力み
「序盤に力んでしまい、チェンジアップを思ったように投げ切れなかった……」
とボソッと零したあと、昴は少しだけ肩を落として夜空に視線を送っていた。
「でも、抑えたんだろ?」
「それはそうだけど、球数も多かったし、あんまりデキはよくなかった。」
「抑えたのにか?」
「それは全部守のおかげだよ」
「あー。そう言えば守くんが攻守に渡って昴を助けてくれたってお母さん言ってたな」
と思い出したように言った。
昴は浮かない様子だ……。
「次はもっと安定感のある投球がしたい。零さんみたいな」
なるほどな……。なんとなくわかった気がした。
今の昴は自分の制球力に悩んでいるのだ。
リトルの頃はコントロールに自信があったが、シニアに入って身体もずいぶんと成長し、球速も伸び続けている。
だがその反面、明らかに際どいコースを絶妙に突いていたあの頃のコントロールは失われている。
そしてその失ったコントロールを零くんは持っていて、自分との違いに悩んでいる。そんなところか……。
昴は成長期に突入し始めている。身体つきは今後ドンドン変化することだろう。
そうなると上手くバランスが取れず、プレーに悪影響が及んでしまう恐れがある。
特に投球面で……。
実際、2年前くらいまで誇っていたコントロールが消えたことで、投球スタイルに変化が表れている。
それでも球威は失われるどころか増しているので、中学生相手なら十分だと思うのだが、零くんの投球を見ていると不安に駆られてしまうのだろう。
「焦るなよ。昴の投球スタイルと違う人と比較して悩んでも、求めている答えには行きつかないと思う。だから今の球威の増している自分を楽しめ。成長期が落ち着けば必ずコントロールは戻ってくる。いつかまたバランスよく投げられる日が来るさ」
今は急速な身体の変化について行けていないだけだ。解決方法なんて時間による慣れでしかないと思う。
一通り話し終えた頃には妻が扉を開けて俺たちを呼んだ。
そしてお風呂から上がった遥かにサインボールを手渡した。
遥がガッツポーズをしたので、なんか怪しいと思いこう尋ねた。
「わかってると思うが、ネットに出品したりするなよ」
それに遥は苦笑して手をブンブンと振る。
ナイナイという意を示しているつもりのようだ。
「じゃあいったい誰に渡すんだ?」
「うちの野球部のクラスメイト」
「そ、そうなのか。ちゃんとした子なんだろうな?」
遥はハァーと溜息を吐く。
「お父さん、心配しすぎ。ホント、なんでこんな心配性な人のサインボールが欲しんだか」
と言いつつも、
「大丈夫だから。ありがとね」
と笑顔で言って2階の部屋へと持って行った。
食事を終えると、勉強があるからと言って遥は2階に行ってしまった。
続けざまに昴と務がお風呂に入っている間に俺は真緒と今日の試合の映像を観ていた。
昴本人は、俺の帰りを待つ前に1人リビングでジーっと観ていたらしい。
試合を観ていて思ったのは……テンポの良さだった。
2回まではコントロールが安定せずリズムに乗れていないようだったが、それ以降は比較的安心して観ていられる投球内容だったと思う。
それもこれも守くんのリードのおかげだったと言っていたが、この映像で観る限りその通りだな。
「どうなの?」
とソファで観ている俺の隣に座って一緒に観ていた真緒が訊いてくる。
「まぁ、悪くはないけど多分調子は良くなかったんだと思う。その割にはよく投げたんじゃないかな」
本調子ではなかったとはいえ、あれだけの投球ができるというのは親としてではなく、同じ野球人として羨ましく思う部分はある。
俺が中学生の頃なんて、調子が悪いと四球三昧で勝負になってなかったから……。
「珍しく手厳しいじゃない?」
「いや、そんなことないよ。きっと昴も本調子ではなかった中で慣れないチェンジアップを投げていたこともあって、苦しい部分はあったんだと思う。でも、その中であれだけの投球をしたんだから、やっぱりすごい子だよ」
「そう。2試合目の打撃はどう思うの?」
「さすが以外に言うことなしだよ」
ヒットもホームランも完璧だし、言うことがない。
バッティングに関しては幼稚園児の頃から振り込んでいるので、本人も相当な自信があるのだろう。すっかりいい打者になったし、並の中学生レベルの投手で3打席全て抑えるというのは、かなり厳しいだろうなというのが正直なところだ。
「そんなにいいの?」
「いい。ボールを捉える技術の高さにパワーが加わって、手強い打者になっているよね」
「ふーん」
とつれなく言う真緒だったが顔には笑みを浮かべていた。




