大胆起用
対戦が終わると俺たちは監督に呼ばれた。
監督は一瞬悩んだ表情を見せたがすぐに覚悟が決まったような表情に変わり口を開いた。
「明日のスタメンマスクについてだが、迫田でいこうと思う」
「…………」
これにはみんな予想が出来ていなかったらしく、沈黙が流れる。
俺もその1人だった。これまでも組むことはあったが、いずれも途中からだった。
それに守がスタメンということは拓哉さんが……。
「能勢、お前は明日の第1試合、ファーストで出場してくれるか?」
でもそれって、板谷さんがスタメン落ちってことじゃ……この前ホームラン打ったばかりなのに……。
「はい」
拓哉さんは迷いなく答えた。
「板谷にはサードで出場してもらう。その代わりサードの藤田にはベンチに回ってもらう。明日はこれでいく。このことは今から俺が2人に伝えてくる」
「わかりました」
俺たちは理解を示す。もちろん戸惑いもあったが、これが勝つための最善策なのだとすぐに理解したので迷いは消えた。
監督に言われた通りその後の練習をこなし予定通りの時間で練習は終わった。
帰り道、拓哉さんから話しかけられた。
「明日は俺が受けるわけじゃないけど、ファーストにいていつも通り4番としての務めを果たすから思い切って投げろよ」
「はい。援護してくれるの期待してます」
と俺が言うと、拓哉さんは微笑んだ。
「打席で見た時にさ、すごい落差だなって思ってビックリしたよ。まだ完成とまではいかなくても、数球見せられただけで打者は意識してしまうと思うし十分有効だと思う」
「ありがとうございます。お互いに頑張りましょうね」
拓哉さんからそう言われると自信を持って投げられそうだ。
守とは疲れない程度の投球練習で済ませたが、本音を言えばもう少し投げたかったけど守にも俺にも打撃練習も必要なので仕方のないことだった。
家に着くとすでにお昼ご飯は出来ていたようだった。匂いでわかった。
「おかえり、昴。ご飯出来てるけどすぐ食べる?」
母さんが訊く。
「うん。お腹空いてる。もう無理」
「わかった。努が2階で勉強してると思うから呼んできてくれる?」
「はーい」
階段を上る。努の部屋は階段を上った目の前にある部屋だ。
ドアをノックして声を掛ける。
「努~。俺、お兄ちゃんだぞ。母さんがお昼するって言ってるから降りてこい」
努は特に返事をせず、すぐにドアを開けて出てきた。
「あ~、おかえり。お兄ちゃん」
と眠そうな目を擦りながら言う。
「寝てたのか?」
「寝てた。今日からもう練習休みだし、少しはゆっくりしたいよ」
「そうか……けど、ご飯だから下に降りるぞ」
「うん」
努と一緒に階段を降りると、笑顔の母さんがいた。
「2人共ご飯できてるから食べなさい」
と言われ椅子に座った。
すでに腹ペコだった俺は貪るように食べた。その様子を見ていた母さんは小さく溜息を吐くと俺に軽く注意した。
「お腹空いてるのはわかるけど、消化に悪いからゆっくり食べなさい」
「はーい」
と返して食べるペースを落とす。
食べ終えたあとに睡魔は付き物なのでこの時間はシンドイ。
その後は中学生になってからの日課となっている読書をしたり、身体の疲労を抜いたりすることに時間を費やした。




