐かしい話を思い出したのか、真緒はクスっと笑っていた。
「そうだね。わかったわ。残りは明日にしましょう。そう言えば、さっき言い掛けていた山下さんの話ってなんだったの?」
「あー、それね。山下先輩さ、母校の清養高校から監督になってくれないかって頼まれているんだって」
それを聞くと、目を丸くして驚いていた。
「それで……受けたの?」
「いや、まだ保留中みたい」
「えっ‼もったいなくない?」
「俺もそう思う。先輩は人望もあるし指導力もある方だから、適任じゃないかなって思ったんだけど……」
「けど?」
「家庭の事情で厳しいみたい。奥さんも働いているみたいだし、それにまだ小学生の娘さんもいるみたいだから奥さんの反応があんまり良くなかったんだって」
「確かに監督になられたら家庭の事まで意識が回らなくなるだろうし、どうしたって奥さんの負担は増えそうよね」
「うん……。相談してもらったのに役に立つようなことを言えなかったよ。なんか申し訳ないなと思ってる」
「でも、それは家族以外の人が聞かれたら誰だってそう答えるしかないと思うし、司が責任を感じる必要はないんじゃないかな。司にとって恩人なのはわかるけど、この件に関しては御家族の判断に委ねるしかないよ」
真緒は熱のこもった、だけど優しく訴えかけるような口調で俺にそう諭してくれた。
そうして話し終えると久しぶりに2人だけのまったりとした時間を過ごした。
ただただ喋ったりイチャついたりするだけの時間だ。
だがそんな大切な時間は1時間も持たずに終わりを迎えた。
2階から遥が降りてきた。
「どうしたの?」
と訊く真緒に、
「ちょっと喉が渇いただけ」
と返し、冷蔵庫を開けて何かを飲んでいた。
「お母さん、明日は私も部活で朝早いから宜しくね。ああそうだ。お父さん、サインボールありがとね」
「うん‼」
「おう‼」
飲み干すとすぐに2階に戻って行った。
これでようやくイチャイチャできると思い、再び行動に移そうとすると……。
今度は務が降りてきた。
またか……と思いつつも、今度は俺が訊く。
「どうした?何かあった?」
首を振り否定する。
「寝られなくて、トイレに」
「トイレなら2階にもあるだろ?」
「そうだけど、1階の方が好き」
なんだその謎のこだわりは?
「そうか。まあ早く寝ろよ」
「うん」
と言って本当にトイレに入って行った。
「ハァー。なんだか色々な妨害が入る1日だなぁ。踏んだり蹴ったりだよ」
と嘆くと、
「私としては子供が3人いても、こうして私を独占しようとする司を見ているのはかわいいし、女として嬉しいよ。ありがとう」
「なんか照れ臭いな」
と言う俺に、
「自分から誘っといて照れてるの~?」
とかわいく言う真緒。
かわいすぎるだろ。
その後は何の妨害も入らず、寝室で真緒の温もりを側に感じて過ごしたまま朝を迎えた。




