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世代交代  作者: 砥左 じろう
18/92

先発2番手の意地

土曜日の朝、第1試合の浅川シニア戦のマウンドに立っていたのは背番号10を付けた鷺沢弘文さんだった。

鷺沢弘文さん。通称、弘さん。弘さんは立場上先発2番手扱いだが、最速は135kmを記録しているほどの実力派である。

今大会初登板の弘さんは試合前から気合の入った表情をしていた。


対戦相手の浅川シニアはあまり名前を聞くことのないチームだが抽選に恵まれてここまで勝ち上がってきた。

弘さんは初回から130km台のストレートを連発して難なく3人で片付けた。

こちらの攻撃はいつも通り1番の颯馬から始まった。

いきなり3塁戦を鋭いライナーが襲いツーベースとなった。

2番の璉さんは手堅く送りバントを決め颯馬を3塁へと進めた。

3番の宗さんがライト前へのタイムリーを放ちあっさりと先制した。

その後も猛攻は続き初回の攻撃だけで一挙4点が入った。

トミーのスリーランも飛び出していたから球場はドッと沸いていた。


初回から援護点を貰った弘さんは初回は投げていなかったシュートと、決め球のカーブを投げ始めた。

どちらも絶妙なコースに決まっていて全く打者を寄せ付けない。

今日の弘さんの出来はかなりいいし、この試合はこのまま最後まで弘さんが投げ切ることになりそうだな。


試合はそのまま4回の表を迎えた時点で10対0とうちの大量リードだった。

この回でコールドが成立しそうなので実質最終回と言えそうだ。

明日決勝を戦わなければならないことを思うと、これは理想的な戦い方だ。


俺はこの1年間先発2番手としてプレーしてきた。

いつだってモブ的な存在だった俺にとって、支倉シニアという超強豪チームに所属していてもこういった注目を浴びる大会で活躍することがなければ、なかなかスカウトの目に留まらないから、出番をもらって気合が入っている。

3回まで危なげない投球で打者を翻弄してきたが、この回の攻撃は1番からで2順目だ。

一応気を付けて投げていたが、1アウトを取ったあと2番打者に少し高く浮いたカーブをライト前に弾き返され初安打を許してしまった。


ここからだ。エンジンを掛け直そう。

3番に対しては初球から3球続けたシュートで追い込んだ。

最後は……カーブのサインか!

さっき打たれたのに……。

それでも拓哉のサインに頷いて腕を振った。

ヒットを打たれたのとは違って低めギリギリいっぱいに決まりそうないいカーブがいった。

これなら……しかしそのカーブを拾われ俺の足元を抜けて行った。

しまった!そう思って背後へ振り向くと打球に追いついた颯馬の姿が見えた。

マジかよ‼どんだけポジショニングいいんだよ。

捕球した颯馬はそのまま2塁を踏んで1塁へと綺麗な送球を送ってゲッツーを成立させた。

ゲームセットだ。


最後は少し不甲斐ないアウトの取り方だった気がして俯いていたら、拓哉に話しかけられた。

「ナイスピッチだったぞ。弘」

「最後のアウトが気に入らない」

「あれは弘がキッチリと低めに投げ切ったからゴロになったんだよ。まぁ上手く合わされたし飛んだコースはよかったけども。だけどそれ以上に弘の投球と颯馬のポジショニングがよかったから打ち取れたんだよ」

確かにそうだなと思った。颯馬は初回の相手の3番打者のスイングを見てポジショニングを変えていた。

あいつのさり気ない努力が最後のピンチ?を救うきっかけになったのだ。

これで俺たちは明日の決勝戦進出が決まった。


「す~ば~る」

「どした?颯馬」

「いや、最後の俺の華麗な守備見たよな?」

「そりゃあ、まあセンターを守ってますから」

とすっ呆けた顔をして昴が言う。

「抜けたなと思ったでしょ?」

「まあな。でも追い付くかもなとも思った。ナイスプレーだったことは間違いない」

「ありがと」

と俺が言った直後、

「そろそろ第2試合が始まるみたいだから観客席行くぞ」

と迎えに来たトミーに言われ、俺たちは観客席へと向かった。


試合は予想していた通りの展開になった。

蔵元西シニアが大川ボーイズを5対3で下して決勝進出を決めた。

明日の朝10時から蔵元西シニアと本選出場をかけてここで戦う。

帰り途中のバス内で監督から明日の決勝で投げるのは零さんだと発表があった。

何となく察しはついてたから驚くことはなかった。

次に俺が投げる可能性が高いのは本選の初戦か……。

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