選択の洗濯
洗い出しという言葉は洗濯の過程にある言葉だと思っていた時期がありました。
選択を洗濯するとは選択肢を洗い出していく、とゆう事かもしれません。
そうでないのなら意味などない言葉でしょう。
ーーー欲しい物、ですか。
「はい、欲しい物を差し上げます。」
ーーーなんというか、それは良いのですか?そのあたりも規則に引っかかったりはしないのですか?
「はい。輪廻の輪や地獄等の方々は施しを禁じられていますが、無憂園の管理者には適用されません。問題無いのです。」
ーーーなんとゆうか、その、意外と穴がある規則ですね。
「はい。問題が発生するたびに規則を追加していますので、こうゆうことになっているのです。」
ーーーさいですか。
「さいでございます。」
彼はニッコリと笑う。
お茶目な笑顔だと思う。
ーーーあの、何でもというと、お金とか車、とかですか?
「それでも結構ですが、その他にも才能や能力なども出来ますよ。」
ーーー才能は、まあ良いんですけど、能力というのは?
「能力は能力です。それ以上でもそれ以下でもありません。」
ーーーなるほど、、、さいですか。うん。
「さあなんでも仰ってください。」
そう言われても、どうするのが良いのだろう。
新しい車は欲しいが、変わったものを貰いたい気もする。
もういっそ運が欲しいと言った方が良いだろうか。
しかしなんだか勿体無い気もする。
せっかくだから凄いものが欲しい。
「それと選ぶ際に気をつけて頂きたいのが、メリットばかりでは無いということです。」
ーーーそれは、、、つまりどうゆうことですか?
「これもまた規則になるのですが、完璧な物を創ってはいけないというものがあるのです。そしてこれは形の無いものも含まれるのです。」
ーーーへぇー。
「理解できませんか?」
ーーー正直、あんまり。
よく分からず返事も適当なものになる。
完璧なものを作らないとはどういう事だろう。
失敗作を作るのだろうか。
「簡単に言えば、メリットに対してデメリットもあるという事です。そしてメリットが大きければ、デメリットも大きい。」
ーーーハイリスクハイリターンってやつですか。
「はい。その通りです。」
つまりはあれか、あまり凄すぎるものは頼まないほうがいいのだろうか。
ーーー例えばどんなデメリットがあるんですか?
どうにも要領を得ないんですが。
「以前念道力を与えた者がいましたが、手足が無くなってしまいました。」
ーーーは!?
手足が無くなるって、なんでそんな事に!?
「念道力があれば手足が必要が無いと判断したからでしょう。移動するにも物を運ぶにも、念道力で可能ですから。」
ーーーだからって、そんな馬鹿な。それとこれとは話が違うでしょう。
「いいえ違いません。そういう決まりですので。」
ーーーいや、でも、、、えぇー。
「お分かりいただけましたか?」
お分かりいただいたけども。そんな事になるのかよ。
想像の何倍もリスクがでかいじゃねえか。
「はい。それを考慮して決めていただければ。」
ーーー、、、はい。
やべえよ、これはマジでやべえよ。
想像以上にリスキーじゃねえか。
何ならリスクが低いんだ。
いやそもそも受け取らない方が良いのか。
「受け取った方が良いと忠告しておきますよ。あなたの行く世界もかなり苛烈ですので。」
マジかよ、苛烈な世界なのかよ。
あれか、下手な事をしたら強制労働を科せられるとかそんなのか。
どうすりゃ良いんだ。
「あまり深く考える必要はないと思いますよ。」
ーーーいや、考えなくちゃ困るでしょう。随分簡単に言いまけど手足が無くなるなんて嫌ですよ。
「心配しなくとも手足が無くなるのは極端な例です。その方が完璧な念道力を求めたためにとった処置ですので。」
ーーーちなみに完璧じゃない念道力というのは。
「わたしが与えたわけではないので予想になりますが、力加減が出来ないとかではないでしょうか。」
ーーーお?なんだかあんまりリスキーじゃなさそうですね。
「はい。精々、念道力を使った対象が粉々に砕け散るくらいですか。」
いや、かなりリスキーだわ。
てかそれだと念道力で移動できないじゃん。
「完璧じゃないですからそんなものです。」
そんなもんって。
存外、神様も適当だな。
しかし、力を貰う以上使いようがないものを貰っても仕方がないだろう。
日頃から使えるといったら、なんだろう。
イケメンにしてくれとかか?
「身体的な物であればリスクは比較的小さい傾向にあります。整形ですと、だらしない体になるとかですね。」
意外に悪くない返答が来たな。
なるほど、体に関する事か。
「コンプレックスの解消というのもよくある話ですよ。リスクも少ないのでオススメですね。しかしあなたの場合、それだけでは足りないかもしれませんが。」
ーーーそうですよね、苛烈ですもんね。
苛烈だからね、仕方ないね。
でも視点は悪くないだろう。
恐らくだが、強くなる必要があるんだろう。
身体的な物で強くなれるもの。
ーーー例えば力が強くなるなんてどうですか。
「それだと力加減が出来なくなりますね。」
ーーーですよねー。じゃあ部分的だとどうですか?
「いくつか考えられますが、多少なら選ぶ事ができます。」
ーーーたとえば?
「力加減が出来ないもありますし、関節がない、あとはとても大きいとかですね。」
ーーーとても大きいって。
また随分と曖昧ですね。
「私自身、どの程度の大きさになるかは分からないのです。恐らくは、大きくて歩きずらいといった物になるでしょう。」
ーーー気になる言い方ですけど、なんだか悪くなさそうですね。
筋肉がつきすぎると、内腿が擦れたりするらしいし、そんな感覚なのだろうか。
「はい。そういった願いは初めてですが、悪くないかもしれません。」
どうにも彼は肝心なところは分かってないみたいだし、話を聞く限りでは悪くなさそうだ。
これが正解かもしれない。
なら後はどこにするかだが。
足がでかいのはバランス悪そうだ、胸や腹は論外だし、そうなると。
ーーー腕、ですかね。
「腕ですか。良い選択だと思います。それでは、決定ということでよろしいですか?」
ーーーちょ、ちょっと待ってもらえますか。
もう少し考えさせてください。
「構いませんよ、いくらでもお考えください。しかし、この案件は急ぎの必要があるのです。今この瞬間にもあなたの受け入れが減っていっていますので。」
ーーーはっ?
そうなんですか!?
「はい。急がなくては行くあてが無くなってしまいますよ。」
彼は笑顔でそんな事を言ってくる。
そんな事を言われても、どうしよう。
焦らせるような事を言われると、頭がこんがらがってしまう。
これでいいんだろうか、でも他にいいのがありそうだし、いやでも。
ああ、クソッ、急がないといけないのに!
ーーーああ、もう良いです。お願いします。これ以上考えてもまとまりそうにないですし。
「はい、ありがとうございます。それでは確認します。力を強くする、部位は腕、代償はとても大きい、でよろしいですか?」
ーーーはい、よろしいです。
「はい、わかりました。ではそのように。」
彼は何もない空間から手帳を取り出し、何かを書き込んでいく。
「それでは、最後にあなたの名前をここに書き込んでください。」
そういうと目の前に一冊の本が出てくる。
中ほどのページが開かれたそれには、何も書かれてはいない。
「そこにあなたの名前を刻むことで、あなたは死後再びこの世界の輪廻の輪に召喚されます。」
ーーーああ、わかりました。でも腕が無いのですがどうしましょう。
「思い浮かべるだけで結構です。それだけで名前が書き込まれます。」
言われた通り、名前を思い浮かべる。
すると本には黒い文字が書き込まれて行く。
いや文字のようなものであったが、それが何と書いているのか分からなかった。
ーーー変な文字が浮き出てきましたけど、これでいいんですか?
「はい、ありがとうございます。しかし、変な文字だなんて言うものではないですよ。あなたの名前なのですから。」
ーーーはあ、これがですか。読めないんですが、あなたたちの世界の文字ですか?
彼はフフッと笑う。
「いいえ、そうでは無いのですが。、、、いや、そんなところです。」
彼は珍しく言葉を濁した。
なんだかしっくりこないが、まあ別に問題なさそうだし構わんだろう。
ちゃんと出来ているならいいさ。
「はい、これで全ての手続きが完了しました。良ければすぐにでもあちらへお送りしますが、大丈夫でしょうか?」
ーーーじゃあお願いします。
「わかりました。それでは二度目の人生をお楽しみください。」
そういうと、彼はこちらに手を向け、何かが俺の体を通り抜け。
俺の視界はブラックアウトした。