父子
「ただいまー」
と元気よくドアを開けて入ると、お父さんの姿があった。
「おぉ。おかえり。早かったな。またコールドか?」
「うん。と言っても俺は投げてないけどね」
「まあ勝てたんだからいいじゃんか。お疲れ様」
「お腹空いてるだろ?なんか食べる?」
「えっ‼父さんに作れんの?それより母さんと他の皆は?」
「なめるなよ。俺だって作れるわ。お母さんは努を連れて遥の志望大学の学園祭に行ってるよ。途中で遥のお友達の侑里奈ちゃんとお母さんとも合流するって言ってたな」
「ふーん。姉さんまだ高2なのに気が早くない?そんなに勉強ヤバイの?」
「あのな、昴。遥の行こうとしてる大学はすごくレベルが高くて今の遥の成績だとかなり際どいラインなんだよ。もちろん遥の成績自体は優秀なんだけどな、それでも厳しい大学だってことさ」
「そうなんだ。そこって陸上のスポーツ推薦あるの?」
「あー、あることはあったと思うが、遥の成績だとスポーツ推薦は厳しいと思う。遥もそれなりにいい結果は残せているが全国の壁は厚いみたいだし、一般狙いなんじゃないかな」
確かそうだったよな?俺も最近昴のことで頭がいっぱいで遥のことにあまり気が回ってなった。親として反省だな……。
「姉さん大学行ったら陸上辞めちゃうのかな?」
「わからん。それより出来たぞ」
我ながら上々の出来だと思う。
「えっ‼これ本当に父さんが作ったの?どうせ母さんの作り置きを電子レンジでチンしただけなんでしょ?」
「ち・が・う。そんなに疑うんならキッチンまで来て見て見ろ。父さんの努力の跡がよーくわかるぞ」
「そんなに言うんなら……ん!」
確かにキチンと野菜もカットされてるし頓汁も煮込んだ形跡がある。それに魚もちゃんと焼けている。
バカな……。俺の知っている父さんは野球だけ得意なボンボンだったはずなのに……いつの間に料理なんて覚えたんだ。
「残念だったな昴。父さんも成長してるってことだ。料理は調理手順を考えたりするから認知症予防とかにも良いらしいしな。外注すれば便利な時代なんだろうけど、こうやって自分でやったりすれば健康にもいいってわけだ」
「父さんも成長してんのか……」
「当然さ。どうだ?美味いだろ?」
「うん。おいしい。ありがと」
「だろ?にしてもこんな骨の折れる作業を毎日のようにこなしているお母さんは偉大だな」
「だね。ホントに感謝してるよ」
「それをお母さんが帰ってきたら直接言ってあげるんだぞ。間違いなく喜んでくれるだろうからさ」
「気が向いたらね」
「必ずだ。いいか、昴。俺は食事を作っている人が一番偉くて重要な人だと思っている。だから我が家においてはお母さんは家庭の心臓だぞ」
家庭の心臓か……。
そりゃあ監督やコーチよりも母さんへの感謝の方がはるかに大きいけど、改まって感謝の意を述べるのは気恥ずかしいというかなんというか。
「心臓が止まったら機能不全になるだろう?だからお母さんを大事にしてあげような」
それに俺はコクリと頷き食べ終えたお皿をキッチンまで運ぶと、
「あとは俺が片付けるからゆっくり休めよ」
と言われたので2階の自室に行って布団の上に仰向けになった。
午後になってさらに勢いの増した日差しが部屋に差し込んできていたが、冷房の効いたこの部屋の前には強力な日差しも無力と化す。
そんな快適な部屋で寝落ちしそうになっていた俺のスマホにメッセージが届いていた。
送り主はクラスメイトの松澤夏鈴だった。クラスでは明るくて人気者の女子だ。
顔もそこそこ可愛いと思ってるけど、ホントにそこそこのレベルだ。
メッセージの内容はこういうものだった。
『明日の夕方、近所でお祭りがあるからクラスのみんなで行く予定になってるんだけどどうかな?』
夕方か……。決勝は午後からだったし行けるかわからないけど、せっかくのお誘いを無碍にはできないなという想いもある。
だから俺は『行けたら行く』とだけ返した。
すぐに返事が来てゾッとしたが、中身を確認すると『わかった。試合頑張ってね』とだけ書かれていた。
俺は『ありがとう。またね』とだけ打って送信し、眠りについた。




