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第9話  居場所のない子どもたち

 夜の街は、明るすぎた。


 街灯。

 看板。

 ビルの窓。


 すべてが光っているのに、

 安心できる場所が、どこにもない。


 ユウは、フードを深く被って歩いていた。


 管理局の件以降、

 自宅には戻っていない。


 戻れば、

 きっと“話し合い”が始まる。

 そしてその先にあるのは、

 選択の剥奪だ。


 地下駐輪場。


 人の出入りが少ない、

 古いショッピングモールの下。


「……ユウ?」


 声をかけてきたのは、アヤだった。


 隣には、リョウ。

 さらに、見覚えのない二人。


 全員、

 ポケットやバッグを無意識に押さえている。


 そこにあるのは、

 同じもの。


「集まったのは……

 俺たちみたいなの、だけ」


 リョウが言う。


「管理に出さなかった」

「出せなかった」

「……逃げた」


 誰も、胸を張らない。

 誇りもない。


 ただ、

 ここにいる理由が同じだった。


 奥のスペースに入ると、

 それぞれが恐竜を地面に下ろした。


 数は、五体。


 形も、大きさも、

 反応も、すべて違う。


 だが、共通点がある。


 どの恐竜も、

 落ち着いていない。


 鳴かない。

 威嚇もしない。


 ただ、

 周囲のデジタルに

 微細な揺らぎを与えている。


「……これが、

 “野良”か」


 誰かが呟いた。


 管理も、

 最適化も、

 されていない存在。


 危険。

 未完成。

 不安定。


 ――それでも。


「……ここにいる」


 ユウは、恐竜を見た。


「逃げなかった」


 恐竜は、

 ユウの影の中に身を寄せる。


 それが、

 選ばれたからなのか、

 偶然なのかは分からない。


「ルール、決めよう」


 アヤが言った。


「戦わない」

「比べない」

「正解を押しつけない」


 全員が、黙って頷く。


「あと……」


 少し迷ってから、

 ユウが続けた。


「助けない、って選択も認める」


 空気が、張りつめる。


「全部は、守れない」

「誰かを助けたら、

 別の誰かが壊れるかもしれない」


「それでも……

 選ばなきゃいけない」


 誰も否定しなかった。


 それが、

 もう分かってしまった世代だからだ。


 突然、

 遠くでサイレンが鳴った。


 管理局のものではない。

 もっと、日常的な音。


 だが――

 恐竜たちが、一斉に反応する。


『警告:

 周辺データ流、急変』


「……誰か、

 暴走しかけてる?」


 リョウが、声を低くする。


 違う。


 ユウは、

 肌で感じていた。


「……街だ」


 街そのものが、

 不安定になっている。


 管理下の事故。

 隠された障害。

 見えない歪み。


 それが、

 あちこちで滲み出している。


 恐竜たちは、

 それを“感じ取っている”。


 助けたいわけじゃない。

 壊したいわけでもない。


 ただ、

 影響を受けてしまう。


「……俺たちさ」


 リョウが、苦笑する。


「世界から、

 はみ出たんだな」


「最初からだよ」


 アヤが言う。


「ただ、

 今までは見えなかっただけ」


 ユウは、恐竜を撫でた。


 撫でても、

 落ち着く保証はない。


 それでも、

 手を離さなかった。


「ここは、

 長くはいられない」


「うん」


「でも……」


 ユウは、仲間を見る。


「一人じゃない」


 その言葉は、

 希望というより、

 確認だった。


 恐竜たちは、

 それぞれ違う方向を向いている。


 同じ未来を、

 見ていない。


 それでも――

 同じ場所にいる。


 それだけで、

 今は十分だった。


 その夜、

 管理局のモニターに、

 新しい表示が現れた。


 《未管理個体群、確認》


 《集団行動、開始》


 誰かが、呟く。


「……予測外だ」


 管理できないのは、

 恐竜だけじゃない。


 選ばなかった子どもたちも、

 もう、想定の外にいる。


 世界は、

 静かに、

 だが確実に、

 別の段階へ進んでいた。

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