ウサギ詐欺
ウサギと詐欺はよく使われるダジャレだと思います。
しかしウサギが嘘をつくというのはなんともシックリと来てしまうのです。
ウサギは嘘つき、どこで刷り込まれたのでしょうか。
俺はウサギが大好きである。
特に理由があるわけではないが、強いて言うならキュートな鼻が一番好きだ。
何か頬張っているわけでもないのに、常にモヒモヒ動いている。
あの動きが大好きである。
しかしそれは映像でしか見たことがない。
子供の頃ウサギが好きになり、親にねだったことがある。
しかし決まって言うことが、「あなたに世話が出来るの?」だった。
強がって出来ると言うのだが、嘘おっしゃい、で話は終わる。
それ以上ねだれば、餌やら掃除やらちょっと難しい話を聞かされ、「それでも世話が出来るの?」と言われる。
よく分かっていないが、出来ると言うと、「じゃあどう世話をすれば良いのか書いてきなさい」と言われるのだ。
もうこれを言われるとどうしようもない。
ウサギを飼っている友達もいないし、パソコンなんて家には無かった。
書こうにも何を書けば良いのかなんて、分からなかった。
結果、諦めるほか無かった。
それは大人になっても変わらない。
貯金はないし、アパートもペット禁止。
まして、三十路に近い独身の男がウサギを飼うのは非常に恥ずかしい。
同じ理由でペットショップには行っていない。
故に見たことが無い。
そして今に至るわけだ。
正直、生であのモヒモヒを見ることは無いと思っていた。
しかし、目の前に生のウサギがいる。
つぶらな瞳で俺を見ている。
、、、この気を逃す手は無い。
この気を逃せばもう二度と無いかもしれない。
緊張で薄っすらと汗が滲む。
心臓が激しく動く。
変わらずこちらを見続けているウサギに、ゆっくりと手を伸ばそうとする。
しかし、腕の重さに体が潰れそうだ。
ならばと、うつ伏せの状態になり、肘を地面につける。
この体勢なら重みが体にかかることは無いだろう。
ウサギが驚いて逃げる可能性もあったが、逃げはしなかった。
なんという幸運。
まさに好都合、そのままゆっくりと手を伸ばす。
途轍もなく巨大な腕が迫っているにもかかわらず、じっと見つめている。
とんでもなく図太い奴だ。
だが、ますます好都合。
驚かせないように、そっと手が触れる。
一瞬体をビクッとさせた。
しまった万事休すか!?
しかし、触れた手を見つめて、鼻を擦り付けた。
匂いを嗅いでいるのだろうか、実にラヴリーだ。
「ああ、もう我慢できん。」
そのままウサギを掴み上げた。
ウサギはギョッとし、腕の中を暴れる。
しかし全くと言って良いほど、抵抗を感じない。
どうやらこの腕は見た目どうりの力はあるようだった。
暴れるのも気にせず、目の前まで引き寄せる。
暴れるウサギが目の前にいる。
「スゲー可愛い。」
暴れる姿もベリーキュートだ。
しばらくそのまま観察していたが、ウサギも疲れてきたのだろう。
だんだん大人しくなってきた。
そうすると顔がよく見えるようになる。
「可愛い、てか可愛い。」
ハイパーキュートだ。
鼻がモヒモヒしている。
「ウルトラキュートだ。」
映像でも素晴らしかったが、生はさらに素晴らしい。
さっきまでの絶望などなんのその。
そんなものもうすっかり忘れてしまった。
しかし、長く見つめれば、だんだんと熱が冷め冷静になってくる。
いい歳をした化け物みたいな腕のおっさんが、ウサギを捕まえ見つめている。
なんの冗談だ。
端から見れば、怪物がウサギを食おうとしている様にも見えるだろう。
よく考えれば、これは動物虐待になるのではないだろうか。
大人しくなるまで握っている。
これって人に見られたらマズイんじゃないのか。
急いでウサギを逃さなくては。
名残惜しい気持ちを押し殺し、そっと離してあげるとウサギはあっとゆう間に逃げていった。
「達者で暮らせよー!」
逃げたウサギに手を振る。
そして辺りを見回す。
どうやら人はいないようだ。
俺の尊厳は守られた。
これで一安心である。
犯罪というのもあるが、流石に恥ずかしい気持ちが強い。
さっきのを見られたらもう人前では歩けれない。
ガサガサ。
また音が聞こえる。
なんだ、もしかしてさっきウサギが帰ってきたのか?
もしかして俺のことを気に入ったのだろうか。
もしかしたら逃げたのは、追いかけてという振りだったのかもしれない。
これが噂のツンデレか。
可愛い奴め。
「さあ、ほら来い来い。」
そう言いながらチチチと口を鳴らす。
その声に誘われてか、それが姿を表す。
見た目はウサギであった。
しかしさっき奴の倍以上もでかい。
さっきのが標準ならこいつはかなりデカイ猪ぐらいの大きさがある。
それだけでもおかしいが、もっとおかしいのは、その顔にある。
額からは長く鋭いツノがあり、歯もギザギザのノコギリのような物が生えている。
その口は、赤く染まっており、何かが咥えられていた。
そう、耳が長くて、白い体毛の生えた、ウサギのようなものを。
「あ、あ、え?」
上手く声が出ない。
そいつは呆然としている俺に気付いたようだ。
己の口に咥えられた獲物と俺を見比べている。
そうして口からウサギを離した。
「ヒッ!?」
赤い血が飛び散り、顔の前に飛び散った。
どうやら俺を食った方が良いと判断したようだ。
なんだ、何がどうなっている。
なんだこいつは、なんでツノ、いやデカすぎだろ。
なんだウサギか、いや違う、そうじゃない。
そんなことはどうでもいい。
そんなことより大事なのは、そう。
生きるためには、どうすりゃいいんだ。