マガジン
「それでは一条さんこちらになります」
綺麗な部屋へと通された。
扉を開くと、
「初めまして。高校野球雑誌チャンピオン編集長の武田です。宜しくお願いします」
「初めまして。一条司です。こちらこそ宜しくお願いします」
「わたしのことは覚えてないかな?」
「ええっと……その、すいません」
「無理もないか。実はね、私は25年前、当時17歳だった君に取材した記者なんだよ」
「そ、そうなんですか!でも編集長ってことは……」
「その7年後ここに転職したんです」
「そうだったんですね!」
「今日はこれから当時の投手起用と現代の投手起用の変化に関する御意見と、未来の球児達へのメッセージを頂戴したいなと思っております」
「わかりました」
「それでは始めましょう」
「当時と今で投手起用に大きな変化が見られると思うのですが、毎試合の様に完投していた一条さんの目にはどのように映っていますか?」
「うーん、一つ言えることがあるとすれば打者のレベルが飛躍的に上がっていますよね。なので一人の投手だけで勝ち上がっていくというのが厳しくなっているなとは思いますね」
「なるほど。過去5年間の優勝校を見ても必ず複数の投手を擁して勝ち上がってきていますよね」
「やっぱりデータによる分析だったりする部分も大きいなと感じています。私が1人で投げていたあの頃は今ほど打者のレベルは高くなかった気がするので完投できていたのかなと思います」
「1人の投手を酷使する風潮に疑問を呈する声もチラホラと訊かれますが、その点についてはどのようにお考えでしょうか?」
「そのままでいいんじゃないでしょうか?」
「ほほー!それはビックリですね」
「講演会とかで過去の甲子園で投げてきたエースたちと話すことがあるんですけど、皆さん後悔してるって感じじゃないですよ」
「それくらいの力を与えてくれる場所ってことですかね?」
「そうかもしれませんね。もちろん選手の様子がおかしいなって思うことがあるならば迷わず代えるべきだとは思います」
「それに選手の身体の強さも平等ではありません。肩や肘も十人十色で違います。一括りにしてしまうことはプロなどのスカウトから見た身体の強さを評価したりする機会の消失にも繋がると思います」
「ただ全員がプロを目指しているわけではないと思うのですが……」
「もちろんそうですね。ありきたりな言葉になってしまいますが、大事なのはプレーする選手の価値観を尊重することだと思います。例えば、プロや大学でも続けたいなら無理に連投はさせずに他の投手を起用することとかですかね」
「となりますと最低でも2人はいた方がいいと?」
「だと思います。打者のレベルが上がっているこの時代に1人の投手だけで全国制覇は相当厳しいと思います」
「そうですよね。最後に一言頂けますか?」
「はい。選手の皆さんは自分の身体と相談することを忘れないでください」
「ありがとうございました」
俺は車を走らせ我が家へと向かっていた。
道中、今日の試合を思い返していた。
1打席目のホームランは甘いストレートだった。昴の実力的にはホームランにして当然な球だったな。。
褒めるべきなのは2打席目のタイムリースリーベースだな。
あの球は左投手の外に逃げるカーブだった。右肩を開くことなく引き付けて打てていた点が特に評価できる。
チームメイトの選手たちも流石の実力だなと思わせてくれるプレーの連発で圧巻だった。
エースの小田嶋君も良い球を投げていた。
今年こそは全国制覇するかもな……。
家の前まで来ると庭に人影があった。脇から覗くと昴だった。
素振りをしていたので軽く声を掛けた。
「ただいま。試合良かったな。お疲れ様」
「おかえり。ありがと。父さんもお疲れ様」
「ありがと。もう18時だしそろそろ休めよ」
「わかってるよ」
父はドアを開けて入って行った。
今日の試合は勝って当然な相手だったし満足はしていられない。
今行われているフェニックスカップ予選会、去年は全国ベスト8で敗れてしまった。
今年こそは全国制覇を成し遂げたい。そのためには投手としても野手としても活躍する必要がある。
特に3年生にとっては重要な大会だ。この大会には強豪校のスカウトがこぞって観に来るから。
けど重要なのは俺達2年生も一緒で、きっと颯馬やトミーも同じように思っているはずだ。
注目されているのは拓哉さんや零さんたちなんだろうけど、俺も負けてられない。
注目されていない状況であっても誠心誠意プレーすることは大事なことだと思う。
まぁ今日は疲れたし試合のビデオを観終えたら寝ようかな。