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世代交代  作者: 砥左 じろう
39/92

鬱憤

今日の鷺沢の状態はかなりいい。

3回を投げ切ってパーフェクトだ。安心して見ていられる。

だが球数規定があるため、この快投が終盤まで続かない限り完投は厳しくなるだろう。

点差が開くようなら2年の松原にリリーフさせてみるのも面白いかもしれない。余裕があれば。

肝心の打線もさっきの試合の迫田のホームランに触発されたのか、みんな振りが鋭くなっている。


4番の拓哉さんが打席へと向かう。

軽く足を均すと真っすぐに投手を見据える。

萩原さんはビビったのか四球を出した。

ここでトミーか。んでその次は俺か。


トミーは前の打席みたいにフォークを拾うのではなく見極めて、打者有利のカウントへと持っていく。

ネクストバッターズサークルから見ていても明らかなほど、萩原さんのボールのキレは落ちている。

間違いなくノックアウトするチャンスだ。

1ストライク3ボールからの5球目のストレートに迷うことなくスイングし、捉えた。

彼のスイングが生みだした耳に馴染んでいるその轟音を聞けば、打球の行方なんて見なくてもわかる。

結果は……レフトスタンドのネットを直撃するほどの特大ホームランだった。

ホームへと戻ってきたトミーは満面の笑みを浮かべていた。

「見たろ?今のホームラン」

とドヤ顔で言うトミーに俺はこう返した。

「見てない。音を聞いて楽しんでたから」

「そうかそうか。天才は楽しみ方も一流だな。今度はもっといい音聞かせてやるから楽しみにしとけよ」

と言って上機嫌でベンチへと戻って行った。


マウンドの萩原さんはガックリと項垂れていて、すぐに加茂東シニアの監督が出てきて交代を告げた。

スコアは4対0。今日の弘さんの出来から言ってほぼ勝ちは確実だ。

でも手は緩めない。

2番手の右投手は斎藤さん。これまた3年生だ。

投球練習を見ている限りではそれほど速さは感じなかった。


打席に入り地面を均し、マウンドの斎藤さんを見据え構えた。

初球のカーブは見送った。

今のカーブ、萩原さんのと似ている。加茂東ではこのカーブでカウントを取るのが主流なのか?

なんでもいいけど、こんな低レベルなカーブなら一振りで……火の出るような打球が1、2塁間を抜けて行った。

ヒットはヒットだけど、長打にできるボールだっただけにミスショット感はある。


さきほどチーム初ヒットを放っている藤田さんは、初球から積極的に打ちに行った。

完璧に捉えた打球はライト線を破った。

俺はホームを狙う素振りを見せたが3塁で止まった。中継が上手くいっていたので突入してたらアウトっぽかった。

だがチャンスは広がって巧を迎える。ここで巧はスライダーを打ち返すも詰まったセカンドゴロになった。

だが詰まったのが幸いでバックホームはできず、俺は生還し、藤田さんは3塁へと進んだ。

5点目だ。

9番の弘さんもカウントを取りにくるカーブを捉えセンターへと打ち上げた。飛距離は十分で犠牲フライとなった。

4回にして早くも3回り目に入り颯馬が打席に向かう。

斎藤さんのスライダーにタイミングが合わずセカンドゴロだったが、かなり際どいタイミングのアウトだった。

それを見ていて颯馬が内野ゴロを打つと野手陣に緊張が走るだろうなと思う。


4回の裏も弘さんは好投を続けていたが、初ヒットを許した。

それでも後続をキッチリと打ち取りベンチへと戻ってきた。


2イニング目に突入して緊張が解れたのか斎藤さんのボールは前の回よりキレが良くなっている気がする。

2番の信介さん、3番の宗さんと連続で凡退した。

4番の拓哉さんもスライダーに詰まってセカンドゴロだった。

この回は3者凡退に倒れ5回の裏に入った。


マウンドに上がる前、監督からこう声を掛けられた。

「この回がラストイニングになると思って投げろ。残りは松原で行く」

と。

調子はいいし完封できる気がしているが、この先の登板機会について考えたらこれ以上投げる必要はないという判断なのだろう。

まだまだ投げていたい気持ちはあったけれど、監督の意図は理解できていたので、すんなりと頷いた。


汗がユニフォームにまとわりついて気持ち悪かったが、特に気にせず打者に集中して抑えた。

役目は果たした。これでお役御免か。

あとはベンチから見守るだけだ。


6回の表、ここまで6対0で試合は進んでいた。この回の先頭は前の打席でホームランを打っているトミーだ。

だが、リリーフしている斎藤さんの前にサードゴロに倒れた。

そして6番の俺が打席へと向かう。

序盤は試合にのめり込みすぎて、スタンドに目線を送る余裕はなかったが、この展開になって初めてスタンドを見た。

中段の席に母さんと守のお母さんが並んでいることに気づいた。

軽く目線を送ると、こちらに気づいたのか手を振ってくれた。

嬉しかったが周囲の目もあったので、微笑みかけるだけにして打席に入った。


ファールグラウンドに設置されているブルペンでは同世代の俊が投げ始めていた。

この回から行くんだな。初登板のあいつの為にも打つかな。

斎藤さんのアウトコースへのストレートを強振すると、打球はライナーでレフトの頭上を越す長打となった。

ツーベースだ。

2塁からブルペンの俊に向けて笑顔を見せると、俊は拳を突き出して答えてくれた。


7番の悠斗さんのところで代打がコールされた。

この試合当たっていた藤田さんに代えてコールされたのは佐藤誉(ほまれ)だった。

誉は控えの内野手だが実力はかなりのもので、小学生の頃は日本代表にも選ばれているほどだ。

にも関わらず支倉では控え扱いなんだから、ここは厳しい。

中々出場機会にも恵まれず歯がゆい思いをしていることだと思う。

それでも彼が人一倍努力していることはみんな知っているし、この機会に鬱憤を晴らしてもらいたいなと思う。

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