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第8話  管理下の静寂

 ニュースは、静かすぎた。


『本日未明、某研究施設にて小規模なシステム障害が発生しましたが、人的被害はありません』


 それだけ。


 映像も、詳細もない。

 ただ、淡々としたアナウンサーの声。


 ユウは、画面を睨んでいた。


 ――小規模なはずがない。


 デバイスが、微かに震えている。


『未公開データ波、検出』


 距離は遠い。

 だが、確かに“感じる”。


 あそこだ。

 管理局の施設。


 同じ頃。


 白い部屋の中央で、

 一体の恐竜が固定されていた。


 名前はない。

 管理番号だけが、表示されている。


 《D-031》


 天井から伸びるケーブル。

 全身に走る光のライン。


「安定率、98%」


 研究員の一人が、安堵の声を漏らす。


「やはり、

 管理下なら問題ない」


 別の研究員が、モニターを見る。


 波形は、美しい。

 揺らぎがない。


 ――揺らぎが、なさすぎる。


「……感情反応、低下してませんか」


 若い研究員の問いに、

 上司は首を傾げた。


「不要だろう。

 感情は、暴走の原因だ」


 恐竜が、

 小さく身を震わせた。


 だが、それは

 記録されなかった。


 ノイズが、出ていないから。


 次の工程。


 恐竜に、

 “最適化データ”が流し込まれる。


 家庭環境。

 生活リズム。

 人との距離。


 すべてが、

 平均化されていく。


「これで、

 個体差はほぼ消える」


「事故は、起きない」


 研究員たちは、

 それを“成功”と呼んだ。


 だが――


 恐竜の内部で、

 別の波形が生まれていた。


 抑え込まれた揺らぎ。

 行き場を失った反応。


 それは、

 暴走ではない。


 停滞だ。


 警告音が鳴る。


 《エネルギー循環異常》


「出力を下げろ」


「もう下げてます!」


 恐竜の光が、

 一瞬、消えた。


 次の瞬間。


 施設全体のモニターが、

 同時にブラックアウトした。


 音が、消える。


 無音。


 研究員の誰かが、呟いた。


「……止まった?」


 違う。


 止まったのは、

 恐竜じゃない。


 施設の外。


 信号。

 通信。

 衛星リンク。


 管理局のシステムだけを避けるように、

 周囲のデジタルが、沈黙していく。


 恐竜は、動かない。


 だが、

 “影響”だけが、広がる。


「な……なんだ、これは……」


 恐竜のデータログに、

 見たことのない表示が浮かんだ。


 《状態:拒否》


 誰かが叫ぶ。


「暴走じゃない!」

「命令を、

 受け取っていない!」


 その頃、ユウは、

 膝の上の恐竜を抱いていた。


 胸が、ざわつく。


 理由は分からない。

 でも――


「……今、

 “選ばなかった”だろ」


 恐竜は、答えない。


 ただ、

 いつもより少し強く、

 ユウに寄り添っている。


 デバイスが表示を変える。


『同種個体、

 管理下にて異常進行』


『分類不能状態』


 ユウは、息を呑んだ。


 暴走じゃない。


 戦ってもいない。


 ただ、従わなかった。


 翌日のニュース。


『管理局施設での障害について、

 現在、原因を調査中です』


『恐竜個体は、

 安全に保管されています』


 その言葉を、

 ユウは信じなかった。


 “安全”という言葉が、

 どれほど脆いかを、

 もう知っている。


 恐竜は、

 管理できる存在じゃない。


 管理しようとした瞬間、

 別の形で世界に影響する。


 それが、

 この生命の在り方だ。


 ユウは、

 静かに覚悟した。


 もう、

 選択を誰かに預けることはできない。


 次に世界が揺れるとき、

 それはきっと――

 誰かが正しかったから起きる。

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