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誰より大きな腕っ節  作者: アルミ3
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堤を包む

堤とは堤防のことです。

そして包むとは読んだままの意味です。


つまりサブタイトルにある堤を包むとは何の意味もない言葉です。

何だか不思議な気分だ。

意識はハッキリしないが、記憶は思い出せる。


つい先ほど俺は吹き飛ばされた。

一瞬しか見えなかったが、恐らくトラックと衝突したのだろう。

衝突の瞬間、視界がスローモーションのように、ゆっくりと流れた。


咄嗟にハンドルを切ろうと思ったが、体までゆっくりとしか動かなかった。

もう間に合わないと直感的に感じ、一抹の希望を込めてトラックの運転手を見るが、視線を下に向けてこちらに気付いてすらなさそうだった。


携帯電話でも見ているのだろう。

交通違反だと言いたいが、俺も脇見をしていたので人の事は言えないだろう。


気づけばトラックはもう胸の辺りまで迫っていた。

ゆっくりと確実に命を刈り取ろうと迫ってくる。


足はすでにバンパーの中へめり込み見えなくなっていた。

ゆっくりと、ゆっくりと体が無くなっていく。


やがて体の全てを包んでいく。

何も見えなくなっていく。


きっと今に意識が途切れてしまうだろう。

そうなれば二度と目覚めることもないのだろう。


今にして思えば、よくこれまで生きることに我慢していたと思う。

これまでの人生、本当に恥の多い人生だった。


学生時代、全くと言って良いほど勉強をしなかった。

数学のレベルは小学校で止まっているし、漢字だってまともに書けない。

授業は居眠りをしているか、眠れなければボーッと外を眺めていた。


そんな奴が碌な高校に行けるわけもなく、県内でも有数の底辺高校に進学した。

それもよりにもよって普通科にである。

大学に行ける頭もなかったから、卒業後には就職したが、専門の資格も持たない俺は就職先も底辺企業だ。


いつまでもこんなところにいてたまるかと考えていたが、気づけばもう10年にもなる。

いつの間にか転職もままならない歳になっていた。


まるで逃げるように実家から出て行き、もう何年も連絡をとっていない。

彼女もおらず、毎晩仕事終わりにパチンコに行く日々。

未来への希望なんてとうの昔に忘れてしまった。


そんな毎日を過ごすうち、1人になると嫌なことばかり考えるようになった。


いつか1人寂しく孤独死を迎えるのだろうか。

誰にも気にされず死ぬのだろうか。

いっそ今のうちに、まだ人が俺を覚えているうちに消えてしまいたい。


そんなことを考えるようになっていた。


よくもまあこんな奴がこれまで生きながらえたものだ。

死ぬのが怖い、そんな理由だけでよく生きてこられたもんだ。


我ながらよく生きてきたもんだ、そう思う。


しかしやっと解放される。

ようやくそんな生活に終わりが来たんだ。

これは俺が望んでいたことだ。

ずっと待ち望んでいたことだ。

何も嘆く必要もない。


本当にそう思っていたはずなんだ。


でもよりにもよって、なんでかわからないけど、今日。

生きていたいと思ってしまったんだ。

たった1日調子が良かったぐらいで、たった1日全て上手くいったぐらいで、たった1日のせいで。

自分が生きていたかったことが分かってしまったんだ。


死ぬのが怖いから生きていたんじゃなくて、生きていたいから生きていることが分かってしまったんだ。


きっと死ねば何も無くなってしまうのだろう。


朝の目覚めの悪さも、制服の汗臭さも、同僚の軽口も、作業長の小言も、現場代理人の怒声も、元請けの労いも。

何も無くなってしまうのだろう。


それは嫌だなと、思った。

どれも大っ嫌いなものばかりだけれど、無くなるのは嫌だと思った。


今日、今まさに、生まれて初めて、明日も生きたいと思った。

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