始まり始まり
始まり始まりと声に出すと、何の違和感もありませんが、字で書いてみると言い得ない違和感があります。
「寒い、、、。」
肌に風が吹き付けるのを感じ、身をよじる。
頬にはチクチクとした痛み、それにこそばゆさが伝わる。
全身を柔らかい植物が覆っている感触。
ほんのりと青臭い匂いが鼻腔をくすぐる。
ゆっくりと目を開く。
周囲には木々が生い茂っており、時折羽虫が飛んでいる。
一瞬、見慣れない景色に疑問を覚えたが、意識がハッキリしてくるにつれ、ついさっきまで起きていたことを思い出した。
「あー、いうーえおー」
確認のため声を出してみる。
問題なく声は出るようだ。
首を少し傾け体を確認してみる。
足はしっかり付いている。体も欠けているところは無いようだ。中身までは分からないが、心配しても仕方が無いだろう。
手を握ってみる。感触に問題は無い。開いてみる。ちゃんと動く。
ひとまずは安心だろう。
五体満足でいるようだし、手に関しては若干の違和感はあるものの、しっかり動く。
「はあぁ、よかったあ。」
体から力が抜ける。
かなりの不安があったが、本当によかった。
体のこともそうだが、どんな人外魔境に送られるのかと戦々恐々としていたのだ。
話では苛烈な世界だと聞いていたが、なんとものどかな土地では無いか。
聞こえるものは木々のせせらぎと風の音、見えるものは風に吹かれ擦れ合う木や草花。
なんというか、そう、平和だ。
蘇る前に生きていた世界でさえ、これほど癒されたことも無い。
それなりに好きなことをして生きてはいたが、何もしないというのは少なかった気がする。
毎朝、早くに家を出て、夕方仕事を終え、帰りにパチ屋に寄り、家に帰れば風呂に入ってスグに寝る。
ギャンブルだけが生きがいだったが、まさか自然がこんなに素晴らしいものだとは知らなかった。
こんなにのどかでは、眠くなってくる。
少し寝るか、とも思ったがこんな森の中で寝るのは流石にマズイと気づいた。
山なんだから、イノシシや熊などがいてもおかしくない。
もしかしたら毒虫に刺されるかも。
そう考えると、少し怖くなった。
夜になる前に森を出た方がいいかもしれない。
そうと決まれば早く移動しよう。
名残惜しい気持ちもあるが、背に腹は変えられない。
眠気を追いやり、体を勢いよく起こした、が。
グキッ、と肩から嫌な音がなり、体を後ろへ引っ張られた。
「あた、イッテえ!!」
咄嗟に腕で体を支えようとするが、腕が動かず、尻餅をつき、勢いのまま倒れ込んでしまう。
「何だってんだよう、くそぉ。」
あまりの痛みについ情けない言葉がでてしまう。
一体何に引っ張られたのだろうか。
今度はゆっくり体を起こす。
やっぱり何かに引っ張られている気がする。
だがそれ以外にも違和感があった。
さっき体の動作の確認をしていた時も感じていた違和感。
腕がなんだか変だ。
何というか、距離感がいつもと違うような。妙な動かし辛さが。
恐る恐る背後を確認する。
そこには腕があるはずだ。
後ろへ倒れ込まないように体を支えている腕が。
腕があるはずなん、、、だ。
「はえ?」
確かに腕がある。
明らかのおかしな腕がある。
記憶にある腕の何十倍もでかい腕がそこにある。
一瞬あまりにでかすぎて腕かどうか悩んだが、やっぱり腕だ。
ただ俺の体より遥かに巨大な腕だった。
腕の付け根へ目を向ける。
自分の肩にたどり着いた。
まぎれもなく俺の腕だ。
どうやら腕が重すぎて、体が引っ張られたようだった。
何だ気をつけなくちゃテヘペロって、、、。
「はあぁぁぁあぁぁ!?」
閑静で美しい森の中に哀れな男の叫びが響き渡った。