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世代交代  作者: 砥左 じろう
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それぞれに求められるモノ

社内の女性として最高の役職に就いている私には業績を残すことと同時に世代交代を求められている部分がある。

業績に関してはある程度残せている自信があるが、世代交代に関しては自信がない。

みんなが将来もうちの会社で働き続けたいと思っているのかどうかなんてわからないからだ。

一応定期的に聞いたりするようにはしているが返事はあやふやなものだった。


社内の世代交代が進んでいない現状に安堵感を覚えている自分がいる。

それは世代交代が進むということは自分のポジションが奪われるということを意味するからだ。

皮肉なもので将来の自分のポジションを奪うであろう存在を自分の部下として育てているんだから、上司というものは不思議だ。

もし仮に私の部下たちが台頭したとして、私が追いやられる立場になったとしたら、いったい私はどんな人生を送るのだろう?


そして自分にとって脅威となりうる部下という存在を育てることを心の底から楽しいと思える人は本当に懐が大きい人なんだろうなと思う。

もし私が「部下の成長を心の底から喜べるか」と聞かれたら、その場では「はい」と答るだろうけど、心の中にモヤモヤした想いを抱えることになるだろうなと思う。


高級マンションで暮らし、人も羨む人生を送っていると思っていたが、自分以外誰もいず無駄に広くて生活環のないリビングを見渡してると虚しくなってきて、全然羨ましくないかと思えてしまう。

でも、もう来た道を引き返せないしこれが正解と思えるような生き方をするしかない。


私は自分が望んだ生き方を体現してきた。そこに対する自信は揺るがない。

ただ、価値観が多様化した現代は自分とは真逆の生き方をして成功している人もたくさんいる。

それだけのことだ。

ブレずにこのまま突き進もう。

そう決心し私はリビングを離れ、お風呂を掃除しに行った。


「はぁー、ねみぃ」

と口にしながら帰りのバスに乗っていた。

そんな俺の様子を隣に座っている颯馬がじっと見て、

「す~ばる。4回しか投げてないのに疲れたとはずいぶんと衰えたな」

と隣で颯馬がいじってくる。

颯馬の表情を見ていると試合前より試合後の方が元気になっている気がする。

長年の友達だからよくわかるのだが、颯馬は朝に弱い。

俺たちがまだ小学生だったころ、寝坊して試合に遅れてくることが度々あった。

中学生になって野球に対しては以前より遥かに真面目になったが、その分学校で寝ていることが増えた……。

そんな奴なので、当然成績は俺以下で先生たちからは不安視されている。


「んなわけあるかよ。まだ14歳だぞ。肌だってピチピチだわ」

と言って颯馬の手を取り俺の頬に持ってきた。

「ほぉ‼確かにピチピチだわな。んじゃ俺のも触る?」

「いや、遠慮しとく」

と真顔で言うと颯馬はしょんぼりした顔をした。

「わかった。触るよ触る。ほら」

と言って颯馬の頬に触れた。柔らかい。いい感触だ。気持ちいい。

「感想は?」

「うーん、柔らかくて気持ちよかったかな」

「だろ~?絶対俺の方が昴のよりいい肌してるな」

と勝ち誇った顔で言ってきたので、

「はいはい」

と言って手を離した。


そうこうしているうちにバスは越智駅の前に着いた。

支倉シニアのグラウンドからの最寄り駅と言ったらここ、越智駅だ。元々大きな駅だけど最近より一層垢抜けたと中学の友達が言っていた。

俺は以前のこの駅を知らない。なんせ東京者だから。


監督はバスから降りてから解散宣言をすると他の通行人の迷惑になるのでと言って、バス内で『お疲れ様、解散』と告げた。

こんな制度を導入しているのは支倉シニアだけだと思うのだが、試合のときウチではベンチ外の選手は球場に来れない。

正式には来れないわけじゃないんだけど、専用バスに乗れないのだ。つまりどうしても見たいと言うなら自費で出向くしかない。

因みに遠征のときは必ず専用バスに乗れる。ただ必ずしも利用する必要はない。例えば遠征先がその選手の地元だったりする場合、わざわざここまで足を運ぶより現地で合流する方がその選手にとっても家族にとっても負担が少なくて済むからだ。

では試合のときベンチ外の選手たちが何をしているかと言うと、それは専用グラウンドでの試合や練習だ。


監督いわく出場機会の得られない選手にも時間を効率的に使って実践力を磨いてほしいとのことだ。

監督にとってスタンドで観ているより実践で技術を磨くことで、3年生の引退後の戦力低下を防ぐことが意図するところなのだろう。

そのため支倉では選手が自ら志望しない限り応援というものがない。

しかし、その代わりに試合のときは出場登録選手の家族には必ず連絡を入れ、可能なら観戦してもらえないかと声を掛けているという。

それでもそれぞれの家族ごとに抱えている事情があるだろうからとのことで強制はしていない。


俺はみんなと別れ、荷物を背負って自宅へと向かった。

すでに18時過ぎになっていたけれど、まだ陽は落ちていなくて周囲は明るさを失っていなかった。これぞ夏。

帰ったらお腹いっぱい食べて寝たい。勉強したくねー。

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