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第7話  選んだ子、選ばなかった子

 管理局からの通達は、

 思っていたよりも早かった。


 ――三日後までに、意思を示せ。


 それが、ユウに与えられた猶予だった。


 放課後の校舎裏。

 人の来ない場所に、数人の生徒が集まっていた。


 ミサキはいない。

 もう、ここには来られない。


 代わりにいるのは、

 目の下に隈を作ったリョウと、

 無言でデバイスを握りしめるアヤ。


「……協力、するってさ」


 リョウが、先に口を開いた。


「管理局に恐竜、預けた」


 空気が、重く沈む。


「安全だって。

 設備も、人も、全部そろってるって」


 ユウは、何も言わなかった。


 アヤが、ぽつりと呟く。


「……うちのは、

 昨日、安定化した」


「管理下で?」


「うん」


 一瞬、

 ユウの胸が、揺れた。


 ――正しいのは、どっちだ?


「でもさ」


 リョウが、視線を逸らす。


「返ってこないんだ」


「……え?」


「“検査中”って」

「会わせてもくれない」


 その言葉で、

 答えのない疑問が、形を持つ。


 その夜。

 ユウは、自室で恐竜と向き合っていた。


 恐竜は、以前より少しだけ大きくなっている。


 だが、

 安定しているわけではない。


 時折、

 デバイスが微かに震える。


『予兆:低度』


 低度。

 それでも、ゼロではない。


「……もし」


 ユウは、声を落とす。


「俺が、

 手放したら」


 恐竜は、反応しない。


 ただ、

 ユウの影の中に身を寄せる。


 それが、

 “信頼”なのか、

 “依存”なのか、

 ユウには分からなかった。


 翌日。


 管理局の車が、

 校門前に止まっていた。


 何人かの生徒が、

 順番に呼ばれていく。


 泣いている子もいる。

 無表情な子もいる。


 戻ってきた子のポケットは、

 軽くなっていた。


 ユウの番が、来る。


 会議室。

 あの男が、また座っていた。


「決まったかな」


 穏やかな声。


 机の上には、

 契約書。


「これは、

 君を守るための選択だ」


 ユウは、

 デバイスを机に置いた。


 だが――

 離さなかった。


「……質問していいですか」


「もちろん」


「管理下で、

 暴走は、ゼロになるんですか」


 男は、少し黙った。


 それだけで、

 答えは十分だった。


「……ゼロにはならない」


「だが、被害は抑えられる」


「統計上は、ね」


 ユウは、頷いた。


「じゃあ」


 そして、

 静かに言った。


「俺は、

 渡しません」


 空気が、止まる。


「……理由は?」


「分かりません」


 正直な言葉だった。


「でも、

 ここにいるより」


 ユウは、デバイスを胸に引き寄せる。


「俺のそばにいた方が、

 この子は、

 まだ“迷える”」


 男は、ため息をついた。


「それは、

 非常に危険な考えだ」


「……かもしれません」


「だが、

 それを選ぶのが、

 俺です」


 沈黙。


 やがて、男は言った。


「……分かった」


「だが、覚えておきなさい」


「君が次に何かを壊したら、

 我々は、強制的に介入する」


 ユウは、立ち上がった。


「その時は……

 逃げません」


 それが、

 勇気なのか、

 無謀なのか。


 まだ、分からない。


 その夜。


 街の遠くで、

 またノイズが走った。


 別の場所。

 別の恐竜。


 ユウは、

 自分の選択を、

 まだ誇れなかった。


 ただ――

 戻れなくなったことだけは、

 はっきり分かっていた。


 恐竜が、静かに鳴く。


 その音は、

 励ましでも、

 約束でもなかった。


 ただの、存在証明だった。


 世界は、

 分かれ始めている。


 選んだ子と、

 選ばなかった子に。

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