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世代交代  作者: 砥左 じろう
30/92

前日練習

一抹の不安を抱えたまま練習グラウンドへとやってきた。

すでに数名の人影が見える。多分レギュラー陣だ。

準備を進めていると、外野の芝生からこちらに駆け寄ってくる人がいた。守だった。

「おはよう。早いな」

「おはよう。昴が受けてくれって言うかと思ってさ」

守の勘は鋭い。まんまと心の中を読まれていた。

「そうそう。そうなんだよ」

「でも、すでに拓哉さんも来てるよ。今は外野で弘さんの球受けてるけど」

「そうなのか。まあ後で受けてもらえる時間はあるだろうし、今は守にお願いするよ」

そうして俺たちは1番乗りで早速ブルペンへと向かい投球練習を始めた。


初はストレート中心で投げ込んでいたが、すぐに試してみたくなりチェンジアップを投げ始める。

全部で20球ほど投げたところで、みんな集まったらしくグラウンドへと戻った。

感触としては悪くなかった。でも高めに浮くことも多くて想像していた通りにはあやつれていないなと実感する。


グラウンドでは颯馬やトミーを初めとする主力打者陣の打撃練習が行われていた。

俺たち投手と捕手は監督に呼ばれ、ベンチ前で監督の話を聞いていた。

「明日の1回戦の先発は……一条に任せようと思う」

その通達にみんなある程度予想が出来ていたのか特に驚いた様子もなく元気な声で返事をした。もちろん俺も。

「2回戦は鷺沢だ。頼むぞ。それと状況によっては小田嶋と松原の出番もあるからしっかりと用意しておくように」

「はい」

とみんなで声を揃えて答えた。

「じゃあ、まずは1回戦に投げる一条の状態をチェックしたいから能勢と一条の2人は俺と一緒にブルペンまで来てくれ」

そう言われて俺と拓哉さんはブルペンへと向かう。途中で俺は監督と拓哉さんにあの球種についてにの話を切り出す。

「監督、拓哉さん、2人にお話があります」

2人はキョトンとした顔をしたあと、真っすぐにこちらを見つめてきた。

「どうした?」

と監督が訊く。

「実は、つい最近チェンジアップの練習をし始めたばかりなのですが、明日の試合で使えるかどうか2人の目で見てもらいたいんです」

そう言うと、拓哉さんは目を丸くして驚いていた。

「確かに一条のストレートと縦のカーブにチェンジアップが加われば鬼に金棒だが、本当に大丈夫なのか?」

と言って監督はシブい表情を浮かべている。

「まあなんにせよ、本人がここまで言うんだし試してみましょうよ」

楽観的な拓哉さんが笑顔で監督に伝える。

それに監督は小さく頷いた。

そして投球練習は始まった。

数球投げ込み準備が整ったところで俺はこう伝える。

「チェンジアップいきます」

拓哉さんは両手を広げたあとに右拳を胸にポンと軽く当てて頷く。


俺はいつも通りのフォームから左腕をバランスよく振り抜いた

リリースした瞬間の抜け感は良くボールもストレートと同じ軌道で向かっていた。ベース手前で急速に落ち始め、拓哉さんのミットの下を抜けて行った。

拓哉さんは驚いた顔をしていた。監督も驚いていたがすぐに口を開いた。

「これはいつ投げだしたんだ?」

「準決勝の前日なので、4日前ですかね」

たった数日の練習でここまでのキレを持ったチェンジアップを投げられる一条のセンスの良さに改めて驚かされた。

長年に渡り指導者として活動してきたが、これほどの逸材に出会ったことがない。

しかしまだ1球しか投げていない。制球力の確認も兼ねて見ておきたい。


一条はその後15球続けてチェンジアップを投じたが、バラつきはかなりあった。

良いのもあるがそうでないのも割とある。

だが何より問題なのが能勢がキチンと捕球できていないことだった。後ろに逸らしたり横に大きく弾いてしまったりすることが多かったからだ。

そもそもこれだけキレのあるチェンジアップを一条は誰に投げて練習していたんだ?

ふと気になって訊いてみる。

「このチェンジアップ、誰に投げて練習してたんだ?自宅のネットか?」

「ネットでも投げてはいましたが……主に守です」

なるほど。そういうことか……。迫田の守備力ならこれをしっかりと止められるのかもな。

「わかった。なら今からグラウンドに移動して打者と対戦しよう。キャッチャーは迫田で打者は能勢だ。これならどれくらい使えるのかハッキリするだろう」


急に慌ただしくなったな……。

俺たちはグラウンドに戻ってそれぞれの位置へと向かう。

ヘルメットを被った拓哉さんが打席に入る。守はマスクを被り座る。

マウンドに上がった俺にチームメイトの視線が集中する。


監督から実戦形式でいくぞと言われていたので、ちゃんと配球を組み立てた上でその中にチェンジアップを混ぜるという形だ。

初球はストレートだ。ボールだったがいいコースには決まった。

次はカーブだ。今度は低めいっぱいに決まってストライクだ。3球目はインコースへのストレート。拓哉さんも振ってきたが、振り遅れ気味のファールだった。

投げるなら次か。そう思っているとサインが出た。

俺は守と過ごしたあの練習時間を思い出してボールを握る。

チームで1番いい打者である拓哉さんにどれくらい通用するのか見たくて監督はこの場を設けている。その想いに応えるためにも投げ切って見せる。

そして腕を振った。ボールは想像していたよりも少し低い軌道になってしまったがそれでも良い高さではある。拓哉さんはビクッと反応し、じゃっかん体勢が崩され前に引きずり出されるもバットは後ろに残っていた。

思い切りのいいスイングで打ちに来たが……バットは空を切った。

そして守もちゃんと捕球していた。

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