ベスト8
俺が仕事を終えると、妻からSIGNにメッセージが届いていた。
アプリを開き内容を確認すると、『無事2連勝を収め、フェニックスドーム行きを決めてベスト8進出を果たしたよ‼』
ホッとして胸を撫で下ろした。
子供を持って初めて父さんが自分を育てていた頃どう思って生きていたのかが少しずつわかってきた気がする。
きっと毎試合毎試合、ひょっとしたらプレーしている選手以上に自力ではどうにもできない緊張感と向き合っていたんだなと思う。
俺が現役の選手だった頃より今の方が緊張しているから不思議なものだ。
身支度を整えエレベーターで降りてきて正面玄関から出てくると外から歩いている俺に視線を向けてくる人の姿があった。
その人物のことは仕事で疲れているからといって素通りして帰れるような小さな存在ではなかったので、すぐに体をベンチに座っているその人の元へと向かわせる。
目の前まできてその人物に声を掛ける。
「お久しぶりです。山下先輩」
「よっ‼変わらんな、司」
と元気のいい声で返される。この話し方、変わんないなぁ。
「ありがとうございます。今日はどうしたんですか?」
「なんだまぁ、司の職場に大野さんっているだろ?俺、あの人と知り合いでさ、こないだ飲んだときに司と一緒に働いているって話を聞いてちょっと寄ってみたんだよ」
「そうだったんですか‼ところで先輩……平日に私服ってことは、前の職場辞めちゃったんですか?」
訊きにくいことだったが心配になったので訊いた。
すると山下先輩はカハハと笑いこう言った。
「違うよ、司。今日は息子が野球の試合だったんで有給使って観に行ってたんだ」
「えっ!?先輩の息子さん野球やっているんですか?」
「そうだよ。今年3年で最後のフェニックスカップだったんだけどな。残念ながら負けたよ。なんたって相手は今年の全国シニア選手権優勝の浜野シニアだったからな」
それを聞いてなんて返すのが正解かがすぐには浮かばず、返事をするのに少し間が生まれてしまった。
「強かったんですね。息子も日頃から浜野シニアのことは強いって言っていましたし、この大会の優勝候補みたいですもんね」
「らしいな。と言ってもうちの息子は背番号15の控えの内野手だったからさ、6回からの最後の2イニングの途中出場のみだったよ。それでもベンチで見ていて打球の速さとか投手のレベルの高さに驚いたって言ってたな」
「そんなにすごかったんですか?」
俺は気になってしまい試合について訊く。
「あぁ。2回戦だったとはいえスコアは9対0。特に3番打ってた船本って選手のスイングがヤバいって、ネット裏の高校野球関係者たちが騒いでたよ。けど、スイングを見ればそうなるのも当然だなと腑に落ちる。そう思わせるすごいバッターだった。なにせ2打席連続のホームランを含む4安打5打点の大活躍だったからな」
今この場では船本という選手の今日の打撃結果を聞いただけだが、内容が内容なだけに衝撃は受けてしまう。
明後日の試合で昴と対戦することも十分あり得るんだなと、そんなことが脳裏を過ぎった。
「そんなすごいバッターがいるなら俺もぜひ観たかったな~。ところで先輩はどうして俺に会いに来たんですか?ただ寄ったってだけではないんですよね?」
「そう。そうなんだよ‼実は俺さ、清養高校の野球部監督をやらないかって誘いを受けてるんだ」
衝撃だった……けど、すぐに山下先輩なら務まるような気がした。
そう思えるのは大学で共に過ごしたあの日々があるからこそだと思う。




