休息
あれ?そういえば今日って近所でお祭りがあるって言われてたな……。別に疲れてないし行くか。
でもその前に観戦に来ていた両親に礼を言わないとな。
俺は今日は帰りが別になることを颯馬に告げ、チームメイトとそこで別れた。
球場の外で迎えに来た両親と会った。
「お疲れ様~。本選出場おめでとう」
「ありがとう。勝てて良かったよ」
「お腹空いたでしょ?」
成績がヒットと四球とホームランだったので全力疾走する機会はなかったのだが、実際腹ペコだ。
それでも開始前はたくさん動いてたし相当エネルギーを使っていたからだ。
それに照り付ける太陽がもたらす暑さで体力が奪われるから食っても食ってもすぐに空腹になる。
成長期なのもあるのかもしれない。
「空いてる。空腹で餓死しそうだ」
「それじゃあ早速帰るわよ」
「やったー。あのさ、ホームラン見た?」
「見たぞ。2者連続だったな。相手の投手打ちやすそうだったな」
「うん。体の開きが早くて球離れも早かったからキレがなかった」
「そうか。じゃあ行くぞ」
俺はトランクに荷物をしまい後部座席に座った。
車内から見える景色に想いを馳せていると、手元のスマホが鳴った。メッセージだ。
差出人はというと、松澤さんからだった。
要件は『試合どうだった?』だった。
『圧勝だった』とだけ返して、全国の他の地域の代表を確認するため検索エンジンに『フェニックスカップ予選 全国』と打ち込んで結果を見る。
そこに表示された出場チームの顔触れは去年見たのと8割くらい同じだった。
小学生のときに対戦した渉や勝の所属しているチームも順当に勝ち上がっていた。
本選のブロック分け抽選会が今日の夜ネットで行われるらしい。
それによっては初戦で当たる、なんてこともあり得るんだよな……。
そしたら早くて火曜日か。対戦カードは未定だからこれ以上考えてても意味はないだろう。
でも登板するのはほぼ確実。だから少しでもチェンジアップの精度を上げておきたい。
そう思うと、帰ってご飯食べたあとお祭りになんて行っていて良いんだろうか?すぐにでも練習した方が良いんじゃないだろうか……。
そんなことを思っているうちに自宅に着いた。
「みんなー、ご飯作るから待っててね」
と言って母さんはキッチンに向かう。
俺たちは「わかった。ありがとう」と感謝の言葉を口にした。
家には姉さんと努もいた。
姉さんにお祭りに行くのかどうか訊いてみたところ、
「うん、行くよ」
と返ってきた。
「あんたは行くの?」
「俺は……未定」
「未定って……誰にも誘われてないの?」
「そんなことはねえよ。けど今大事な大会中だしそんなことしてていいのかなって思って……」
「あんたねぇ、野球ロボなの?たまには羽伸ばしなさいよ。試合終わって疲れてる身体をさらに追い込む必要なんてないでしょ?行って来なさいよ」
野球ロボ……。割と的確に自分を言い表してる表現だと思うので、そう言われてグサッときた。
「そうだな。行くことにするわ」
「それで良いのよ。ほらご飯できたみたいだから運ぶの手伝うわよ」
「お、おう」
姉さんに指示されるがまま俺は料理を運んだ。
食後は今日の試合のビデオを1人、リビングで観ていた。
主に自分の打席について振り返っていたが、仕留めているボールはすべて甘く、まるで打ってくださいと言わんばかりのボールだったので、当然の結果だなという感想しか湧いてこなかった。
一通り観終えスマホを手に取って松澤さんへのメッセージを打ち込む。
……何て送ろう?途中まで書いていたのをすべて消して、シンプルにこう打った。
『今日、行くよ』
これでいっか。シンプルイズベスト。
送信っと。
返事はすぐに帰ってきた。
前から思ってたけど、この人返信速すぎだろ⁉
そこにはこう書かれていた。
『わかった‼17時に越智山公園の北口集合だからよろしくね』
17時か……。今すでに16時だからあと1時間後か。
公園までは歩いて10分も掛からないしソファで一休みするか。
家には俺1人になっていた。というのも今日は努も試合があったらしく両親が迎えに行っているからだ。姉さんはというとすでに友達と待ち合わせがあるとか言って出掛けてしまった。
「ボッチかぁ……」
俺は1人の特権を思う存分活かそうと思い、普段は家族共有でなかなか独占することのできないリビングの大きなソファに横になる。
「ハァー。気持ちいい。これが1人の特権ってやつですよ」
スマホで全国の結果を調べると、すでに全32チームが出揃っていた。
このあと18時から監督たちがネットで抽選会を行う。この模様はネットで配信されるらしい。
お祭りに行ってる最中に対戦相手が決まるのか……。そう思うと落ち着かないなぁ。
けど、引くのは監督なんだし俺たち選手はどうにもできないんだよな……。
俺たちは来週1週間の間に最大5試合することになる。
しかも明後日はダブルヘッダーだから、午前と午後の両方を戦わなければならない。
そこを2連勝した計8チームだけが神聖なフェニックスドームでプレーする権利を得られる。
本選にコールドはないからこのダブルヘッダーでは必ず複数の投手を起用する必要がある。
つまり本選では総合的な投手力が高いチームでないと勝ち上がれないし、継投のタイミングなどの采配力も問われる。
これは監督にとっても厳しい戦いなのだ。
そんなことを考えていたら、時間になっていたので身支度を整え家を出た。




