遥の決断
私は今、都心にある稲月大学の学園祭に来ていた。
さっきまで一緒にいたお母さんとはクラスメイトの侑里奈と合流したあとに別れた
別れたといっても今も背後で母親同士仲良く話している。
一緒に来ていた努の方はと言うとすっかり侑里奈のことを気に入っているらしく離れようとしない。
こんなんでちゃんと希望の学部とか見て回れるのだろうか?
学内は広くさすがマンモス校と呼ばれているだけのことはあるなと感心させられる。
希望の学部の説明場所に辿り着くだけでも一苦労だ。
先に侑里奈の行きたがっていたブースを見て回ったあと、私の希望している文学部へと足を運んだ。
説明はまずまずで取り敢えず第一志望はここにしようと決めた。
見学を終え正門出口へと向かうと母親たちと努が待っていた。
「おまたせ~」
と言うと、
「疲れたから甘味処にでも行こう」
と飛び切りの笑顔で母に言われた。
そんな笑顔を見せれる余裕があるならまだまだ平気そうじゃん。
隣にいる努は少し眠そうにしていたが美味しい物が食べられると知ってか元気を取り戻していた。現金な弟だな……。
「ねぇ、やっぱり遥は来年ここを受験するつもりなの?」
「そうだよ。侑里奈は?」
「多分私も受けると思う。だけど学部はお互い別々かな」
「そっか。選択肢がたくさんあるから仕方ないよね」
「うん。でも遥なら推薦でここに入学することもできるんじゃない?」
「うーん。私短距離には自信持ってたけど、それで生きていけるほど甘くないんだなって今回の大会で実感したからさ、高校で陸上は卒業しようと思ってるんだ」
「そんなぁ。遥は大学でも通用するほど速いと思ってたのに……」
「ありがとう。でもいいの。もう吹っ切れたから。私はお母さんと同じ碩心女子体育大学には進学しない。その代わり稲月大学に進学して勉強を頑張るって決めたから」
後悔はしていない。私は昴と違って天才ではないから人生の早い段階で生き方を変えていくことを求められる。そのときが着々と近づいているのだ。
「そっか。なんか清々しい表情をしてるね。1カ月前のもがき苦しんでた頃より今の方がずっといい表情をしてると思う」
「そう?なら良かった。私もあの頃は苦しかったからねぇ~」
その後は甘味処でたらふく食べて侑里奈親子と別れた。
お母さんも仲のいいママ友とたくさん話をして、たくさん食べたので満足気なようすだ。
昴の試合の結果に関しては試合後に勝ったよと電話があったのですでに知っていた。
明日勝ったら全国なのか。あっという間だなぁ。
去年、家族でフェニックスカップの本選を観にフェニックスドームまで応援に行ったけど、あのときの熱気は忘れられないほど鮮烈なものだったな。
今年も行くつもりなのかな?
ふと気になって訊いてみた。
「ねぇ、今年も昴の応援に行くの?」
お母さんは一瞬考えこむようすを見せたがすぐに頷いき日程を訊いてきた。
「フェニックスカップのドーム戦開始っていつからだったか覚えてる?」
「うーん、詳しくは知らないけど去年と同じなら週末辺りからじゃない?」
「いいわ。あとで直接昴に訊いてみる」
「なんでそんなに気になってるの?」
「私たち保護者は全試合観に行くつもりだけど、あなたはまだ部活があるじゃない。だから帰ってからみんなで決めましょう」
そういうことか。うーん。私部活の合宿あった気がするんだけど平気かなぁ……。




