コロア王国の醜聞
2018.06.13 ご指摘ありましたので、修正。
コロア王国王立学園の卒業式にて、一人の女性徒が婚約者とその取り巻きから吊るし上げを受けていた。
「更に、ピュアリを階段から突き落とした! これは、明らかな殺人未遂! 貴様のような罪人を、王太子妃にする訳にはいかぬ! よって、此処に婚約破棄を宣言する! 衛兵達よ! その女を捕えよ!」
第一王子レドルの宣言と命令に、生徒達がざわめいた。
「衛兵達よ! 従ってはならぬ!」
混乱の中、一人の男が鞄を片手に壇上に上がり、そう怒鳴った。
「クルス……! 貴様、その女を庇うか!? 王族に逆らう意味、解っているだろうな?!」
凄むレドルだったが、クロスは逆に怒鳴り付けた。
「黙れ! 偽者め!」
とんでもない事を言い出したクロスに、その場が静まり返る。
「に、偽者だと?! 何を言うか! 無礼者!」
「殿下だけでは無い! 宰相のご子息ブレ・騎士団長のご子息グレーン・魔導師長のご子息イェロ。そして、男爵令嬢ピュアリ。全員偽者だ!」
クロスの荒唐無稽な発言に、先程よりも大きなざわめきが起きた。
「出鱈目を言うな! 衛兵、何をしておるか! 此奴を捕えんか!」
「出鱈目では無い。このテスト用紙がその証拠!」
クロスは、偽者と断じた者達のテスト用紙を掲げた。
勿論、距離と用紙の大きさの問題で、大多数の生徒には何が書かれてあるのか見えはしない。
「それが何だと言うんだ?! まさか、点数が低いのが証拠だとは言わぬだろうな?!」
レドルが言った通り、彼等の成績は、以前より悪くなっていた。
周りはそれを、女に現を抜かしているからだと思っていた。
「まさか、そんな事は言わない!」
クロスはレドルの言葉を否定すると、観衆に向かって語る。
「皆も知っての通り、この国と隣国ロロクは同じ言語を使用している。しかし、全く同じではない。ある言葉が全く意味が違うと言う事が少なからずあるのだ」
その指摘に、レドル達の顔色が悪くなった。
「このテストの回答の半分は、コロアコロア語では不正解だが、ロロクコロア語と考えれば正解なのだ」
「そう言えば、時々、意味が解らない事を言うなと思った」。と、レドル達のクラスメートの何人かが呟いた。
「そ、それは、ロロク語の勉強をしていたので間違えてしまっただけだ!」
レドルは苦しい言い訳をする。
「では、此方の肖像画を見て貰おう」
クロスは、鞄から彼等の肖像画を取り出した。
勿論、距離と肖像画の大きさの問題で、殆どの生徒にはよく見えない。
「レドル様は垂れ目だ。そして、ピュアリ嬢の目は細くない。ブレ殿の耳の形も違う」
クロスは観衆に向けて言う。
「皆も知っているだろうが、変身魔法では、目と耳の形・骨格は変えられない! こいつ等は、変身魔法で殿下達に成り変わったのだ!」
ざわめきが更に大きくなった。
「皆の者、騙されるな!」
レドルが大声を上げる。
「成り変わるなど有りえん! 目の形が違うだの、耳の形が違うだの……。全て出鱈目だ!」
「因みに、グレーン殿は、剣術の流派が違う。開祖の直系子孫のグレーン殿が、流派を替える筈が無い! イェロ殿は、魔力総量が違う。成長期の健康な人間の魔力上限が減少するなど有り得ない!」
「出鱈目だ! 王族の私と伯爵子息のクルス。何方が信用に値するか、よく考えるのだ!」
しかし、観衆の信用は、クロスの方に傾いていた。
何しろ、少なくない人数が感じていた違和感の理由を、クロスが説明してくれたのだから。
「レドル様。貴方が偽物では無いと言うならば、何故、痣を見せようとしないのですか?」
クロスはレドルを挑発する。
「王家には、月の女神の加護が有る。その証に、王族の背には月の形の痣が有ると言うのは、有名な話。さあ、偽者では無いと言うのであれば、証をお見せください」
偽者には、女神の加護の証である痣が無いと思っているのだろう。或いは、ロロク人は、痣の事を知らないと思っているのか?
だが、生憎、レドルの背には月の形の痣が間違い無くある。
「フン。そんなに見たくば、冥土の土産に見せてやろう」
レドルは勝利を確信して上を脱ぐと、背の三日月形の痣を見せた。
「やはり、偽者か」
その言葉と共に壇上に現れたのは、コロア王国国王であった。
「ち、父上?! 何故、此処に!?」
「偽者風情が、父と呼ぶな! 衛兵! この者等をひっ捕らえよ!」
国王の命令に、衛兵達はレドル達に殺到した。
「そんな! 何故だ?! 月の形の痣は?!」
「冥土の土産に教えてやろう」
クロスが嘲笑を浮かべて、理由を教えてやる。
「王族の背に有る月の形の痣は、三日月では無い。レドル様の三日月の痣は、偶然現れたものなのだ」
「そ、そんな……!」
その後の取り調べで、彼等に成り変わりの話を持ちかけて来た女がいる事が分かった。
クリスティーナと名乗っていたそうだが、偽名だろう。
レドル達の遺体は、その女が何処かへと運び去ったと言う。
しかし、目撃者などが見付からなかった為、その女を逮捕する事は叶わなかった。
そもそも、実在しているかも怪しい。
コロア王国は、他にも成り変わっている者がいるかもしれないと調査した。
結果、要職に就いていた者の中に、複数名見付かった。何れも、ロロク人であった。
大国コロア王国は、小国ロロク王国の国ぐるみの犯行と見做し、攻め入った。
そして、王都を占領すると、王族を全て公開処刑した。
それを見届けたクロスは、自宅で独り祝杯を挙げると、二度とコロア王国に戻る事は無かった。
クロスがクルスと呼ばれているのは、間違いでは有りません。