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世代交代  作者: 砥左 じろう
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2人のスイングと両親の方針

フライボール革命が全盛となっている現代プロ野球界において、この選手のスイングは異端と言えるのかもしれない。

でも、俺は父親として努に野球を教えるならこの選手のスイングが1番のお手本になるなと思い努に見せてみた。それがきっかけだった。

その選手の名は西潟孝一。

フェニックスの3番ショートで、今の日本のショートでは№1と言われているほどの超一流選手だ。

昔は守備の名手ってイメージの選手だったが、3年ぐらい前から打撃力も飛躍的に向上し、今ではタイトル争いの常連となっているほどの選手だ。

ただ、この選手は現代トレンドの象徴であるフライボール革命の逆を行く綺麗なレベルスイングで好成績を残し続けている。

俺はこの点を高く評価している。


正直、子供たちには現代野球のトレンドとなっているフライボール革命を教えるより、キチンとしたレベルスイングの出来る選手になってほしかったため、昴にも努にもレベルスイングを勧めてきた。

別にフライボール革命も悪くはないと思うが、身体の未成熟な小中学生が真似をするのはどうかと思う。

あれはレベルの高い選手だから成立できている。そう思う。

基本的なレベルスイングが出来ていないのに難易度の高いスイングに挑戦したら、打者としての基盤が崩壊するような気がしてどうもいけ好かない。

いつかは覚えてみてもいいかもしれない。でもそれは今じゃない。


昴の打撃フォームは西潟を参考にしたわけではなかった。

右と左で感覚って違うものだと思うし、その違いを反転させて形にするっていうのではなく、その世代で1番いいと思う左打者を参考にする方がいいかなと考えた結果、ある選手をお手本にすることにした。

俺の勝手な感覚で当時の左打者で1番タイプ的に昴に近いなと思っていたのが、グリフォンの稲見恭丞(きょうすけ)だった。

稲見はホームランバッターではなかったが、コンパクトなスイングから広角に打ち分ける打撃スイングで大卒1年目から活躍していた。

初めて見た時から教科書のようなスイングをする選手だなという印象を持っていた。

最初は非力だったが、年々力が付いてきて長打が増え、5年目には打率345厘ホームラン31打点119盗塁37と文句のつけようがないほどの成績を残し、満票でMVPに選出された。

稲見は現在30歳で年齢的にはこれから緩やかに下降線を辿っていくんだろうけど、まだまだ超一流選手としての輝きを失っていない。


俺が稲見の打撃を昴に見せて以降、すっかりファンになっている昴は今でも稲見を応援している。部屋にポスターまで貼ってある。だがグリフォンのファンというわけではないらしい。

よく、『FAでフェニックスに来ないかなぁ』と言っている。

昴と何度も何度も稲見の打撃フォームを研究した。

肘の使い方や、体が開くタイミング、ボールを捉える瞬間の体重の比率、インコースの捌き方といったありとあらゆることをだ。

その甲斐もあって昴は流麗なスイングを身に着けることができた。

もちろん、稲見のすべてが昴に合ったわけではないので、多少フォームの違いはあるが、それでも野球を知っている人が見たら真っ先に稲見を思い浮かべるであろうくらいには似ていると思う。

何度かバッティングセンターで打っているときに近くで見ていた人たちにそう言われたことがあるからだ。

稲見の身長が179cmで体重が77㎏なのに対し昴は177cm66㎏なので、稲見をスリムにしたような感じだ。

ただ、現在成長期に突入し始めている昴の身体は今後まだまだ変わるだろうから、今はまだ完成形だと思っていない。

精神的も肉体的にも発展途上である。


子育てをする上で妻とした約束の1つにこんなものがある。

『子供に気を使わせる親にはならない』だ。

人に話したらそんなの当たり前じゃんと思われるかもしれないが、その当たり前を当たり前としてできている親が一体世の中にどれほど存在しているのだろうかと思う。

これは成長期を迎えている今の昴には特に重要で、学校や野球でのストレスに対処するだけでも大変なこの時代に、家庭でのストレスを抱えてほしくないというのが俺たち夫婦の想いだ。


ストレスは成長ホルモンの分泌を抑制してしまうので、少しでも過ごしやすい家になるよう心掛けている。

『成長ホルモン』という言葉だけを取ると目に見えてわかる身長を思い浮かべる人が多いかと思うが、妻は骨量という点に注目していた。

この辺の可視化されない部分にまで意識が向くところはさすが元アスリートだなと思うし、子育てが終わった時に育児本でも出したら大盛況になるんじゃないかなって思ったりする。

骨量というのはだいたい20歳で決まってしまうと言われている。

これは筋肉と違って大人になってから補える要素ではない。


妻と、長い視点で見たときに筋肉をつけることより柔軟だけど骨はしっかりしてて丈夫な身体を作ることが重要になると考え目標にしてきた。

今はまだその成果を実感しにくいが、これが5年10年先の昴の未来を支えてくれればいいなと思う。

食生活も重要だがそれだけでは全然足りないと思っていて、今の時代の子供たちは多くの情報を手にすることができるようになった代わりに、多くのストレスに晒されることになっている。

子供たちにはそういう世界とは縁のない生活を送ってほしかったので、それを思い描いていた範囲の中である程度実現出来ていることに関しては親として誇りを持っていいのかなと思っている。


職場の人たちは『天才』だとか『遺伝子』だとかいう言葉だけで昴を語ろうとするだけで、親のこうした影の努力に対しては中々意識が向かないらしい。

『天才』は生まれたときから『天才』だとでも本気で思っているのだろうか?

だとしたら辟易する。

こういう日々の地道な努力によって少しずつ成長しているっていうのに……。

こういう思考に行きつかない親たちっていうのは、親として満足のいく育児をできていない自分と向き合いたくないから考えないようにしているのかもしれない。

それなら雑に『天才』の一言で片づけようとする彼らの思考に合点がいく。

そんなことに思考を巡らせているうちにいつの間にか話し込んでいた昴と努の会話は終わっていた。

丁度いいタイミングだし終わるかと思っていたら、

「そろそろ。ご飯になるよ~」

と庭まで出てきた妻に言われ俺たちは片付けて中に戻った。

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